酒場の男が語った話
ん?ドラゴンの話だぁ?何でそんなモン俺に聞く?
酒の肴?まあ、いいけどよ。
じゃあ、聞けよ?
一昔前、こっからずっと行ったとこに――
――一昔前、こっからずっと行ったとこにゃ、それはそれはでっけぇドラゴンが居たって話だ。
――あ?何でそんなとこにドラゴンが居たかって?
――俺が知るわけねえだろ、そんなもん。
――まあ、そこにドラゴンが居たわけだ。
――アンタも、ドラゴンの素材が高く売れるってこたぁ知ってんだろ?
――あれは何にでも使えるからなぁ……牙にしても皮にしても。
――まあ、そんな訳で、お偉いさん方、いや、ドラゴンを討伐して名を上げたい奴や金が欲しい奴、素材が欲しい奴……、とにかくまあ、いろんな奴がこぞって狩ろうとしたワケだ。
――結論から言っちまうと、出来なかったんだが。
――あれは、惨憺たるって言葉じゃ足りねえ位の惨状だったなあ……。目も当てられねえっていうか、直視したくねえというか。
――何で知ってるかって?
――そりゃあな。
――帰って来たんだよ。
――ボロッボロな状態で、魔法で転送されてな。
――ギリギリで生きてるけど、最早廃人ってな感じだった。
――街に帰って来てんのに、「ドラゴンが……ドラゴンが追いかけてくる……」ってな具合に、怯えきっちまったように呟いてんだ。
――今思い出しても寒気がするぜ……。
――帰って来た奴らには「次は無い」って字が刻み付けられてたのさ。
――文字通り、ざっくりとな。
――そっから、この街は“ドラゴンにゃ手を出さない”ってなってんのさ。
――だが、お偉いさん方はどーしてもドラゴンを討伐したいらしくてな。
――懲りもせずに、送り込み続けてたらしい。
――数年前まで。
――何で分かんのか、って顔だな?
――この店、酒場だろ?
――アンタが聞いたみたいに酒の肴だったりなんだったりで、情報交換されてたわけで。
――数年前までは“邪竜討伐”の依頼についてよく噂されてたんだが、今じゃめっきり聞かれない。その代わりみたいに、“『ずっと討伐隊を送り続けてた国』が消えた”“ドラゴンの怒りを買って滅ぼされた”っていう噂話が聞かれるようになって、随分と経ってる。
――多分、もう無くなってんだろうよ。
――『警告した筈だ』って刻まれていたらしいし、何より――。
――見に行った奴の話じゃ、ずっと同じところに居た筈のドラゴンは、もう其処には居なかったらしい。
――“飛んで行くドラゴンを見た”ってどっかのガキも言ってたしな。
――聞いたときゃあ、ガキの戯言だと思ってたんだが。
――……これは、“邪竜討伐”に行った俺の知り合いから聞いた話だが。
――討伐するその“邪竜”の傍に一人、ガキが居たらしい。
――ま、これは関係ない話だろうが。
――その時討伐に行った奴らは全員が目撃してたらしいから、一応、な。
――まあ、俺が知ってんのはこん位だな。
つうか、金を貰っといてあれだけどよ、そんなに価値のある話か、これ?
普通こういう話――しかも与太――は良くて銀貨数枚だぜ?
まあ、後で文句言ってこねえなら、いいけどよ。
おっと、勘定かい?ひい、ふう、みい……。確かに。
ウチにゃあ酒と与太話しか無えが、また来てくれよ!