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ハーフバースデー

「明くん、こんな早くにどうしたの?」

 早朝から起きている俺に目をこすりながら翠先生が言った。

「だって、翠先生、今日が何の日かわかってますか?」

 翠先生は一瞬、きょとんとした顔をした。

「あ、あー、うん、わかってるわかってる!」

「灯里のハーフバースデーですよ!」

「あ、そっちか!」

「そっちかって、何だと思ってたんですか?俺たちの結婚記念日は来月ですよ!」

「わかってるよ!」

 翠先生はふくれっ面をしながらキッチンに入ってきた。

「あ、明君、一応言っとくけど、いくらハーフバースデーでも灯里にケーキはまだ早いからね」

「うっ!」

 見透かされた!

「私たちが美味しく食べる分は作っても良いよ!」

 ……作れってことですね。はい。

 灯里用のケーキ作りをあきらめた俺は、朝食の準備をはじめ、翠先生は「まだ早いから、もう一眠り……」と寝室へと戻っていった。


 朝食の準備が整ったころ、灯里が目覚めた気配を感じた。

『パパ、おはよう!』

「灯里!今日は灯里が産まれてちょうど半年、ハーフバースデーだよ!ハーフバースデーおめでとう!」

『そうなんだ、ありがとう!』

 はにかんだように微笑む寝起きの灯里が可愛すぎる!

「灯里!かわいい!!!」

『パパ、やめてー!』

 おもわずおでこにチューしようとした俺は思いっきり拒否された上に泣かれてしまった。

「あれ、灯里、朝からどうしたの?」

『パパがヘンタイ!』

「この感じは、明くん、何かやらかした?」

「え?いやその、あ、朝ごはんできてますよ!」

 翠先生は、俺を不審そうに見つめた後、「まあ、明くんの行き過ぎた親バカは今に始まったことじゃないから」と、言いながら、灯里を抱っこした。

 い、行き過ぎた親バカって!


「今日は、俺が灯里に離乳食を……」

『ママが食べさせて!』

「もうちょっと灯里がペースをつかむまではダメ!」

 灯里にアツアツの離乳食を食べさせた一件以来俺は、まだ灯里に離乳食を上げられていない。

 翠先生だって、赤ちゃんに離乳食を上げた経験などないはずなのに……。

「明くん、一言言っていいかしら」

 灯里用に用意した離乳食の器を手に持った翠先生が、俺の方を振り返った。

 まさか、俺の作った離乳食に何か不備が?

「明くんも灯里にいつか離乳食を上げたいなら、そんな離れたところで不貞腐れてないで、近くで見たほうがいいと思うよ」

 翠先生に言われて初めて、俺はすごく遠巻きにいたことに気づいた。

 荘太が離乳食を上げているのを見て嫉妬に狂わないように遠巻きにする癖が翠先生の時にも発揮されてしまったようだ。

「はい、灯里、あー」

 俺が近くに来たのを確かめた翠先生が、小さなスプーンにご飯を少量載せて、灯里の口に入れた。

「ん!上手!」

『パパのごはんおいしいよ!』

「お、灯里、もう一口行ってみる?あー」

『あー』

「ん、上手に食べれたね!」

『もういい!』

 翠先生が空になったスプーンを灯里の口元にもっていくと、灯里は口を閉じたままわずかにうなった。

「あ、もうよさそうだね、じゃあ、パパ、ミルクあげて!」

「あ、ミルク!はい!」

 俺は慌ててミルクを用意した。


 ミルクを用意して戻ってくると、翠先生が、時計をちらりと確認して俺の隣にやってきた。

「明くんは、NICUで慣れてて、ミルクを上げるのも、おむつを替えるのも上手だし、料理も上手だからすごいと思うよ」

 何か褒められた!

