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転生死神と眷属による異世界奇想曲  作者: 田中 てんまる
死の館編
5/33

第5曲 救世主

だいぶ間が空いちゃいました。ごめんなさい。

 

 目の前で群れを成すコボルト、その中から一匹飛び抜けたコボルト戦士長ジルバ。彼等を前にメイビスは静かに佇む。彼は今、何を思っているのか。


 いやーこんなに上手くいくとはなー。まさか俺の愛読書「天才詐欺師の話術~騙しに騙し三十年~」がこんな形で役に立つとは思わなかった。やっぱり詐欺師って頭良いのね。


 話を聞く限り、アンデッドの集団に襲われていることは理解した。今のところ確認出来るのは骸骨兵(スケルトン)食屍鬼(グール)死霊(レイス)だけだが規模から考えてあと何体かいるだろう。それに主人という奴も気になる。アンデッドを従えているということは《死霊魔術(ネクロマンシー)》のスキルを保有しているだろう。確かにこれだとコボルトなら歯が立たない。だからこそこの状況は使える。


 今の状態のコボルトに俺と眷属達が協力しようと持ちかける。しかし、その条件としてこの世界の情報を提供してもらう。俺はこの世界の情報を手に入れ、コボルトは救われる。どちらにとってもウィンウィンな契約だ。その為にはまず、コボルトの長と話をする必要がある。


 メイビスはコボルトを見渡し、ほくそ笑む。まるでこの世界の何もかもを手に入れたように。そして、息を吸い込む。



「君達に提案がある」



 メイビスの言葉に戦士長ジルバはピンと立った耳を小さく動かす。犬の顔でも真剣な顔つきをしていることが分かる。



「聞こう」



 ただ一言、ジルバは表情を崩さず了承の合図をする。



「コボルトを助けてあげよう」



 ジルバは予想だにしない言葉に面食らい、驚愕の表情を見せるが、それはすぐに訝しげな表情に変わる。何の為にそんなことをするんだ、という強い猜疑心が滲み出ている。だがそこには、微かな希望も含まれている。



「信じられん」



 平坦な様子で答えているが、耳が兎のように忙しなく動き、尻尾が上に上がってきている。動揺を隠し切れていない。



「分かった、諦めよう」


「なっ!?」



 あまりの衝撃にジルバは動揺を目に見える形で表現してしまう。それもそうだ。提案をしてきた本人が、あっさりと、呆気なく引き下がっていったのだから。本来ならば双方のメリットを提示したりしてもっと食い下がるべきだが、それすらせず、きっぱりと諦めた。メイビスの意図が分からずジルバは困惑する。

 その様子を見たメイビスは上手く誘導出来ていると胸をなで下ろす。



「じゃあ、代わりにコボルトの村に連れてって」


「…はぁ?」



 だらしなく開かれた口から素っ頓狂な声が漏れる。ジルバは困惑の上に困惑を重ねられ、思考が停止してしまう。しかしこの状況を待っていたメイビスは畳み掛ける。



「いやー、私達寝る場所が無くてね。このままじゃ野宿なんだ。丁度そんな時に君達が来てくれてね、せっかくだからコボルトの集落に泊めてもらえないかなーって」


「ダメ?」


「…」



 相も変わらずジルバの思考は停止したままだが、今の話くらいは聞けていた。しかし、上手く頭が働かない。こんな奴らを集落に案内していいのか不安になる。だが、こいつらならいいかもしれないという気持ちも確かにある。深慮熟考の末、ジルバは決断する。



「分かった。案内しよう」



 コボルト達にざわめきが生じる。

 本気か。こんな奴ら連れてっていいのか。長老がなんて言うか。考え直した方がいいんじゃないか。

 様々な言葉がコボルト達の間で飛び交い、ジルバの耳に届く。しかし、ジルバにはそれを聞き入れる余裕が無い。それに一度そう言ってしまえば易々と無かったことには出来ない。



「賢明な判断だ」



 メイビスはジルバに聞こえないよう小さく呟く。ノアには聞こえていたようだが、全くといっていいほど関心を示さなかった。



 ◆



 その後、コボルト達はメイビスを連れ、さらに鬱蒼とした森の中を進んでいく。しかし、メイビスとは違い進む速さが段違いに速い。片手で伸びた枝をへし折り、木の根を踏みつけ、虫を蹴散らし悠然と進んでいく。森を住処にしているコボルトならではの芸当だろう。


