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転生死神と眷属による異世界奇想曲  作者: 田中 てんまる
死の館編
10/33

第10曲 死の館突入

ペースの割に文章量が少ないという壁、何とか乗り越えたい。そんな作者です。


 


 ◆



 その男は館の廊下を足早に進んでいた。男の外見は一言で表すなら即身仏(ミイラ)だ。床にはレッドカーペットが敷かれ、壁では燭台の蝋燭に灯った炎がゆらゆらと揺れている。窓のカーテンは、害悪な光を遮断する為、全て閉めてある。

 男が歩を進めていくと、巨大な扉が見えた。扉には大きく、髑髏のレリーフが彫られていた。男は巨大な扉を両手で押して開いた。見た目程の重さは無く、軽く押すだけで簡単に開く。

 その部屋は他のどの部屋よりも豪華絢爛で、黒曜石を基調とした造り、天井には明かりを灯したシャンデリア、部屋の奥の一段高い所にある人骨を繋ぎ合わせたような骸をイメージした玉座、入口から玉座まで続く廊下のものより色鮮やかなレッドカーペット、どれをとってもただただ感嘆の声を漏らすばかりである。

 玉座には赤と黒を基調に彩られたローブを羽織る偉大な主人が座されていた。すぐ側に自らの武器である『死の鎌(デスサイズ)』が置かれている。

 男は主人の前まで行くと、徐に跪く。顔を伏せ、事態について伝える。



「コボルト共がこの館に向かって来ております。いかが致しましょうか」



 そう切り出すと、主人は怪訝そうな態度をとる。その理由は男にも分かっていた。



「何故だ。この館には不可視化の結界魔法を施していたのではなかったのか、ワイトよ」


「わ、分かりません。私も困惑しております。あの魔法は中位に位置する魔法です。私の最高とも呼べるあの魔法をコボルトが看破できるとは到底思えません」



 重々しい空気の中、何とかことの次第を伝えられた。先程からとんでもない重圧(プレッシャー)がワイトと呼ばれた男を襲っていた。



「考えられるのは…コボルトに協力者がいるということです。それも上位の魔法使いの可能性が高いです」



 恐る恐るその推測を主人に伝えた。ワイトは激昴、侮蔑、攻撃、それらが来ると予想し、覚悟を決めていた。この方に滅ぼされるなら光栄だ、と。しかし、主人の反応はそのどれでも無かった。



「く、くははははははははっ!!」



 笑っている。大声を上げ、その骨だけの身体を軋ませながら、高らかに、豪快に笑ったのだ。



「この私に歯向かう魔法使いとな!面白い、面白いではないか。よかろう、返り討ちにしてくれよう」



 そう言うと、また彼は高らかに笑った。



 ◆



「てな感じで笑ってるだろうな。ラスボスなら」


「……………なんの話?」


「何、こちら(ゲーム)の話だ」



 メイビスとノアは鬱蒼とした森の中を進んでいた。死の館を目指し、のんびりと歩いている。戦場へ向かうというのに焦燥も緊張もありはしない。清々しい程までにいつも通り、通常運転だ。



「……それよりも……さっきの続き……」


「ああ、不可視化を無効化する役か?それは私ではない」


「じゃあ……やっぱり……」



 そう言う顔には明確な落胆が込められていた。無表情なノアだが、彼女が関わると比較的に感情を露わにすることに最近気が付いた。具体的に言うと数時間前。



「そう目に見えて落胆することはない。こういうのはどう考えても奴の分野だ。奴はこういう時の為の眷属だからな」



 そう言ってもノアの顔は暗いままだ。落ち込むノアを気休め程度の言葉でしか慰められなかった。この事実にメイビスも落ち込んだ。



 ◆



「くちゅん!」



 静かな森にくしゃみの音が響く。木の枝に二人の眷属が佇んでいた。



「誰かあたしの噂でもしてんのか?」


「…………可愛らしいくしゃみっスね」



 メデューサとリーベはとある地点に待機していた。メイビスの作戦の為、ここでその時が来るのを待っているのだ。



「それにしても、なんであたしの護衛がリーベなんだよ!」


「そりゃー森ってのは私のホームっスからねぇ。それとも私だと何か不都合でもあるんっスか?」



 意地の悪いニヨニヨとした笑みを浮かべ、リーベは挑発気味に尋ねる。



「テメー絶対あたしで遊ぶつもりだろ」


「何を失礼な!そんなこと、この私がする訳ないじゃないっスか」


「だったらその背後の蔓植物はなんだぁー!!」



 リーベの背後には地中から出て来た蔓植物が空中でうねるように蠢いていた。傍から見ると、蛸の触手のようだ。



「いやー最近の蔓植物って元気ハツラツっスねー」


「空中で蠢くそれらをそんな言葉で片付けられると思ってんのか?」


「バレてしまっては仕方ないっス。行け、お前達!」



蔓はメデューサ目掛けて飛んで行く。リーベの目が楽しそうに煌めく。



「や、やめろおぉー!!」



 間一髪のメデューサだが、蔓の動きがピタリと止まった。大地の振動が聞こえたのだ。戦士の足踏みが遠くから響いてくる。コボルトの軍勢が近付いて来ているのだ。



「ありゃりゃ、仕事の時間っスねぇ」


「ああ、助かったぜ…」



 すると、メデューサは目を閉じる。そして、静かに開く。開かれた目には淡い黄色の光が宿っていた。メデューサはその目である一点を見る。すると、何も無いその場所に硝子が割れるような音と共に巨大な館が現れる。



