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転生死神と眷属による異世界奇想曲  作者: 田中 てんまる
死の館編
4/33

第4曲 コボルト戦士長ジルバは思う

今回はコボルト視点で進みます。

 

 彼は笑う。

 肉も皮もない、骨だけの顔では無表情に等しい程小さい笑み。誰も彼が笑っていることに気づきはしない。

 何が彼を微笑させるのか。

 その答えは目の前の配下が持っていた。



「もうじき、コボルトは我らの忠実な下僕となることでしょう」



 彼は笑う。

 今度は微笑ではなく、その骨だけの顔でも分かるように口元を歪ませる。そして、高らかに笑い出す。

 骨だけの指先が尖った手に持つ、黒い闇を固めたような禍々しい大鎌が小刻みに揺れる。

 それはまるで、鎌が笑っているようだった。



 ◆



 コボルト達は唖然としている。

 何故か。

 それは目の前で起こっている状況に戸惑い、呆れ、困惑したからだ。


 それは本来、行われるべき行為だった。しかし、それはコボルトの乱入という事態によりうやむやになろうとしていた。


 だが、彼はそれを許さなかった。

 彼は苦悩した。これを果たして本当にやってもいいものなのかと。一度は決意したものの、これをやれば、今まで自分が耐えてきた事実を否定することになる。このまま無かったことにした方がいいのではないかと。

 それでも、彼は行うことを選んだ。これをやらなければ自分は一生後悔する。ならばやろう。過去を壊してでも成し遂げよう。

 そう、決心したからだ。

 今、この場で行われていることこそ彼の生き様そのものだった。



「うわぁぁぁ!可愛いぃぃぃ!」


「……」



 メイビスはノアの頭を撫でるだけでなく、抱擁し、歓喜の声を上げている。ノアはそれを突き放さず、甘んじて受け入れる。そして、満足げに微笑むと、垂れるのではないかというくらい顔を緩める。


 それがコボルト達の見ている光景だった。

 こんな異常な光景をかれこれ三十分程見続けている。

 それは、困惑もするだろう。ついさっき、巧妙な作戦で自分達を拘束した奴らが自分達を放って、二人でイチャついているのだから。


 そして、メイビスは最後にノアを強く抱き締め、拘束してから初めてコボルト達に興味を向けた。



「さて、少しは落ち着いたかな、コボルトよ」



 ここにきて、コボルト達は初めて気づく。

 先程まで目の前で繰り広げられていた光景は、自分達の戦闘意欲を失わさせる為。自分達はまんまと敵の策に乗せられていたのだ。

 思わずもこの男との話し合いの場が出来てしまった。

 コボルト達は改めて思う、侮れない男だと。



「まずは自己紹介から始めよう。私の名前はメイビス・クライハート、小さい女の子が大好きなただの男さ。こっちの子はノア、私の眷属……ではなく可愛い嫁だよ」


「メイビス様それ普通逆」


「取り敢えず代表者は誰かな」



 コボルト達は顔を見合わせ、思案する。自分達のリーダーをこの男にバラしてもいいのかと。しかし、その男は名乗り出た。



「オレダ」



 そのコボルトは他のコボルトと何ら大差のない男だった。強いて特徴を挙げるなら他の奴よりも目が鋭いところくらいだ。



「オレノナハ」


「あー、ちょっと待って」



 メイビスは名を名乗ろうとしたコボルトを静止させ、とある魔法を唱える。


 《全種族共通言語化(オールランゲージ)



「これで聞こえやすくなった」


「一体何を… !言葉が!?」



 コボルトの言葉がはっきりとしたものになった。

 コボルトの口の構造では、どうしても上手く話せず、片言喋りになる。しかし、今は人間のようにはっきりと発音が出来ている。



「聞こえにくかったから言語系の魔法をかけた」



 コボルトは驚愕した。言語を共通化させるなんて魔法は聞いたことはない。そんなものがあれば世界の言葉の壁なんて音を立てて崩れ去る。



「貴様…一体何者だ…」


「やだなー、それはこっちのセリフだよ。君はどこの誰だい」


「…俺はコボルト戦士長のジルバだ」


「うん、よろしく」



 メイビスは笑顔で言うがこの場合、ジルバにとってそれは恐怖になる。自分達はこの男に襲撃をかけ、返り討ちにあい、捕縛されたのだ。現に今も、異様に頑丈な糸で縛られている。まるで子供の頃聞いたお伽噺に出てくるアラクネの糸だ。