 暫くコボルト達の後に付いていくと、ノアがローブの裾を軽く引いた。



「何だ?」



 メイビスは演技を辞めながらも優しく微笑みながら、ノアに顔を向ける。



「さっきの…言葉…意味」



 とうとう喋ることが面倒くさくなったせいか、外国人のような単語の羅列になった。いや、もしかしたら外国人の方がまだ喋れるんじゃないだろうか。しかし、メイビスにとってはこの言葉だけで全ての理解が可能だった。



「ああ、『賢明な判断』のことか」



 関心が無さそうだったが、表に出さないだけで気にはなっていたようだ。メイビスはどう説明したものかと少し考え込んだが、すぐに口を開く。



「彼等の話から察するに襲撃を受けたのは最近、大体二日から七日前くらいか。そして、アンデッドはまた来るとわざわざ宣言までしている。となればもうすぐであろう」


「…何が?」


「次の襲撃」


「おい、いつまでくっちゃべってるつもりだ。もうす」


「せ、戦士長!!村が、村が!」



 ◆



 コボルト達の中の一人が叫んだ。その尋常ならない雰囲気にジルバは嫌な予感を覚える。ジルバは一人走り出した。そんなことは無いと心に何度も言い聞かせ、村のある方角に足を動かす。装備を捨て二足歩行が四足歩行に変わり、速さがさらに増す。そして、ジルバは誰よりも早く村に到着し、立ち上がる。しかし、ジルバの縋るような思いを無下にする現実がそこにはあった。

 木と藁で造られた簡素な住居、自分達の食料の為に耕した小さな小麦畑、思い出の詰まった我が家、それら全てが燃え盛る火炎に包まれていた。



「もう…もう来たのか、我等を滅ぼしに…」



 ジルバは膝から崩れ落ちそうになるのをぐっと堪える。ここで落ち込んでいる暇は無い、生存者を助けなければ。ジルバは覚悟を決め、炎に包まれた村に身を投じる。村の中央を駆け抜け、残っていた老人や女子供を、辺りを見回し探す。しかし、不幸中の幸いか、死体は見当たらない。そしてそれはアンデッドにも言えた。何故かアンデッドは一匹足りともいない。やがて村の中心部に到着した。



「何故だ、これだけのことをしておきながら何故いない」



 ジルバが地団駄を踏んでいると、背中に鋭い痛みが走った。剣で背中から袈裟斬りの要領で切られたのだ。それに気付いたジルバは即座に後ろの敵に後ろ回し蹴りをかますと同時に跳び、距離をとる。



「くっ、これしきの傷」



 幸い、傷は浅く特に支障はない。ジルバは蹴り飛ばした方を睨みつける。敵は今まさに起き上がろうとしていた。そして起き上がったものを見て、ジルバは動きが、呼吸さえも止まった。次第に顔が握り潰された紙のようにくしゃくしゃになっていく。



「うああああああ!!!」



 目の前にいたのは最初の襲撃で命を落とした父親だった。しかし、若々しく屈強だった姿はもう無い。肉体は腐敗し、蝿がたかり、両目が腐り落ち空洞になっている。それは最早父とは呼べるものではなかった。



「あんまりだ…こんな……」



 ジルバはあまりの衝撃に膝から崩れ落ち、うずくまる。今度は堪えられなかった。呆けたような表情で、ただ目から涙が流れる。心が完全に折れてしまった。



「やめてくれ……もうやめてくれ…………」



 何故かジルバは思い出す。あの提案を、あの怪しい男の怪しい提案を。こんなものに縋るなんてどうかしている。そんなことは分かっている。だが、ジルバは最早コボルトの誇りも何もかもどうでもよくなっていた。ただ、救いを求めていた。助けが欲しかった。だから決めた。



「おい、メイビス…聞こえているか、さっきの提案をのむ…だから…だから…」



 父だったものはうずくまるジルバの目の前まで到達していた。そして、剣が振り下ろされようとする。



「たすけてくれぇ!!」



 《雷光(サンダースパーク)



 青白い光が振り上げられた剣に吸い込まれ、持ち主ごと黒焦げになった。それは煙を出しながら前方に倒れた。そして彼は現れた。白い長髪を携え、漆黒のローブを身に纏って。



「承った」



 そう言い静かに佇むメイビスはまさに救世主そのものだった。



これからはなるべく予定通りに上げたいと思います。

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