「ひゃー話にはきいてたっスけど本当にあったんスねー」


「なんだよ、信じてなかったのかよ」


「そりゃ私には見えてなかったっスからねー。とりあえずこれでお仕事終了っスよ」


「まあ、目離したら効果無くなるからずっと見てなきゃいけないけどな。それでもまあ後は観戦するだけだな」



 そして、二人はそのまま笑みを浮かべながら木の枝に座った。



 ◆



「突撃ぃぃぃぃ!!」



 騒々しい怒声と共にコボルトの戦士達が館の敷地内に押し寄せる。その様子はまさに鬼気迫るものだった。その後ろに全く違う空気の二人がいた。



「やれやれ、暑苦しいな」


「……うるさい」



 メイビスとノアは変わらず歩いていた。何故、この二人が歩いていたというのにコボルト達とほぼ同時に着けたかというと実はコボルト達に遠回りな道を教えていたのである。これは眷属の準備の時間稼ぎの為だ。その為、メイビスとノアはのんびり歩いてきた訳だ。



「しかしこれが死の館か。思いの外、豪華な造りだな」



 彫刻のようなレリーフの彫られた門と長い石造りの壁、門だけでどれほど豪華な建物なのが伝わって来る。しかし、おおよそ戦いに向いた屋敷では無い。これならば落とすのは容易いだろう。



「さて、私達も入ろうか」


「…ん」



 そして、メイビスとノアは無駄にアートな門を潜る。門を潜りまず目に入ってきたのは墓だった。石造りの白い十字架が等間隔に地面に大量に刺されている。



「なるほど、死の館に相応しい光景だな」



 それにしても、この墓場はかなり広い。敷地の殆どを墓が埋め尽くしている。ざっと見ても千はあるだろう。

 墓の先に館が見えた。白い外壁に黒い屋根といった西洋風の造りだが、壁の色が所々禿げ、白というよりも廃れた灰色で、館には植物の蔓が屋根まで張り付いている。それはどう見ても廃墟、もしくはホラーハウスだった。

 そんな館の前にコボルトが集まっていた。館の扉をこじ開けようとしているようだ。各々が武器で扉を殴っている。


 ここは俺の館にする予定なんだから乱暴はやめて欲しいな。



「しかし、先程から敵が現れないことが奇妙だな。我々など格好の的だろうに」



 そう呟いたメイビスだが、その疑問はすぐに解消されることになる。突如、墓の十字架の一つが倒れた。すると、その場から骨の手が生えてくる。他の十字架も倒れ、地面から死者が蘇る。それはコボルトを襲ったという骸骨兵(スケルトン)だった。墓の数だけ骸骨兵(スケルトン)は湧いてくる。



「なるほど、千体ものアンデットを何処に隠していたかと思えば。確かにこれなら屋敷内でかさばらない。正しくデッドスペースの活用だな。クハハハ」



 骸骨兵(スケルトン)達はコボルトに襲いかかる。しかし、コボルト達もそんな骸骨兵(スケルトン)達を待ちわびていたかのように突撃する。その実力は確かで、骸骨兵(スケルトン)達を次々に薙ぎ倒していく。

 これならば外は問題ない。そう思いメイビスは館の扉の前に立つ。さっきまでコボルトの攻撃を受けていたはずなのに、扉にはかすり傷一つ付いていない。これはどう考えても魔法によるものだろう。例え、コボルトの戦士が束になってもこの扉は破れないだろう。



「だが私には関係の無いことだ」



 《強制魔法解除(マジック・キャンセル)



 メイビスは扉の取っ手を掴み、勢い良く扉を開ける。扉にかかっていた魔法は完全に消し去られた。



「さあ、行こうか」


「…ん」


「待て!」



 メイビスとノアが館に足を踏み入れようとした時、背後から呼び止める声が聞こえた。振り返るとそこにはジルバがいた。ジルバだけでなく彼の周りには十人程の戦士もいた。



「俺も行かせてくれ」


「そうか、なら来い」



 メイビスはその申し出をあっさりと呑んだ。元よりそうするつもりだったからだ。ラスボスを倒してもそれを見た奴がいなければ本当かどうか信じてもらえない。その証人としてジルバは最適なのだ。



「戦士長、俺達も行かせてください!」



 ジルバの周りにいた戦士の一人がジルバに向けて言った。しかし、ジルバは厳しい言葉をその戦士にかけた。



「駄目だ」


「何故ですか!」



 戦士は激しく反発する。それは彼が比較的若い戦士だからこそだろう。それ故にジルバは止めるし、若いからこそ反発する。



「お前達はここを守って欲しい。骸骨兵(スケルトン)共が入ってこないよう、ここで食い止めてくれ」



 なるほどどうして上手い躱し方だ。こうすれば誰にも不満は残らない。流石は戦士長といった所か。戦士達もその言葉に頷いている。それは先程反発していた彼も同じだ。



「戦士長、ここは任せて下さい。だから、絶対あの糞っタレの親玉を討って下さい!」


「ああ、勿論だ!」



 話は纏まったようだ。改めて館に入ろうとすると、ノアが先程の戦士達の方に近付いていく。



「……負けたら……分かってるよね………」



 その場にいた戦士達の顔が蒼白になり、そして、より険しい顔付きに変わる。



「絶対勝つぞおぉぉぉぉ!!!」


「ウオオォォォォォォ!!!」



 それは復讐というより、死にたくないといった感情からきた雄叫びに思えた。そして、張本人の童女は何食わぬ顔で帰ってくる。



「…ノア、コボルトに何した?」


「………黙秘」



 沈黙を決め込む彼女については、後日、取り調べるとしよう。

 そうして何処か締まらぬ状態で、三人は屋敷に足を踏み入れた。


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