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温和な魔王はお嫌いですか?  作者: シリコンババア
第一章 復活
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プロローグ


「フハハハハハハハハ…………」


叫びにも似たその笑い声は『王の間』に響き渡る。かつてその声はこの世の人間すべてに恐怖を与えた。

それは魔物というよりは神や災害に近い。天の空気を震わせ大地を轟かし海に大波を起こす。

何人もの人がそれを討伐しようと武器を取った。しかし帰る者はいない。

破壊の権化、地獄への行進、死の具現化。

人々はそれを『魔王』と呼んだ。


だがそれも今宵、終わろうとしている。





思考が働かない。

左手は聖剣で切り飛ばされ腹には無数の穴が開いている。両足で立っているのがやっとだ。神域魔法の連続行使によって魔力も残りわずか。

森羅万象は諸行無常。この世のものはすべていつかは壊れる。この宇宙のどこにも永遠などありえない。

俺が君臨してから七百年。長いようであっという間であった。これまで何人もの勇者を葬ってきたがここまでか。

万一のため魔王城にいる魔族達は全員外に逃がしておいたのが不幸中の幸い、か。

それならこの俺が少しでも多くの時間を稼がなくては。

「おもしろい、実におもしろいぞ。この我をここまで追い詰めるとは。貴様等、名を何と言ったか?」

勇者一行はこちらを睨みつけながら名乗りを上げる。


「格闘家、センチネル」


「魔術師、ミーナですわ」


「魔法騎士、シルフィー」


「俺は第四十三代勇者、ギルフォードだ!」


双方共に満身創痍。数の面では4対1と不利ではある。撤退命令を出してから30分。もっと時間を稼ぐ必要があるな。


「その名、しかと記憶した。その上でギルフォード、

貴様に一つ問いたい。何故貴様は我を殺す?」


「てめえ、自分がしてきたことを分かってて言ってんのか?」


格闘家が吠える。


「貴様は黙っていろ、我はギルフォードに問うているんだ」


「平和のためだ。罪なき者達が魔族に怯えて生きているなんて間違っている。誰もが笑っていられる世界、俺はそれが見たいから剣を握るんだ!」


「クククッ、フハハハハハハハハ…………」


「何がおかしい」


「ふざけるな! 貴様は先程罪なき者達と言ったな。そこに魔族は含まれていないのか? 魔族だって人間と同じだ。人を殺す者もいれば日々をただ暮らしているだけの者もいる。十人十色、それぞれ違う。魔族は人間を殺してはいけないが人間は魔族を殺してもいいのか? そんな馬鹿げたことがあっていいはずがない! 我を殺すということは魔族という種族を認めないということだが、貴様はそれでも我を殺すのか?」


「くっ、お、俺は正義のために……」


「そいつの戯言に耳を傾けるな、ギルフォード!」


「そう、答えることは出来まい。正義なんて当人の立場次第だ。耳障りの良い言葉で蓋をするな、貴様が謳う平和の正体を知れ!」


「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!」


「貴様は此処に辿り着くまでに何人の魔族を殺した? その魔族の何人に彼の帰りを待つ者がいたのか考えたことがあるか? 彼の死を嘆く者がいることを考えたことがあるのか? 」


「うるさい、うるさい、うるさい!」


「現実逃避か、それも良かろう。我に貴様の殺しを責める気はない。我も何人もの人間達を殺してきたからな。だが忘れるな! 貴様が奪っているものは命だ、一つの命だ。罪を背負う覚悟が無いなら此処に立つ資格は無い!」


「魔王ベースティア!!」


ギルフォードは聖剣を握り直す。


「すまない、少々長話がすぎたようだな。さあ、お互いの『正義』の為に殺し合うとしよう。我には魔族を守る責任がある。4人まとめてかかって来い。この戦いにけりをつけようぞ!」


「聖剣起動、完全破壊術式を起動する。みんな、残っている魔力を聖剣に集めてくれ」


「おうよ!」


「分かりました」


「了解」


突如、両者の間に暗闇が現れる。ブラックホールを思わせるその暗闇から影が伸びそれは人型を形作る。瞬間、人型の影は大量の質量を放出し破裂。影があったそこには一人の女が立っていた。


「ベースティア様、命令に背く無礼をお許しください。ですが、私は、私はあなた様がいらっしゃらない世界など耐えられません、どうかあなた様の隣で最期の瞬間を迎えることをお許しください!」


肩の高さで揃えられた青みがかった白髪、見る者すべてに色気を感じさせるグラマーな身体、ルビーのように赤い目。一見するとただの人間だが背中から伸びた黒い小さな翼が彼女がサキュバスであることを物語る。


「マルティウス! 貴様、俺は逃げろと言ったはずだが……」


「安心して下さい。他の者達は逃しました。もうこの近くにはいないでしょう。さあ、勇者よ。ベースティア様を殺すなら私もいっしょに殺しなさい!」


マルティウスと呼ばれたサキュバスは両手を広げて勇者と魔王の間に立ち塞がる。


「馬鹿、早く逃げろ。くそ、もう間に合わん」


身体中の魔術を振り絞る。間に合えっ……


強制転移(テレポート)っ!!」


「ベースティアさ……」


マルティウスの声が聞こえた刹那、完全破壊術式が放たれる。


「来るなら来い! 殺せるものなら殺してみろ!!」


完全(パーフェクト)破壊(ディストラクション)!!」


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