第26曲 溝鼠の総大将
蝋燭の明かりに照らされた階段を降りて行くと、漸く長い階段が終わり、重圧な鉄扉が姿を現した。店主は懐から鍵を取り出すと、鍵穴に差し込み、鍵を回す。すると、カチャリと音を立て扉は解錠され、その先へと進むことが可能になった。店主は重そうな鉄の扉を片手で軽々と開くと、メイビスをその先へと促す。
そして、メイビスはそれに応じ、扉の先へと足を踏み入れた。
その先に広がっていたのは組織の本拠地──ではなく下水道だった。
「我等の本拠地は隠匿の為、この下水道の先に隠してありますので、もう暫しご辛抱くだされ」
メイビスが疑問を持つよりも早く、店主が答えた。それならば仕方ない、とメイビスは先を行く店主の後ろに付いていく。
下水道はほぼ現代のものと見た目は変わらない。半円形の長い空間、その真ん中に下水が流れ、端に道がある。そんなありふれた光景が何処までも続いていた。
暫く、下水道の細い道を進んで行くと、店主が口を開いた。
「ところで、お客様。我等の組織の名称は何かご存知ですかな?」
「いや、知らないが検討は付く」
「ほう、お聞かせ願っても?」
「構わん。恐らく、土竜だろう?」
酒場の店名『Mole』の意味は土竜、そしておすすめメニューの酒は『土竜の涙』。ここまで来れば誰にでも分かるだろう。
メイビスは恐らくと言ったが、この答えに自信を持ってた。だからこそ、店主からの返答に生前のノリで応えてしまった。
「不正解ですな」
「なぬっ」
「なぬ?」
「いや、何でもない忘れてくれ記憶から消去してくれこれから先何も思い出さないでくれ早めに認知症にかかることを願っている。それよりも土竜が間違いなら何が正解か教えてくれ」
「?畏まりました」
一瞬キャラ崩壊したメイビスだが、何とか持ち直し、話を持っていくことで誤魔化す。本人はセーフセーフ、と思っているが会話の中に自然と罵詈雑言が混じっていることに気付いていない。やはりこの男根が腐ってやがる。
ちなみに店主はメイビスの言葉の前半が早口過ぎて聞き取れず、後半のそれよりも、からしか耳に入っていなかった。
「お聞きしますが、お客様は『Mole』のもう一つ意味をご存知ですかな?」
「いや、知らんな。土竜以外にもあるのか?」
「ええ、御座いますよ。『Mole』のもう一つの意味はスパイ。我々にとって土竜とはスパイを炙り出す為の餌なのですよ」
「ほう」
「店名や商品から騙されるかもしれませんが、我々の中で土竜の単語を扱うということはスパイを意味するわけでございます」
つまり、彼等にとって土竜とはスパイを炙り出す為の偽情報というわけなのだ。店名や商品から安易に土竜の単語を発すれば、その時点で始末されるという訳だ。先程、土竜の単語を出した時彼等が襲おうとしたのはこれが理由なのだろう。
「ならば貴様らの正式な名は何なのだ?」
「我等の名は──」
突然、下水道の突き当たりで店主は立ち止まり、壁の一部分を押した。すると、駆動音と共に壁が動き、扉のように開いた。
「──【溝鼠】。卑しい鼠の集団でございます」
壁の先には、和室が広がっていた。畳が敷かれ、襖があり、廊下の床は木材で造られ、土間に履いている靴が置かれている。まるで城の中のようで、日本人としては懐かしい畳の草の香りに心が安らぐ。
しかし、それよりもメイビスは驚愕が勝っていた。まさか、異世界で和室があるとは思わなかったからだ。
そうしてメイビスが面食らっている間に、店主がメイビスの目の前に立った。
「申し遅れました。私、【溝鼠】が副大将、タナカと申します。以後、お見知りおきを」
そう言い、頭を下げるタナカをメイビスは眺めることしか出来なかった。
◆
「此方でお待ちください」
そう言い、店主もといタナカは襖の向こうに消えていく。メイビスは机のある和室の座布団の上に座っているが、未だに頭が状況を呑み込めていない。まさか、噂の組織が日本式とは思わなかったからだ。というよりも異世界に日本式の和室があるとは思わなかった。和菓子とかお茶もあるのかな。などと現実逃避もしていた。
「いやー何だか落ち着くなぁ。これが和の心ってやつなのかなぁ」
「む、いつの間に戻っていた。パンドラ」
「ついさっきだよ」
どうやらパンドラも戻っていたようで、畳の上で寝転んでいる。かなりリラックスしている。
暫く、待っていると襖が開かれタナカが入って来た。
「お待たせ致しました。どうぞお入りください」
すると、タナカの後ろから少年が現れた。
色白の肌、撫でやかな黒髪に黒い瞳、黒の和服の上に白い羽織を纏った物腰柔らかな中性的な少年で、穏やかな笑顔を浮かべている。そんな全体的に柔らかな雰囲気の少年が現れた。
「初めまして、強き御方。僕は【溝鼠】が総大将、窮鼠と申します」
「初めまして、小さな総大将。私の名はメイビス・クライハート。ただの死神だ」
少年もとい窮鼠の自己紹介にメイビスも自己紹介を返す。メイビスの紹介に少年はどのような反応を示すかと観察してみたが、彼は眉一つ動かさず相変わらずの微笑を浮かべ、佇んでいる。
「ふふっ、死神ですか。それはそれは恐ろしい」
口元を隠し、微笑む様はまるで女性のようで、その立ち居振る舞いがより少年の姿を中性的なものにする。これにはその手の趣味の無い者でも心臓が高鳴ることだろう。これを見たメイビスは、カオスと仲良くなれそうだなー、と呑気に考えていた。
挨拶をし終えると、二人は向かい合って座る。タナカは襖のところで立ったまま待機している。ちなみにパンドラは未だに畳の上で寝転んでいる。
こやつこの空気の中よくやりおる、将来大物になるな。
「では、お話しましょうか」
「ああ、そうだな」
そうして、ついに鼠と死神の会談が始まった。
「当組織に入ろうと思った理由は?」
「私が御組織を希望した理由はその経営理念に共感したからであり、私の力を御組織で振るい、利益に貢献します」
「その力とはどのようなものですか?」
「私は魔法の使用が得意で、これは他の誰にも負けない自信があります」
「例えばどのような魔法が使えますか?」
「そうですね、基本全ての魔法が使用可能です」
「これらは一体どのように………」
「そこはこのように………」
「ではこっちとかは………」
「そっちはこうして………」
その後、小一時間に渡り面接官と受験者による面接が行われた。
今回は切りが良いので短くなってしまいました。
会談が面接になった理由
メイビス「入社に当たって面接は当然」
窮鼠「組織の為にも判断する必要があるので」
こいつらは異世界ということを自覚しろ




