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転生死神と眷属による異世界奇想曲  作者: 田中 てんまる
フリギア王国編
25/33

第25曲 人気の酒場の好々爺

※サブタイトル変えました。




 時刻は正午、眩しい太陽の輝きを浴びながら二人の男は街の真ん中を堂々と歩いていた。周りには行き交う人々の波、路地裏には生ごみを漁る鴉達、民屋の屋根には日向ぼっこと洒落込む猫達。

 それ等を観察しながら二人の男、メイビスとパンドラは歩いていた。



「いやー、この国は平和だねぇ」


「ああ、国が豊かなのは良いことだ」



 口を開いたパンドラと他愛無い世間話をするメイビス。二人は何事もないように歩いているが、アシンメトリーの黒髪をした奇術師のようなイケメンと白い長髪を携えたミステリアスなイケメンとして道行く人々から熱い視線を浴びていた。



「本当、こんなに平和だと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「やれやれ、相変わらずの狂人思考だな」


「そうだよ。だってそれが“最狂(ぼく)”だもの」



 そう言うパンドラは口では笑っているが、目は笑っていない。常軌を逸した思考を隠そうともせず、剥き出しの狂気を瞳に映し出していた。常人が見れば身体に怖気が走り、身動き一つ取れなくなるような爛々と輝くその狂気の瞳をメイビスはいとも容易く覗き込む。それどころかメイビスはこの瞳はパンドラのチャームポイントの一つとすら思っていた。

 この男はそろそろ自分のイカレ具合に気付かなければならない。



「フフ、そうだな。おっと、話しているうちに着いたようだ」



 メイビスは立ち止まると、目の前の大きな建物を見上げた。西洋造りの大きな屋敷、白い壁に赤い屋根、縦に三メートルはある巨大な扉、そんな西洋風の屋敷をメイビスとパンドラは観察していた。



「へー、ここが組合(ギルド)かぁ。結構大きいんだね。冥府の館(うち)には負けるけど」


「随分と金がかかってそうな建物だな。冥府の館(うち)には負けるが」



 メイビスとパンドラは屋敷を一瞥してこの一言。だが、実際冥府の館(エーリューズニル)の方が大きく、金もかかっているだろう。

 組合(ギルド)と我が家を比較し、勝ち誇ったような顔の二人は満足したのか観察を終了する。



「さて、それでは行くか」


「うん、そうだね」



 そして、メイビス達は足を進め、組合(ギルド)に入る────ことはなく横の裏路地に入った。



 薄暗い裏路地に二人は足を踏み入れ、迷路のような道を進む。何が入っているかもわからない木箱や樽の数々、ごみを漁る鴉や猫が二人を見た途端に散っていく。それらの風景を見ながらメイビス達は進む。



「ねぇメイビス様、組合(ギルド)に行かなくて本当に良かったの?」


「ああ、あんな汚物の吐き溜めに用はない」



 行く先々に無数にある曲がり角を曲がりながらメイビスは嫌悪感を隠そうともせずに話す。パンドラは何故メイビスがそこまで組合(ギルド)を嫌うのか分からなかった。しかし、組合(ギルド)の実態を知らないパンドラからすればどうでもいいことであり、メイビスが嫌うのなら碌でもない所なのだろうと自分の中で決定した。


 そう、今回の行き先は組合(ギルド)ではなく、街で噂の『人気の酒場』だ。その店は組合(ギルド)の裏路地、それを通った先にあるようで、丁度そこは組合(ギルド)の裏側に位置するらしい。


 暫く迷路のような道を進んで行くと、薄暗い道に光が見えてきた。光の漂う方向に向かうと、そこには一軒の酒場があった。扉の横に置いてある看板には今日のおすすめメニューが書いてあり、そこに書かれてあるメニューは食欲を刺激した。そして、扉の上の看板には「Mole」と店名が書かれていた。


 メイビスはそれらを記憶し、店内に足を踏み入れた。

 店の中は柔らかな暖色のライトで照らされ、カウンターと丸椅子が並んでおり、カウンターの奥には店主らしき男がおり、後ろには様々な酒瓶が並んでいた。カウンターの反対側にはテーブルも置かれてあり、そこそこの人数は入れるようになっていた。事実、三人ほど店に客がいる。



「いらっしゃい」



 店内を見ていると、白髪混じりの七三分けの髪型で丸眼鏡を掛けたちょび髭の老人が話しかけてきた。先程から奥でグラスを磨いている店主らしき男だ。彼の服はバーテンダーのようであり、背筋の伸びた立ち姿は紳士然としている。



「二名様でよろしいですかな?」


「ああ」



 メイビスはカウンター席に座り、それに続くようにパンドラも座った。

 ふむ、店の雰囲気はとても良い。薄暗い店内だが、強い光が無いため目に優しく、落ち着く。店主の人当たりも良く、客の態度も良い。なるほど、確かにこれならば人気が出るだろう。ただし一点を除いて、だが。



