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俺もとうとう異世界に来たが親切なんてあったもんじゃない  作者: 迦具土楽文
始まりの章~修行~
8/12

商店街を見て回ることになった

 朝飯が遅かったせいもあって、俺たちはそのまま買い物を続行することにした。次に見て回るのは特訓用の道具らしい。


 武器や特訓道具は少し進んだところにあって、今から行く店が一番品揃えが豊富なのだという。笑顔で教えてくれたユアは少し物騒である。


 武器屋の店は少し変わった風貌をしていて、看板が斧の形をしていたり、ドアに槍のマスコットがぶら下がっていたりする。窓枠はケガをしない程度の大きい棘が並んでおり、二階からは大砲が飛び出している。めちゃくちゃ攻撃力が高そうな店だった。いやでも大砲て。おもちゃ屋かここは。


「このお店はね、街で一番遊び心のある武器屋なんだよ!」


 ユアはキラキラと輝いた瞳でそう告げた。武器屋に遊び心があって良いんだろうか? 一つ間違えればただの殺人道具なんだぞ……。


 俺は若干呆れながらも店の中へ入る。店員は厳つい男性が一人、石の並べ替えをしているようだった。ユアは構うことなく、陳列されている刃物を見る。両刃の剣が殆どで、サイズは大から小まで置いてあった。大きいもので刃渡り百三〇センチほどはあるんじゃないか? 小さいものは果物ナイフくらいの大きさだ。


「ヒロトはどんな剣が使いたい?」

「あ……片手で使える奴」

「短剣? 長剣?」

「長剣が良いな」


 俺は頭の中で勇者を思い浮かべる。あのスライムが特徴的な名作の奴だ。あの主人公の様に盾で守りつつ、剣で攻撃できたらカッコいいんだろうな。


 ユアは少し思案してから店内を見回す。何を探しているか分からないから、俺は俺として好みの剣を探す。ゲームで見るような小洒落た装飾が着いているのは少なく、大体はシンプルな見た目になっていた。しかし柄の部分にはいくらか絵が掘られていて、シンプルでありながらカッコいい見た目だ。


 異世界なんだなと実感すると共に、俺は憧れを膨らませた。


 この剣を振り回してモンスターを薙ぎ倒す。それは少年なら誰だって夢見る構図だ。展開だ。


 俺が妄想していると、ユアが一本の剣を持ってきた。刃渡りは一メートルも無いほどの剣だ。持ってきたのはサンプルなのだろうか? とりあえず受け取って持ち上げてみる。


「重っ!」

「それが長剣の平均的な重さなんだよ~」

「マジかよ……」


 剣は俺が想像していたよりもずっと重いものだった。金属の塊だから重いのは当然だ。もし俺が今振ったなら、この剣はあらぬ方向へ飛んでいくんじゃないか? それくらいコントロールが効きそうにない。


「よし、まずは体力作りから始めないとだね」

「……はい」

「この様子だと、鎧をつけるのもまだ無理そうだね……」


 返す言葉もありません!


 剣の購入は一度断念して俺たちは武器屋を出る。武器を持つのは憧れだったけど、体力が無いんじゃ元も子もない。


 当初の目標であった服屋と武器屋はクリアしたので、俺たちはブラブラと街を歩くことにした。綺麗な街だからゆっくりと見たいと思っていたんだ。


 商店街を抜けると小さな公園がある。小学生くらいの子供たちが走り回っていて可愛らしい。吟遊詩人も椅子に腰掛けながら歌っていたり和やかなムードだ。


 隣のユアはどう思っているのか気になって、俺は横を向いた。ユアはモジモジと落ちつかなそうに辺りを見回していた。挙動不審って奴だ。


「どうした?」

「あ、えっと、ごめん、ちょっとトイレ!」


 そう言ってユアは一人走り出してしまった。先ほど来た方向だから、商店街へ向かったんだろう。トイレなら仕方ないな……。


 俺は公園を回って見ることにした。木々が青々としていて綺麗だ。もしかしたら面白い虫とかいるかもしれない。


 よくよく木を見てみると、日本で見ていた木とはちょっとだけ違っている。側面に細い枝が所々に生えていて、触ってみると触手のように動くんだ。数秒動いてまた元に戻ってしまうのが少し面白い。


 俺は少しワクワクしながら園内を回る。


「うぅ……」


 それは人の呻き声にも聞こえた。背後から聞こえ、振り返るが誰もいない。念のため木の上や生え際を見てみるがやはり誰もいない。俺の聞き間違えだろうと歩き始めようとした時。


「うぅ……」


 やはり呻き声が聞こえる。振り返っても人はいない。もしかしたらもっと奥かもしれないと、俺は木が密集しているところへ入っていく。くもの巣が顔にかかって気持ち悪い。


 三メートルほど進んだところで、その呻き声の正体は現れた。倒れている男性だった。若いようで二〇歳前後の人のようだ。顔はそこそこ整っている、金髪の青年。額の眉は苦痛を感じているのか強く寄せられていて、息は途切れ途切れだ。


 公園でこんなになるほど傷つくものだろうか? そう疑問に感じながらも、俺は青年を抱えて茂みを抜けた。青年は今も苦しみに呻いている。


 どうしよう? 俺にはそんな知識は無いぞ……!


「め、目を覚ませ! 目を覚ますんだ!」


 まずは意識の確認だろう。二回呼びかけても青年は目を覚まさない。三度目、俺が呼びかけてようやく薄っすらと目を開けた。しかしそれも今にも閉じられそうだ。


「……どな、た、ですか」


 青年は擦れた声でそう言った。今にも潰れてしまいそうな声だ。どうしよう。


「……水、を、下さい」


 青年はそれだけ言って目を閉じる。どうしよう、水、水なんて俺持ってないぞ。いや、確かチラっとだが公園のどこかに蛇口が見えていたはず。


 俺は再び青年を抱えて歩き始める。どこだ、水道は……どこだ。必死に探す。


 必死に、といっても小さい公園のためにすぐに見つけることが出来た。まずはこの青年をそこまで運ばなければならない。俺より少し高いくらいの青年は重く、腰にぶら下がっている剣も相まって引きずるのも一苦労だ。でもまずは人命救助が先、俺は頑張って水道まで青年を運んだ。


「ほら、水だ。目を覚ませ」


 軽く頬を叩いて青年を目覚めさせる。この公園の水道は、ユアの家とは違って普通の水道だった。俺はつまみを捻って水を出し、青年の顔を近づける。


 水が唇についた辺りで青年は目を覚ましたようで、一心不乱に水を飲み始める。よほど喉が渇いていたらしい。俺はしっかり青年を支えながら、青年が飲み終わるのをじっと待っていた。

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