「でも、明くんは、灯里の一番になりたいの?私や、荘ちゃんを出し抜いて、一番になりたいの?」

 翠先生は、俺の顔をのぞき込んだ。

「え?」

 俺は、ここ最近の俺を思い起こした。

 俺は、確かに、灯里の一番になりたいと一生懸命になっていた。

 荘太や、翠先生にも負けるものかと思っていた。

「私も、荘ちゃんも、明くんも、灯里を育てるって目標は一つのはずでしょう?」

 翠先生に見つめられて、俺はうなずいた。

「私も、明くんも、もちろん荘ちゃんも、子育ては初めてなんだから、皆で協力し合えばいいと思うのよ」

 俺がうなずいたのを見ると、翠先生は、微笑んだ。

「だからね、肩の力を抜いて、荘ちゃんが、調べたり聞いたりした知識をどんどん教えてもらっちゃえばいいと思うよ」

 翠先生は再び時計を見ると、「明くんなら、きっとできるから!」と、言い残して出て行った。


 灯里と二人で残された俺は、考えた。

 確かに、俺たちは、灯里という尊い存在を育てるという一つの目標のもとに生きる運命共同体なんだ!

 だから、荘太といがみ合っている場合じゃない!

 俺は、灯里が眠っている間に、灯里がより過ごしやすいように念入りに掃除をし、大人が食べる用のケーキを用意し、灯里のおなかの負担にならないようにいつもと同じ離乳食を用意した。

 すべての準備が整えると、俺は、灯里をベビーカーに乗せて出かける準備を始めた。

 荘太の幼稚園バスがそろそろ来る時間だ。

 まだ、荘太のおばあちゃんが出張中なので、幼稚園バスから出てきた荘太を雅之の家まで連れて行くことになっているのだ。

 確か予定ではそろそろ荘太のおばあちゃんの出張が終わる頃だったとは聞いているが、公園に荘太のおばあちゃんが現れなかったということは、もう少し先だっただろうか?

 荘太と合流したころに、雅之と有希ちゃんが現れた。

「あれ?二人で迎えに来たのか?」

「兄貴、何言ってるの?今晩中山さんが迎えに来るから、今日は、兄貴の家で待ってる予定だよ」

「あ、そうだったか」

 全員で連れ立って、俺の家に帰宅した。

 ほぼ同じタイミングで、翠先生が帰ってきた。


「『荘ちゃん、お誕生日おめでとう!』」

 そして、翠先生が帰ってきたのを皮切りに、翠先生と、雅之、有希ちゃん、そして灯里が同時に言った。

「え?荘太、誕生日?」

「明くんは、NICUで一緒にいたから覚えてると思ったんだけど……」

 翠先生が俺の反応を見て、申し訳なさそうに言った。

「灯里も、ハーフバースデーおめでとう!」

 荘太が、灯里に言うと、灯里が嬉しそうに笑った。

「あ、荘ちゃん、これ、私から!」

「僕達からは、これ!」

 皆、ちゃっかりプレゼント用意してる!

 俺、何も……あっ!

 不意に思いついた俺は、冷蔵庫の中のケーキを取り出した。

 ……。

 ……………。

 やばい、めいっぱい、灯里ハーフバースデーおめでとうって書いてある……。

 残っていたチョコペンで、荘太誕生日おめでとうと書き足したが、完全に付け足した感がある!

「お、俺も、ケーキを……」

「今日は、おばあちゃんが迎えに来て、家で食べるので、ケーキは遠慮させていただきます」

 しかも丁重に断られた!

「あ、でも、俺からのプレゼントが……」

「じゃあ」

 そう言った荘太は灯里のおでこにキスをした。

「きゃっ!」

 その優雅なしぐさに有希ちゃんが赤面した。

「誕生日プレゼントはこれで」

『きゃー、荘ちゃんからキスされちゃった!』

 灯里、パパの時と反応が違うじゃないか!

 うなだれた俺に、荘太が『悪いな、笹岡』と言って微笑んだ。


 やっぱり、荘太はライバルだ!

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