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転生死神と眷属による異世界奇想曲  作者: 田中 てんまる
死の館編
16/33

第16曲 人狼

 


 カーデットとの熾烈を極めた激闘の末、カーデットを倒したことにより、骸骨兵(スケルトン)は活動を停止し、コボルトは勝利を納めた。幸いにも死亡者はおらず、戦士長が後頭部に大きなたんこぶを作るだけに留まった。それが暫くコボルト内での笑い話になったのはまた別の話。


 勝利を納めたコボルトは村に帰り、メイビスも眷属に館の修理と掃除を命じ、ノアと共に村に戻った。ちなみに、修理とは玉座の間でノアのやったワイトバラバラ殺害事件でボロボロになった部屋のことである。何でも部屋中に穴が空いていたらしい。十中八九ノアの脚跡だろう。これは足ではなく脚で付けられた跡なので誤字ではない。


 何はともあれコボルトは見事村への生還を果たした。その時は本当に凄い歓声が上がった。戻ったのは昼だというのにすぐに宴の準備を始め、ノアは起きていられる訳がなく、村に戻ってすぐに寝た。ジルバが自分の寝床を使って良いと言ったが、藁を敷き詰めただけの寝床にノアが「却下」と冷静に言い放ち、毎度お馴染みのハンモックで寝た。勿論、自家製である。


 メイビスは宴に参加し、眷属もいない為、支配者の顔をする必要も無いので、あくまで余所行き顔で楽しんだ。途中、酔ったコボルトが絡んで来たが、そのままジルバに押し付けた。本人は大人気で周りにいる大量の酔っ払いの対処をしていたので気にせず送り込んだ。視線が恨めしげなものだったが真顔でサムズアップをして、その場から離れ、出された料理に舌鼓を打ち楽しんだ。


 この身体は基本的に人間なのでこういった娯楽を楽しめるのは本当に良かった。カーデットのような骸骨姿では食事など楽しみようがなかっただろう。



 そうして、宴は夜まで続いた。



 ◆



 翌日、メイビスは日が昇る前、朝早くから長老の家を尋ねた。前日より伝えていた為、長老は身だしなみを整え、穏やかな表情で佇んでいた。



「この度は我らコボルトをお救い頂き、誠に感謝しております」



 開口一番でそう言った長老は、頭を下げ、深々とお辞儀をしていた。先程まで椅子に座っていたが、態々立ち上がっている。



「構わん。それよりも話がある」



 その言葉を聞いた瞬間、長老の身体が一瞬固まり、穏やかな顔は消え、真剣な面構えに豹変する。そんな長老に取り敢えず椅子に座ることを促し、メイビスは率直に言った。



「単刀直入に言う。私の傘下に降ってもらう」


「分かりました」



 長老は間を空けずに言った。その言葉にメイビスは呆気に取られる。正直、前回みたいにスーパー長老と化して、亀ならぬいぬはめ波を撃たれる覚悟でいたが、あっさりと受諾されてしまった。


 そんなメイビスの様子を見た長老は微笑した。その笑みはどこか、してやったりという感じが含まれている。



「実を言うと貴方様と話し合いをしたあの時から決めておりました」


「ほう、理由を聞かせてもらっても?」



 メイビスの問いに長老は静かに頷く。それを了承の合図だと捉えたメイビスは耳を傾ける。



「我々コボルトは弱い種族です。力で挑まれれば為す術なく、滅びの道を辿りましょう。今回の一件でそれが身に染みました。なので我々は貴方様の傘下に加わります」



 その代わり、と長老は話を続ける。



「我々コボルトを守って頂きたい。貴方様がコボルトを守護してくださいますれば、我々は血を流すことも、絶滅することも無くなる。どうか、コボルトの未来の為、よろしくお願い致します」



