白うさぎ
「ちょっと待ってー」
アリスが村外れのポストまでたどり着くと、そこではまさに郵便屋さんがポストの手紙を回収している最中だった。郵便屋さんと言っても叔父夫婦の息子、つまりはいとこなのだが。
「間に合ったあ」
ここまで全速力で走ったせいで息が切れてしまい、少し過呼吸気味だ。
「なんだ、アリス。まだ手紙出してなかったのか?」
同い年のいとこ、ロウリーがその金色に輝く短い前髪をかき上げながら尋ねる。
「だってほら、これがお父さんに出す最後の手紙でしょ。そう思ったらなかなかペンが進まなくて。結局朝までかかっちゃったわ」
そう、すなわち徹夜だ。ぼうっとすると勝手に瞼が下がってくる。
「そりゃご苦労なことで。ほら、早く手紙出しな。次のポストも周んなきゃいけねえからもたもたしてられねえんだよ」
「そんなに急かさないでよ。ちょっと待ってて、今出すから」
ポケットに手を突っ込み今朝書き上げたばかりの手紙を取り出す。
「はい、しっかり頼んだわよ」
「はい、はい、了解致しました」
アリスの手からロウリーの手へ手紙が渡る……
その刹那、二人の間を何かが駆け抜ける。
長い耳、白い体毛、赤い目玉、発達した後ろ足、そう、それはつまり白うさぎだった。
気づけば手紙はアリスの手を離れ、白うさぎの口にくわえられている。
「うさぎ?」
「うさぎにしてはちょいと素早すぎないか? それにツノ生えてるし」
見るとうさぎの鼻のあたりから黒い突起が飛び出ている。うさぎはくるっとアリスたちに背を向けると森の方向に走り去って行った。
「変わったうさぎだね」
「そうだな」
「そんじゃ俺はこの辺で。追いかけなくていいのか? 手紙持って行っちまったぞ」
「あっ!! 追いかけなきゃ、てか手伝ってくれないの?」
「手伝ってやりたいのは山々なんだが、あいにく時間が押してるもんでね」
ロウリーは棒読みで答える。
ふと丘の方へ目をやるとうさぎが森に入って行くのが見えた。
「こらー、待ちなさい!」
走り出そうと足に力を込める。
「ああ、そうだ、今日はうちに飯食いにくるのか?」
ロウリーに呼び止められ振り返る。
「お願いするわ、叔母さんよろしく言っといて」
「へいへい、ああ、アリス」
再び呼び止められ転びそうになる。
「今度は何よ!」
「誕生日おめでとう」
ロウリーは照れ臭そうに目をそらす。
「あ、ありがと。また後でねー」