表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

灯里の思惑

「じゃあ、灯里、パパ、行ってきます」

 翠先生が名残惜しそうに言った。

『ママ、いい子にして待ってるから、三ダメトリオに負けちゃだめだよ!』

「灯里、何か、真顔だけどどうしたの?」

 翠先生が、灯里に笑いかけた。

「いい子にして待ってるから、三ダメトリオに負けちゃダメって……いてててて」

 言ったそばから俺は翠先生にほっぺたをつねられた。

「勝手に『翻訳』しない!」

 思わず勝手に『翻訳』してしまったことを反省していると、「まあ、今日は朝から元気が出たから良しとするわ」と、先生はパッと手を離した。

 そして、灯里に向かって「ママは強いから、大丈夫!」と再び微笑んで翠先生は出かけて行った。


 さて、ここからは、毎日おなじみ灯里のママロスタイムが始まる。

 しかも、今日からは荘太が来ないから、俺一人で灯里をなだめなければならない……。

 ……って、あれ?

 灯里がおとなしい。

『どうしたの、パパ?このあとは朝ごはんの後片付けとお洗濯じゃないの?おんぶでもいいよ?』

 しかも俺の仕事まで把握してる!


 そこからも、一日、とても順調に時が過ぎていった。

 翠先生がいなくても、荘太がいなくても、灯里と二人きりで、楽しく過ごすことができる!

 荘太がいなくても、ちゃんと灯里はお利口だ!

 どうだ、荘太!見たか!って、いないんだった。


 そして、夕方になり、インターホンの音がした。

「明おじさん、灯里ちゃん、こんばんは」

 ドアを開けると、そこには、荘太と荘太のおばあちゃんがいた。

『荘ちゃん!』

 ドアを開けた瞬間、灯里の顔が今日一番輝いた……気がする。

 気のせいと言うことにしよう。

『荘ちゃん、私、ちゃんと一日お利口にしてたよ!ご褒美の抱っこ!』

 灯里が荘太に向けて手を伸ばした。

 ん?ご褒美の抱っこ?

『灯里、お利口にしてたのか、本当は抱っこしてあげたいけど、今日はばあちゃんもいるから、ぎゅーだけでもいいか?』

『いいよ!ぎゅってして!』

「明おじさん、ちゃんと、手洗うから、灯里ちゃん、ぎゅってしてもいい?」

 灯里が期待のまなざしで俺を見つめる。

『パパ、いいよね?』

 そんなキラキラした目で見られて、ノーと言えるはずがない。

「どうぞ」

 今日は、ちょっと、翠先生と俺に相談したいことがあると、荘太のおばあちゃんもうちに上がって翠先生を待つことにした。


「灯里ちゃん、ぎゅー!」

『ぎゅー!』

 荘太のおばあちゃんが怒りださないよう、俺は、近くでその様子を見守らされていた。

 何が悲しくて、俺の愛しい娘と、宿敵の熱い抱擁を間近で見つめなければならないのだろうか?

『荘ちゃん、あのね、私、荘ちゃんに褒めてもらってぎゅーしてもらうために、今日は一日全部我慢したよ!』

 え?

 全部?

 俺の頭が真っ白になっていたころに、「ただいまー!」と、翠先生の明るい声が玄関に響いた。

「お邪魔しております」

「あ、志乃さん、こんばんは!」

 翠先生は、そう言った後、いまだに熱い抱擁を続けている荘太と灯里を見た。

「あら灯里、大好きな荘ちゃんにぎゅってしてもらってるの?よかったね!」

『でしょ!』

 灯里のどや顔を見た翠先生は、荘太のおばあちゃんの方に向き直った。

「志乃さんがここに来たってことは、また、出張とかですか?」

「そうなんです。またしばらく私が不在になりますので、お願いできないかと……」

 そう言った志乃さんこと荘太のおばあちゃんは、俺の方をちらりと見てから言った。

「翠先生は、職場復帰なさっているのですね」

「そうなんです。だから、荘ちゃんのお勉強を見るのは難しくて……」

 翠先生も俺の方をちらりと見た。

 なぜかはよくわからないが、何だか重苦しい空気が流れた。


「お邪魔します」

 重苦しい沈黙を破ったのは、玄関から聞こえてきた声だった。

「あれ?雅之君、どうしたの?」

 扉から入ってきた人物を見て、翠先生が言った。

 雅之の後ろには、見たことのない女性がいる。

「翠さん、こんばんは!荘太君に事情を聞いて、僕達で役に立てないかと思って……」

 で、後ろの女性は?誰?

「あ!有希(ゆき)ちゃん、こんばんは!」

 翠先生、知り合い?

「翠さん、こんばんは、お邪魔します」

 有希ちゃんと呼ばれた女性は、翠先生に朗らかに答えると、俺の方を見て、少し困惑した顔で雅之を振り返った。

 その視線に気付いた雅之が、俺と有希ちゃんを交互に見て、首をかしげた。

「あれ?兄貴にも紹介しなかったっけ?」

 俺は首を横に振った。

「え?雅之君のお兄さん??」

 今度は有希ちゃんが、俺と雅之を交互に見た。

 確かに、あまり見た目は似てないからなぁ……。

 ぼんやりしている俺の目を見て、有希ちゃんはにっこり微笑んで言った。

「お義兄さん、はじめまして!雅之君の婚約者の及川有希(おいかわゆき)です!」

「え?こ、こここ、こここここ、婚約者?」

「あ、声は似てますね!」

「よく言われます、てゆーか、こ、ここ、婚約者??」

 動揺を隠しきれない俺の耳を、

「お二人の様子を見てお気づきにならなかったのでしょうか?」

という、荘太のおばあちゃんの呟きと、

「明くんだから仕方ないです」

「明おじさんだからどうしようもないです」

という、翠先生と荘太の声が通り抜けていった。

 全然関係ない話ですが、いや、多少は関係ある話ですが、こんにちは赤ちゃんシリーズは、何だか描写が少ないなと不意に思い至りました。

 しかしながら、主人公の観察力のなさを考えると、精密な描写は難しいなと思いました。

 というわけで、初登場の雅之君の婚約者の外見描写が全くありません!

 たぶん、雅之君にお似合いの美女なんじゃないかと思います。

 皆さんの心に思い描く姿が正解です!

 ということにさせてください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