「さて、君達の発言を聞く限り、コボルトを殺戮している連中がいて、私がその主人じゃないか。と思っていたんだね」


「思っていたじゃない、今も思っている」


「嘘だね。君はさっきの私達の行動で違うと確信している。こんな奴があの殺戮者達を従えているとは思えない、ってね」



 バレている。

 となればこれからどんなに巧妙な嘘をついても無駄だろう。一度バレれば相手は警戒し、全てを疑ってかかる。



「その通りだ。もしお前のようなふざけた男が主人なら、そんな奴の配下に我々コボルトは殺されたりしない」



 それだけではない。

 連中が殺したコボルトの中には子供もいた。この男の思想からするに、そんなことは許さないだろう。もちろん、その思想そのものが嘘ということもある。しかし、先程の様子を見た後では違うと確信出来る。



「貴様が聞きたいのはコボルトを襲っている連中の正体だろう」


「おー、話が早くて助かるよ」



 わざとらしい男だ。

 全て、この展開に持っていきたいが為の行動だろう。



「話をする前に、俺は構わんから仲間達の拘束を解いてくれ」


「ああ、もちろん。ちゃんと君も解放してあげるよ」



 メイビスはノアにスキルを解除するように伝える。

 ノアは頷き、袖に隠れた手を小さく動かす。すると、コボルト達を縛っていた頑丈な糸が嘘のようにあっけなく解けた。



「ふぅ、感謝する」


「どう?新しい性癖に目覚めたりしない」



 メイビスは友達のように軽口を叩き、からかってくる。



「俺にお前のような趣味は無い」


「心外だなぁ、私を変態呼ばわりするなんて」


「小さな女の子が大好きなんて自己紹介をする奴は混じりっけの無い純粋な変態だよ」


「えっ、それ以外の自己紹介する男なんているの?」


「お前の性癖は異常ということに気付くべきだぞ」



 ここでジルバは気付く、自分がこの男と談笑していたことに。

 この男の話し方は相手との距離感を狂わせる。古くからの親しい友人に語りかけるような話し方に思わず何でも話してしまいそうになる。これすらも計算だとしたら大したものだ。



「無駄話はここまでにして本題に移るぞ」



 ジルバが切り出すとメイビスのふざけた雰囲気が消え、最初の圧倒的支配者のような雰囲気に変わる。


 本当に油断出来ない男だ。



「俺達コボルトはいつも通りに生活していた。女は家事をこなし、男は狩りに出掛ける、いつも通りの何でも無い日だった。そんな時に奴らは攻めて来た」



 意図せず拳が固く握られる。



「現れたのはアンデッドの集団だった。それも百や二百じゃない、確実に千はいた。アンデッドの多くは骸骨兵(スケルトン)のような雑魚だったが、中には食屍鬼(グール)死霊(レイス)といった強力な者もいた。俺達は必死に応戦したが、正直歯が立たなかった。戦いは苛烈を極めた。そして、百匹目のコボルトが倒れると奴らはこう言った。


『我らは死の館の主人の配下。貴様らコボルトを殺し尽くせと命じられた。まずは百匹のコボルトをあの方に献上する。そして、次の襲撃で貴様らコボルトを滅ぼし、この森はあの方のものとなる。次の襲撃を心せよ』


 その言葉を残し、奴らは森の何処かに消えていった。

 追っていこうとする者もいたが、無闇な深追いは危険と判断し俺が止めた」



 ジルバは息をつく。



「これがコボルトに起こった出来事だ」



 思わず感情が入り、話が長くなってしまったが出来るだけ簡潔に伝えたつもりだ。


 ジルバは目の前で腕を組み、静かに聞いていたメイビスを見やる。

 相変わらずジルバにはこの男が何を考えているかなど分からない。コボルトの境遇に心を痛めているのか。それとも、この状況を利用して何かするつもりなのか。もしくは、何とも思って無いのか。

 それを判断出来る程、ジルバはメイビスという男を知らない。


 果たしてメイビスという男は今、何を思っているのだろうか。


 そして、ジルバにはそれを知る由はない。



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