リセットバースデー
何とも清々しい朝だ!
俺は、窓の外を見た。
あ、まだ暗い。
だが、今日の俺は、早起きして万全に整えておくと決めているんだ!
なぜなら、今日は、愛しい灯里の記念すべき1歳の誕生日だ!
まだ早朝だったので、翠先生を起こさないようにこっそりベッドから抜け出すと、朝食の下ごしらえを始めた。
そして、朝食の下ごしらえを終えた俺は笑みを浮かべた。
とうとう、半年間我慢したアレを作る時が来た!
「明くん、早いね」
翠先生が起きてきた。
いつの間にかちゃっかりたくあんを手に持っている。
「もしかして、ケーキ作ってるの?」
「はい、荘太と二人で考えたレシピです!」
「そっか、期待してるね!」
翠先生はふわっと微笑むと、たくあんを口の中に放り込んだ。
「じゃあ、私も手伝っちゃおうかな?」
「あ、ありがとうござ……」
『ママもパパもいなーい!』
翠先生が手伝う前に、灯里が泣き出して、翠先生は灯里のもとへと駆け出して行った。
俺も、キリがいいところまでやると、灯里のもとへと駆け付けた。
「灯里、1歳のお誕生日おめでとう!」
「灯里、お誕生日おめでとう!」
『わ!今日、もう、お誕生日なんだ!』
灯里は少しだけきょとんとしていたが、すぐに『おなかすいた!』と言った。
「朝ごはん、すぐ用意するぞ!」
翠先生が出かけてからは、ごく普通の日常に、戻っていた。
本当は1歳の誕生日を記念していろいろしてあげたいけれど、翠先生がいないところで、灯里のお祝いをすると、翠先生が不機嫌になってしまうからだ。
それでも、灯里が産まれた時には一緒にいられなかったことを思うと、こうして一緒にいられる今は幸せだ!
俺は、いつも通りの家事の合間に、灯里も食べられるお誕生日ケーキの作成をしていた。
灯里は、最近、お歌の絵本にはまっていて、お利口に一人で遊んでいる。
出来上がったケーキを冷蔵庫にしまったころ、ちょうど荘太を迎えに行く時間になった。
「灯里ちゃん、お誕生日おめでとう!」
荘太もちゃっかり灯里の誕生日を覚えていたようで、開口一番、灯里に告げた。
『ありがとう!』
今日は、荘太のおばあちゃんの了解を得て、お勉強はお休みで、我が家で灯里の誕生日パーティーを行う事になっている。
「あ、兄貴!俺たちも、今日、行っても大丈夫?」
荘太を連れて帰路につこうとしたとき、ちょうど、雅之と有希ちゃんが現れた。
「もちろん!」
「私も、灯里ちゃんに、プレゼント持ってきました!」
『ねえねえ、荘ちゃん!』
灯里がベビーカーの中から荘太に『話し』かけた。
『どうした?灯里』
荘太はにこにこして歩きながら『声』で返事した。
『今日ね、やってみたいことがあるから、聞いててね!』
灯里はそれだけ『言う』と、上機嫌にしていた。
皆で帰宅して、翠先生も帰ってくると、いよいよ、灯里のお誕生日パーティーの始まりだ。
灯里の大好物と、いつもよりちょっと豪華な料理と、ケーキを囲んでみんなで灯里の1歳の誕生日をお祝いした。
宴もたけなわになったころ、灯里が荘太の方を見た。
『ねえねえ、荘ちゃん、言ってみるから聞いててね』
そして、灯里が、言葉を発した。
「とーたん!」
灯里が!
父さんって言った!!!!
ママよりも荘太よりも先に父さんって言った!
思い起こせば、灯里が産まれた時も一緒にいられなかったし、育休を取って毎日一緒にいたのに、初めての寝返りも、お座りも、はいはいも、つかまり立ちも、皆荘太の前でやっていたけれど。
灯里が最初にしゃべった言葉は間違いなく「父さん」だ!
どうだ!見たか?荘太!
ところが、俺に先を越されたはずの荘太は、そんなこと全く意に介することなく、灯里と遊んでいる。
灯里もキャッキャとはしゃぎながら荘太と遊んでいる。
父さんって呼んでおきながら、荘太と遊んじゃう辺りが、翠先生に似て小悪魔だな!
はいはいとつかまり立ちの記念すべき時は、寝返りやお座りと同様、笹岡のあずかり知らぬところで、荘太がその瞬間を見ていたので、割愛してしまいました。