「ご注文は?」


「今日のおすすめを二つ」


「『土竜の涙』と『コカトリスの雛の焼き鳥』が二つでよろしいですかな?」


「ああ」


「畏まりました。少々お待ちください」



 そう告げると店主は食料庫から程よい大きさで串刺しにされた生肉を取り出し、キッチンで焼き始めた。すぐに香ばしい香りがやって来て空いている腹を刺激する。暫くすれば調理が終わり、酒棚から『土竜の巣穴』とラベルに書かれた酒を取り出し、氷の入ったグラスに注いだ。



「お待たせ致しました。どうぞお召し上がりください」


「ああ、頂かせてもらおう」



 メイビスは焼き鳥の串を持ち、肉を口に運んだ。口に含んだ瞬間、肉汁が溢れ出し口の中を満たす。塩の塩分が丁度良く、更に食欲を刺激する。ここで更にもう一口といきたいところだが、ここはぐっとこらえてグラスに入った酒を煽る。するとどうだろう。澄み切った酒の味が抜群に焼き鳥の塩気とマッチする。この酒も辛口なのが良い。恐らくこれは焼酎だろうか。どちらも互いの味を引き立て、邪魔をしない。相性ピッタリ、最高の組み合わせと言えるだろう。



「美味いな、店主(マスター)


「お褒めに預かり光栄でございます」


「ああ、特に焼き鳥が良い。何か工夫でもしているのか?」


「実はですな、東洋より輸出された木炭と呼ばれるものを用いて焼いているので、旨味がより凝縮されているのです」


「ほう、それは素晴らしい」



 まさかこの世界で炭火の良さに気付く人間がいるとは予想外だ。炭火の良さは遠赤外線で焼いている為、旨味を逃がさないのだ。流石にそこまで気付いてはいないだろうがこの世界で炭火料理を開発した者は天才だろう。



「わぁ、本当に凄く美味しい!」



 パンドラも料理を味わい始め、既にその美味さに顔が綻んでいる。それほどに美味いのだ。

 そうして、メイビスとパンドラは料理を味わっていた。しかし、態々ここまで来たのはただ料理を味わい来た訳ではないので本題に入ることにした。



「ところで店主(マスター)、これほど美味い酒と料理があるのに何故こんな路地裏の突き当たりに店を構えているのだ。良ければ聞かせてくれないか?」


「それはですな、この店のコンセプトが秘密の酒場だからですな。お恥ずかしい話、こういった秘密の場所というものに(わたくし)めも憧れておりましてなぁ」



 店主は笑いながら頬を赤らめ、頭をかき、恥じらいの表現をしている。これを見ると実際にそうなのだろうと多くの人間が騙されるだろうが、メイビスは見抜いていた。メイビスの持つスキルの一つ、《嘘か真かフェイク・オア・トゥルー》を発動させていた為、今のメイビスに虚偽の発言は通用しない。故に、ここで嘘をついたことで、メイビスの予想は最早確信となった。



「なるほど、ならもっと良い隠れ家があるのではないか?」


「?それはどういう……」


「例えば、()()()()()()()()()とか」



 瞬間、店の空気が変わった。穏やかな波のように凪いでいた空気が今は荒々しい嵐の夜のような激しい殺気に満ちた空気に。それは店主から、ではなく店内にいた他の客達からだ。どうやら当たりで間違い無いようだ。客のこの殺気がそれを表している。


 だが、少々調子に乗り過ぎだ。



「鬱陶しいぞ」



 たった一言、その一言で店内の殺気が塗り変わった。荒々しい嵐の夜のような激しさから、世界が終焉を迎えたような絶望に。それだけで、店内にいた客は全て倒れた。皆、口から泡を吹き、失神している。店主もその殺気に膝をつき、かろうじて耐えていた。唯一何事もないように過ごしているのは、横で焼き鳥を食べるパンドラのみだろう。

 メイビスは放っていた殺気を抑え、最後の焼き鳥を口にする。



「どうやら客のマナーがなっていないようだな」


「ッ!!?」



 メイビスの所業に店主は絶句する。それもそうだろう、あれほどの殺気にまったく堪える様子もなく、それどころか圧倒的な殺気だけで失神させてしまったのだから。

 だが、店主はすぐに立ち上がり、先程までの穏やかな笑みを浮かべる。



「申し訳ございません。どうやら酒に酔っていたようだ。普段はこのようなことはしない者達なのですが」


「ああ、そのようだな」


「ところで、何処でそのことを?」


「白々しいな。()()()を流したのは貴様等だろうに」


「………」



 メイビスの言葉に店主は無言を返す。というよりも何も言えなかった。彼が流した噂は元は仲間内の為のもので、兵や冒険者に気取られないようにする為のものだった。それをこんなにもあっさりと見抜かれてしまったのだ。何も言えなくなっても仕方がない。



