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俺もとうとう異世界に来たが親切なんてあったもんじゃない  作者: 迦具土楽文
始まりの章~修行~
2/12

改めて思うがこの世界とは

 俺は目を覚ました。視界に映って来たのは木目と小さな窓だった。ここは、家なのだろうか。だとしたら、誰の……?


 俺は体を起こして考え直す。俺は意識を手放す前、森にいて、そうだ少女に会ったんだ。緑色の長い髪の毛で、巻き毛で、青い目をした女の子。時代錯誤も(はなは)だしいローブをつけていたはずだ。彼女は今どこにいるんだろう。それに、俺を運んできた人物は。あの少女には到底運べないだろう。俺よりも細く、身長も低い。あぁ、でも俺を助けてくれたんだ。どちらにせよ感謝を伝えなければ……。


 俺はベッドから足を出して踏ん張った。起きたばっかりで、あまり力が入らなくふら付いてしまうが一応歩けるだろう。俺は一歩一歩慎重に歩き出した。


 部屋全体を見てみると、絵に描いた小屋のような内装をしていた。ほとんどの物が木製で、それも木目が見えている。天井にぶら下がっているのはランタンだろうか。明らかに電球ではなかった。家はしっかりとした作りになっているのに、今時電気が通ってないのは可笑しい。やはり、ここは異世界なのだと改めて認識する。


 立て付けが悪いのか、気味の悪い音を出すドアを開けた向こう側には、俺を助けてくれた少女が立っていた。ポットの中身をカップに注いでいる。それも二人分だ。運んでくれた人と少女で飲むつもりだったのだろう。こちらに気づいた少女はポットを置いて俺に向き直った。


「おはよう! 気分はどう?」

「おはよう。……悪くは無い。ありがとう」

「どう致しまして!」


 少女は明るく答えてカップの中身を飲む。アレは紅茶だろうか。透明感のある赤い飲み物はとても美味しそうだった。


「あ、これあなたの分。熱いから気をつけてね」


 少女はもう一つのカップを手に取り俺に渡してきた。香りもどうやら紅茶らしい。ゴクリ、と俺は喉を鳴らした。しかし、これは恐らく本来は俺を運んできた人に渡されるものだっただろう。俺が飲んでは申し訳ない。


「これ、俺を運んでくれた人のじゃ……」

「え? 運んだのは私だよ。あの森からちょっとあるから、もうクタクタ!」

「……いや、君に俺を運べる訳無いだろ!?」

「はぁ? え、まさか強化の魔法知らないの? 今時? あなたドコの人だよ!」


 少女は俺の言葉を信じていないようで、大口を開いて笑っていた。俺は至って真面目なのだが、彼女の雰囲気に飲まれて釣られて笑ってしまう。


 違う、俺は笑いに来たわけではない。どういう事か聞かなければいけないのに。そもそも魔法って何だ。この世界は魔法が存在する世界だとでもいうのか。


「ま、いーや。それで、あなたドコのから転送されてきたの?」

「転送?」


 またしても聞きなれない言葉を彼女は言った。「ドコから転送されてきた」だから、つまりこの世界には人を瞬間移動させる魔法もあるという事だろう。では、俺を助けた時の炎も魔法……? いや魔法魔法と軽々しく言うものではない。魔法を使えば魔女認定され公開処刑だと世界史か何かで聞いたことがある。でも知らない俺の方が可笑しいという口ぶりだったから、魔法は一般的なのかもしれない。


 寝起きの俺の頭をフル回転させても、こんがらがるばっかりで答えは見つからないでいた。


「んー知らない内に転送されちゃったのか。でもあんな難しい儀式を知らさずにやるなんて、意味不明すぎる。何もかも変な人だね、あなた」


 クスクスと笑う彼女は可憐だった。顔立ちも整っているように見えるし、染めてるように見える髪も顔とマッチしていてとても可愛くて。笑う彼女は可愛さも増していて心臓が高鳴る。さっきの大笑いも、よくよく思い返してみると可愛すぎる。


 難しいことを考えるのをやめた俺は、そんな馬鹿なことを考える余裕が出てきていた。何も解決してはいないけれど、あの場で彼女と出会えたのは本当に幸運だっただろう。


「さーて、こうやって拾ったのも何かの縁だ! 今日までは面倒見てあげる」

「ありがとう……」

「いえいえ。そういえば自己紹介がまだだったね。私はユア。まだまだ手探りの初心者だけど、魔法使いやってます」

「俺は酒木ヒロト。……普通の人間です」

「変な語感の名前! しかも普通の人間って!」


 そう答えた俺が面白かったのか、ユアはまた笑い始めた。今度は途中でお腹に手を当てていて、少し苦しそうだった。俺は至って真面目に答えているのに、ここまで笑われるとは流石に心外である。まぁでも、笑ってるユアは可愛いから怒らないで置こう。


 いや、和んでる場合じゃない。ここがどこか聞いて……もし、戻れる手段があるなら日本に帰ろう。ユアと会えなくなるのは悲しいが、安全な場所で友達を笑いあえる、そんな日常が俺は恋しいのだ。


「そろそろ良いかな。……あの、ここってドコ?」

「ここ? あそっか転送されてきて知らないもんね。ここはリヴァンイの街の(はずれ)だよ。窓の……ほら、あそこがリヴァンイの街。有名だし、聞いたこと無い?」


 ユアが指を指した場所には、オレンジ色の屋根が並んだ街が見えていた。どの家も揃ってオレンジで、どこか西洋の家の雰囲気がある。元の世界で見た映画のようで、遠目からでも美しい町だった。


「聞いたこと無いな。……でもすげー綺麗な街」

「でしょ? 私のお気に入りなんだ!」


 ユアは悪戯な笑みを浮かべて街の店を紹介してくれた。その中に刃物を取り扱ってる店や鎧を扱っている店が入っているのが少し恐ろしかったが、異世界なのだと割り切ってしまえばどうという事はない。


 リヴァンイの街の奥を良く見てみると、そこには広い海が広がっていた。青くキラキラ輝いて、白とオレンジのリヴァンイの街が合わさって幻想的な雰囲気だ。そろそろ日が沈むのか、太陽の赤さが加わって一段と綺麗になっている。日本では確実に味わえない世界だった。異世界に来て、こういった雰囲気が味わえたのは良かったと思う。


「何度見ても綺麗だよね。特にこの家は絶景を見るのに最高の条件なんだ! 私に拾われて運が良かったね、サカキ」

「そうだね。あと、俺のことはヒトロ、でいいよ。酒木は苗字だから」

「了解」


 歯を見せて笑うユア。俺は彼女と話してから、笑った姿しか見ていない気がする。彼女のツボが浅いのか、俺が面白いのかは分からないが、こうやって笑顔でいてくれる人の傍は温かい。出会ってたった数時間だけど、俺はユアのことが好きになっていた。例え、叶わなくても……。


「なんか変な顔してるよ」


 少しにやけた俺の顔をユアはつかんでグニグニと弄る。この短時間でよく打ち解けたものだ、と思うが幸せなので構わない。


 そんな幸せな空間を、俺の腹の虫が遮ってしまう。大きく鳴った俺の腹の音は、ユアにもしっかりと届いておりユアがまた大笑いしたのであった。お恥ずかしい。俺は耳まで熱くなってその場に蹲った。好きな子の目の前で、あっさり情けない姿を見られるのがこっぱずかしくてならない。もうどうにでもしてくれ……!!


「さて、少し早いけど晩御飯にしようか」


 クスクスと笑い続けるユアは、少し上機嫌にキッチンへと向かって行ったのだった。

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