やっと買い物の始まり
やっと部屋着から開放されるヒロト
写真館の中はアンティーク調で纏められていて、凄く上品な雰囲気だった。店に入るとまず目に入るのが大きな振り子時計、左には衣装がズラリと並んでいる。右はレジが置かれたカウンターが合った。
俺たちが興味津々に中を見ていると、二階からゆっくりと人が現れる。白い顎鬚が勇ましい男の人だった。多分四〇歳か五〇歳くらいではないだろうか。しわの濃い人だが、そのオーラは優しげだった。
「お客さんか」
「はい、通過証の撮影に」
「分かりました。それでは二階へどうぞ」
店主に続いて俺たちは二階へと上がった。一階とは違い、白いシートと反射板、ライトとカメラが置いてある。カメラは少し古い見た目をしているが、凄く機械的なものだった。
俺はてっきり魔法で撮影するのかと思っていたから拍子抜けだ。この世界、魔法がある分故郷より少し時代が遅れているが、物凄く近代的である気がする。
想像していたよりずっと違う世界観に俺が驚いていると、店主は白いシートの真ん中に椅子を置いた。茶色に金の模様がついたフカフカの椅子だ。めちゃくちゃ高そう。店主は俺をシートまで誘導して椅子に腰掛けさせる。座り心地はフカフカすぎて少し気持ち悪いくらいだ。
「では五秒ジッとしていて下さいね。撮ります……三、二、一、はい! 大丈夫です。もう一枚いきますよ。撮ります……三、二、一、はい! 大丈夫です」
フラッシュが一瞬で消えると思ったら、五秒間ずっと照らされるらしい。俺は眩しさに耐えながら三枚の撮影に成功した。俺は良く頑張った方だと思う。
部屋の端っこで座って待っているユアを見ると、ニッコリと笑い返してくれた。嫌味の無い笑顔だったから、多分俺は大丈夫だったんだろう。
「では通過証を預からせていただきます」
「あ、はい!」
俺は持っていた仮の通過証を店主に渡した。手汗がついていないか心配だったが、考えないでおこう……。
「では三日後、またお立ち寄りください。それまではこちらの著名証書をお持ち下さい。通過証を預かっている間はその著名証書が通過証の代わりとなります」
「分かりました」
「それでは一階へ」
ユアは終わった様子を見てこちらに近づいた。俺たちは一緒になって一階へ向かう。一回では既に店主がカウンターの中へ入って何かを作っているようだった。小さい紙に羽ペンで書く姿は結構かっこいい。俺も一度書いてみたいもんだ。
ユアは持ってきたカバンを開けてポーチを取り出した。
「ではお会計になりますが、通過証の撮影で六六リレ二二ミルになります」
「あいよー」
ユアは既に数え終わっていた硬貨を出し会計を済ませる。リレやミルなんて聞いたこともないし、いくらか分からないけど結構するんじゃないか? 俺はヒヤヒヤしながらユアを見た。ユアは先ほどと変わらず和やかな雰囲気の表情のままである。それほど高いわけでもないのだろうか?
「ほら、ボーっとしてないで買い物行くよ!」
一リレがいくらか予想をつけていた俺は立ち止まっていた。ユアは早く街へ行きたいようで俺を手を引いて店を出て行く。
ユアの手が俺の腕を掴んでいる……!
「それじゃ、ブラブラ歩こうか!」
大通りまで出るとユアは手を引っ込めて俺の手を離してしまった。折角デート気分を味わえると思ったのに残念だ。
俺はリレのことなんてどこかへ投げ捨ててユアの後に続いていった。
商店街は活気に包まれていた。カップルが手を組んで歩いていたり、子連れの母親が子供に振り回されていたり、女子の固まりは展示されている服を見てはしゃいでいる。
俺の想像と違ったのは出店が無いことだ。異世界の街と言うから、出店が競って商売をしているイメージを勝手に持っていた。しかし見てみれば違うもので、雰囲気はもっと落ち着いた小奇麗な街である。一つ隣の道を覗いてみれば結構木が植えてあって、向こうは東京駅の近くにも似ているのではないだろうか。
「さて、まずはヒロトの服を探そう!」
そう言ってユアは近くの紳士服の店へ入っていった。結構お洒落な雰囲気である。黒や藍色を基調とした服が並んでいて、展示されている服も少しキッチリした見た目だ。
正直、この部屋着で入っていくのは相当辛い。
それをこの店に合うように着替えるんだから、当然と言えば当然だろう。
「ヒロト、これとか着てみてよ!」
ユアは早速俺に合う服を探してきたらしい。持ってきたのは白いシャツにベスト、黒いズボンだった。クール系のアイドルとかが着ていそうな服である。俺に似合うんだろうか……?
物は試しで俺は店の試着室を借りた。サイズは少し大きい程度だろうか。肌触りがいいシャツに袖を通してユアの前に出る。
ユアは少し難しそうに眉を寄せていた。似合っていなかったらしい。
「カッコいいけど、ヒロトはもっと軽い服装が似合う」
そう言ってユアは再び服を探し始めた。しかしここにはあまり軽い印象の服は少ないようで、早々に断念して俺たちは店を出た。何も買わずに出てきて申し訳ない。
どうやら向かいの店の並びにも服屋があるらしい。俺はユアの後を着いていって店へと入る。
今度の店はさっきの店と大きく違って、クールというよりは陽気な雰囲気の店だ。置いてある服も多色で、バリエーションが豊富である。
その中でユアが持ってきたのは薄茶色のシャツと少し濃い目の茶のベスト、そして茶色のズボンである。真っ茶っ茶だ。流石に全体を茶色にするのはどうなのかと思ったが、折角持ってきてくれた訳だし着てみる他ない。俺は試着室へと潜って渡された服を着てみた。鏡の中の俺は、スチームパンク世界にでも出てきそうな雰囲気である。これじゃただのコスプレじゃないか!
文句の一つも言いたいが、とりあえずはユアの前に出る。ユアは首を傾げて俺の全体をチェックしているようだった。流石にユアもこれは無い、と思ったのかまた服を探しに行ってしまう。
俺もさっさと脱いで自分で探すことにした。ユアに任せていたら時間がいくらあっても足りなさそうだ。
俺が見つけたのは簡単に着られるシャツとゆとりのあるズボン。それと軽く羽織れる薄い上着。ラフでいいんじゃないか? そう思ってユアに見せたら、ユアも納得したらしい。さっさと会計に向かって支払いを済ませてしまっていた。試着室を借りて着替えて良いらしく、値札を外して貰った服に俺は着替えた。
「後は靴だよ!」
俺の買い物はまだまだあるらしい。靴屋は隣にあるそうだ。
「靴は運動性の高い奴が欲しいね。でもあんまり高いのはなぁ」
ユアはそう呟きながら靴屋へ入る。女性用や男性用、様々なものが置いてあった。でもブーツが一番種類が豊富に見える。運動性が高そうに見えるのも結構あった。
店内を見て回っても、運動性が高そうなのは大体ブーツに集結している。ブーツの需要が一番高いんだろう。
靴に関してはチンプンカンプンな俺は、店主が進めるブーツを選んだ。ここ最近、若者の間で流行っているブーツなのだそうだ。服装にも一応合っているし、大丈夫だろう。
こうして俺の服装は揃った。時計は六刻を示していて、丁度昼時だった。
服に文字数取られすぎました