「噂ってもしかして僕が調べてきたやつ?」


「ああ」



 焼き鳥を食べ終えたパンドラが素朴な疑問を口にした。それにメイビスは肯定を表し、目の前の店主に懇切丁寧に説明を始めた。



「この街で聞いた噂の中に『暗躍する謎の組織』『誰も知らない秘密の空間』というものがある。これらは一見なんの関連性もない噂だが、この噂を補いながら一つに繋げるとどうなる?」


「えーっと、『誰も知らない秘密の空間に暗躍する謎の組織が潜んでいる』とか?」


「正解だ。では、それに『組合(ギルド)裏の人気の酒場』という噂を混ぜるとどうなる?」


「えーっと、『暗躍する謎の組織が潜む誰も知らない秘密の空間が組合(ギルド)裏の人気の酒場にある』ってとこかな」


「そう、つまりはそういうことだ」


「あー、なるほどねー」



 ここまで説明し終わると、パンドラは納得したように頷き、店主は無言で立ち尽くす。



「さて、ここまでで何か間違っているところがあったかな、店主(マスター)?」


「………いいえ、ございません。ですが一つだけ、何故『組合(ギルド)裏の人気の酒場』という噂に目を付けたのですかな。前者二つの噂は怪しいものだと分かりますが、後者は違う。こんな何の変哲もない噂に何故目を付けられたのですかな?」


「場所だよ」


「場、所?」


「ああ、普通こんな裏路地の突き当たりに店を構えるかね。秘密の酒場というにも程がある。しかもそんな場所にある店が人気と言われれば違和感を覚える」



 その言葉に店主は頭を抱える。そう、確かにこれは矛盾している。こんな人が来ない場所にある店が人気などと滅多に有り得ないのだ。



「ああ、ついでに言うなら組織の本拠地はこの真下、地下下水道のある辺りだろう」


「そこまでお気付きでしたか……」


「私の優秀な眷属が地図に載っていない空間に気付いたものでな」



 ここまでくるともうぐぅのねも出ない。ただ溜め息をつくしかなくなる店主だった。まさかこんな小さなヒントで答えまで行き着く者がいるとは思わなかった。しかも、その眷属とやらもかなり優秀だということが先程の会話で分かる。地図にも載っていない空間を見抜くなどそんじょそこらの人間には不可能だ。

 そこまで整理すると店主は覚悟を決めたように切り出す。



「それで、一体何が目的ですかな?」


「何、私を組織に入れて欲しいだけだ」


「構いませんよ」



 その言葉にメイビスは面食らい、一瞬ポカンとする。

 パンドラはちびちびと酒を口に運んでいる。

 店主はそれを見ると二カリと笑う。



「あっさりと決めたな」


「ええ、逆らえばどうなるか分かりませんからなぁ」



 店主は「それに」と付け加え、更に言葉を続ける。



「私めの料理を美味い、と言ってくれましたからなぁ」



 その言葉にメイビスはまた面食らう。



「……それだけか?」


「ええ、それだけですぞ」



 暫くの沈黙が訪れ、



「ク、ククク、ククククククク、クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」



 メイビスは唐突に笑った。



「貴様、面白いな」


「お褒めに預かり光栄でございます」



 店主は大袈裟に頭を下げ、ニカッと笑顔を浮かべる。それを見てメイビスも機嫌を良くする。先程まで険しい表情を浮かべていた店主も今では笑っている。これが年の功というものなのか。



「まぁ、私めにそれを決める権利はありませんがな」


「となると、ボスは別の人間ということか」


「ええ、ですからご案内致します」



 徐に店主は後ろの酒棚の中にある一つの酒瓶を下方向に押した。すると、駆動音と共に酒棚が横方向にずれ、酒棚の裏から下へ続く階段が現れた。明かりが無く、階段の先には闇が続いている。



「此方へどうぞ」



 店主はそう言い、階段の方向を指し示す。それを見て、メイビスはカウンターを飛び越え、階段の前に立つ。



「エスコートは頼むぞ、店主(マスター)


「畏まりました」



 そして、階段を降りて行く店主の後ろをメイビスは付いていった。店主の持つ蝋燭が階段を照らし、降りる度に足音が響く。その途中、メイビスは小さく笑った。



「これで老人に一本取られたのは二度目だな」



 そう呟くと、店主とメイビスは闇の先に消えて行った。
















































「ねぇねぇ君達、格好付けて殺気を浴びせたけどやり返されて失神するってどんな気持ち?ねぇ今どんな気持ち?ねぇねぇねぇねぇ??」


「………」


「………」


「………」



 尚、パンドラは失神した客達を煽っていた。



今回、回収しなかった伏線は次回回収予定であります。



※これまでのサブタイトルに第~曲が正しいのに、第~話と誤っているものがありましたので修正しました。

すまない。本当にすまない。




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