 長老は深々と頭を下げた。その顔は種族の長として、現在のみならず未来まで見通した賢者の顔付きだった。

 長老の様子にメイビスは微笑み、満足そうに身体を完全に椅子に預ける。ギシッと木製の椅子が軋む。



「コボルトの長よ。貴方は今、最良の選択をした。貴方のその判断はコボルトの歴史に賢者として刻まれるだろう」



 そう言うとメイビスは立ち上がり、長老の前に手を差し出す。その手を長老は高齢とは思えぬ程、力強く掴んだ。



「メイビス・クライハートの名において、コボルトに永遠の繁栄をもたらすことを誓おう」



 この日、メイビスとコボルトの主従関係が結ばれた。



「さて、長老。そうと決まれば全コボルトを広場に集めてくれ」


「何をなさるのですか?」


「何、私の力を与えるだけだ」



 メイビスはまた、笑みを浮かべる。悪戯をするような邪気のある笑みを。



 ◆



 コボルト達は広場にて集められていた。数が減っている為、その数は百にも届かず、かなり少なくなっていた。


 メイビスはコボルト達の前に立ち、その横に長老が並んでいる。コボルトが全員集まったことを確認すると、長老が皆を見据え、大きく息を吸う。



「皆、よくぞ集まってくれた。今回、我々は大いなる脅威に見事に打ち勝った。それもこれもコボルトの為に尽力してくれた皆の力があったからだ。本当に良くやってくれた」



 長老の言葉に皆が誇らしげに顔を煌めかせる。コボルトにとって今回の戦いは誇らしいものだったと、そういう感情がひしひしと伝わってくる。



「そして、今回の戦いで勝利を収められたのはこのお方、メイビス・クライハート様の力添えがあったからに他ならない」



 コボルト達がざわつく。ある者はその顔からはありありと憧憬の二文字が読み取れ、ある者はその貢献に大いに感謝した。



「しかし、今回は勝利を収めたものの、いつまたこのような戦いが起こるか分からない。その場合、我々は勝てるかどうか分からない。よって、我々コボルトはこの方の傘下に降ることとした!」



 コボルト達がまたざわつく。今度は全員が驚愕の表情を表している。だが、そんな中でも反対の言葉は上がらなかった。それは、コボルト達が彼、メイビス・クライハートの力を認めているということだった。

 それもそのはず、彼等は昨日の宴でジルバからメイビスの戦いぶりを聞いていた。その鬼神の如き戦いぶりにコボルトの誰もが驚愕し、感嘆していた。本人は死神だが。


 すると、メイビスの口が開かれた。



「ふむ、こうして君達の前に立つのも二度目かな。今回、君達コボルトは私達の配下に加わることとなった。ので、君達には力を与える」



 メイビスはコボルト達を見据え、その手に己の魔力の塊を作り出す。



「受け取ってくれ」



 そう言い放つと、魔力の塊が弾けた。それは空へと昇り、やがて、流星群のようにコボルト達へと降り注いだ。


 そこでコボルト達は意識を手放した。



 ◆



 ジルバが目を覚ました時には外は茜色に染っていた。さっきまで、メイビスの話を聞いていた筈だが、紫色の彗星が自分に降ってきた所で記憶が無くなっていた。



「目を覚ましたか」



 突如、横から声がかかった。そこには木の椅子に座ったメイビスが足を組んで佇んでいた。



「ふむ、魔力を注ぎ込むと個体差は有るが身体に馴染むまで半日程時間を要するらしいな。良いことを知った」



 まるで、研究の結果を見る学者のようにメイビスは顎に手を当て、今回の結果を述べていた。ちなみにジルバはコボルトの中でも一番目覚めるのが遅かった。

 ジルバはここがどこか問おうとして気付いた。ここが長老の家だということに。



「何故俺はここに居る?」


「わしが運んだからじゃよ」



 その言葉にジルバは振り向き、絶句した。そこには人間がいた。筋骨隆々で白髪を携えた老人とは思えないような男が。しかし、よく見ると頭に獣の耳、臀部に獣の尻尾がついている。

 ジルバはまさかと思い、声を掛ける。



「………長老ですか?」


「そうじゃよ」


「何故そのような姿に……」


「ジルバよ。お主も自分の身体を見てみよ」



 そう言われ、ジルバはすぐ横の姿見を覗き込んだ。そこには、灰色の短髪に犬耳を生やした人間の青年がいた。



「こ、これは一体……」



 ジルバは余りの衝撃に一瞬思考が止まってしまった。それ程までに今の己の姿に驚愕した。



「【人狼(ウェアウルフ)】。コボルトの進化種族で、その姿は人間と酷似しているが、ひとたび力を解放すれば凶悪な狼へと変貌する」



 メイビスは脈絡も無く、語り出した。そして、その言葉で自分の今の状況が判明した。


 魔物はある程度魔力が備わると進化し、その姿を変えると聞いたことがあった。それが、己の身に起こったのだと漸く理解した。



「おめでとうジルバ。君は人狼(ウェアウルフ)へと進化した」



 その事実に、何か熱いものが胸から込み上げてくるような気がした。それが己の力が増したことへの喜びだと遅れて理解した。

 暫くその気持ちを噛み締め、そして、決心した。



「メイビス、お前には大き過ぎる程の施しをしてもらった。だから、これからはその恩に報いよう」



 ジルバはこれから、この男の下でその力を振るうと。



「ああ、精々頑張ってくれ」



 その言葉にメイビスはぶっきらぼうにそう告げた。








「ところでお前口調変わり過ぎじゃないか?」


「まあ、色々使い分けてるからな」


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