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いきなりライバル降臨

 ええ、続いていますとも。

 笹岡の育休が終わるところまで続く予定なのですが、現段階で育休初日と言う……。

 先が思いやられて仕方がないですね。

「じゃあ、行ってくるね」

『ママー!寂しいよ!』

 灯里(あかり)が泣き出した。

「寂しいそうです」

「ママも寂しいよ、ママもお仕事頑張るから、灯里も頑張ってパパとお留守番しててね」

 パパとお留守番って頑張ることなのか?

『うん、頑張って我慢する!』

 パパとお留守番って、我慢が必要なのか?

「明君、後はよろしくね!」

 そう言うと、翠先生は玄関から出て行った。


 そして5分後……。

『ママがいないよ!寂しいよ!』

 灯里が泣き叫んでいた。

 ミルクとかおむつとかは俺でもなんとかなるのに、ママがいなくて寂しいは、さすがに俺でもなんともできない。

 それでも、そうは言ってもいられないので、ひたすら抱っこしてあやしていた。

 その時だった。

 玄関の鍵が開いて、扉が開く音がした。

 翠先生、忘れ物だろうか?

 そう思って、灯里を抱いたまま玄関のほうへ歩み寄った。

『あ!』

 灯里がドアから入ってきた人物を見て泣き止んだ。

「灯里、泣いてたのか?」

 ドアから入ってきたのは、翠先生ではなく、荘太だった。

「え?何で、荘太が?」

「春休みだ」

 翠先生の職場復帰初日である今日、4月1日はまだ、幼稚園は春休み中だったか。

「幼稚園が始まるまでに、灯里との楽しい過ごし方を伝授してやるよ」

 なんで俺が!しかも荘太から、上から目線で伝授されなければならないんだ!


『パパ面白い!』

 夕方になるころには、俺は灯里を笑顔にできるようになっていた。

「ホントだな、パパ、面白い顔してるな」

 今、特に変顔とかしていなかったはずだが……。

 無邪気に笑う灯里の隣で微笑む荘太から少なからず悪意を感じた。

「ていうか、荘太、さりげなくパパとか呼ぶんじゃない!」

「仕方ないだろう、灯里が、ササオカだと誰のことを言っているかわからないって言うんだから」

「そうか、でも、じゃあ、明お兄さんとか……」

「じゃあ、明おじさんで」

『パパはまだおじさんじゃないよ!』

 灯里!さすが俺の娘……?

「ん?まだ?」

『雅之お兄さんが結婚して、子供が生まれたらおじさんになるんでしょう?』

 灯里に正論で諭されて、俺がぐうの音も出ないでいると、鍵の開く音が聞こえた。

「ただいま!灯里お利口にお留守番できたのね!荘ちゃんありがとう!あ、あとパパも!」

 翠先生!何か、俺すごい付け足された感があるんですけど!

『ママ、おかえり!だっこ!』

 灯里がすがるように翠先生に抱っこを要求すると、翠先生は、「ちょっと待ってて!」と手を洗いに行った。

『ママ、お仕事疲れたの?何かいつもより疲れてる』

 翠先生は、あうあう言葉にならない何かをしゃべる灯里をじっと見つめた。

「翠先生、今日、疲れてるんですか?」

「ん?まあ、復帰初日だしね、そんなに疲れた顔してた?」

「いや、灯里が……」

「そっかぁ、灯里、私の疲れを察することができるなんて、さすが我が愛娘ね!」

 それを聞いて、灯里がはにかむように微笑んだ。

「灯里かわいい!仕事の疲れが癒されるわぁ!」

「今の写真撮っておけばよかった!」

「パパ、そういう大事なことはもっと早く思い出してよ!灯里、さっきの顔、もう一回!」

『もう一回っていわれても、どうやったかわかんないよ……』

 灯里はさっきと違ってやや困惑した表情になった。

「その顔じゃないけど、困ってる顔もかわいいから許す!」

 そう言って翠先生がカメラを出そうとしたとき、

「どっちもバッチリ撮っときましたよ」

と、猫かぶりモードの荘太がカメラを片手に満面の笑みを浮かべていた。

「荘ちゃんさすが!」

『荘ちゃんさすが!』

「え?いつの間に?」

『灯里がかわいい顔をしそうな気配に気づけないとは、笹岡もまだまだだな』

 荘太は、俺にしか聞こえないように『声』で毒づいた。


『荘ちゃーん!抱っこ!』

 灯里にせがまれて、荘太が、灯里に手を伸ばした。

 そして、荘太が抱っこした次の瞬間、玄関の扉が開いた。

「まあ、赤ちゃんを抱っこさせて、荘太さんの腕に何かあったらどうしてくれるのですか?」

 入ってきた荘太のおばあちゃんに俺がにらまれた。

『別に荘ちゃんに抱っこしてもらったっていいじゃないの!おばあちゃんのケチー!』

 灯里は不服そうにうなった。

『まあ、灯里、落ち着け』

 荘太は、灯里をなだめながら言った。

「おばあちゃん、僕が灯里ちゃんを抱っこしたかったんだ。それに、灯里ちゃん、軽いから平気だよ」

「荘太さんがそうおっしゃるなら、仕方ないですね」

『灯里、ばあちゃんにも笑いかけて』

『荘ちゃんが言うなら、仕方ないなぁ』

 灯里はにっこり微笑んだ。

「あら、笑ったら多少は可愛らしいじゃないの」

『多少はって何?荘ちゃんとかママとか、あと、パパも、すっごくかわいいって言ってくれるのに!』

『灯里、顔』

『あ!』

 荘太に言われて再び笑顔を取り繕ったものの、灯里と荘太のおばあちゃんの間に静かに火花が散っているようだった。


「お邪魔しました!」

「ではまた明日もお願いしますね」

 荘太のばあちゃんが翠先生に言うと、灯里の顔が晴れやかになった。

『また明日な、灯里』

『うん、明日も荘ちゃんに会えるの楽しみ!』

『あ、笹岡も、また明日な』

 ついでのように言われながら、何だか俺は先が思いやられる思いだった。

いときりばさみのよくわからない人物紹介(前回から引き続き出ている人物は省きます)

・灯里…笹岡と翠先生の子供。まだ0歳。

・荘太…笹岡がNICUに配属された当初にNICUに入院していた。当時の記憶も覚えていて、『声』が聞こえるし話せるハイスペック男子。4歳とは思えないハイスペック具合は話の中に要所要所織り込めたらとは思っています。母親が祖母がいないところで、荘太にだけ暴力をふるうため、祖母が外出する日は、笹岡の家か雅之の家に避難している。

・雅之お兄さん…笹岡の弟。ちなみに全然関係ないが笹岡(主人公)の下の名前は明。

・荘太のおばあちゃん…本名中山志乃。とても厳しいおばあちゃんであったが、荘太の笑顔(猫かぶり)に懐柔されて、いいおばあちゃんになった。しかし、荘太がお勉強をしに行っているはずの笹岡家で、灯里の育児の手伝いをしていることには若干の抵抗があるらしい。

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