ハルト様・・・なんか、楽しそうですね
「ここが私の家になります」
森の中にポツンと建つボロボロの木造小屋を指差してリコは言った。
てか、小屋ってよりは・・・人が入れる木箱?
「家」と言われて想像するような三角屋根はなく、正面から見たら完全な直方体・・・。
元の世界で少しだけやった、ブロックを積んでサバイバルするゲームで、初心者が作る豆腐建築を地で行くような建物だ・・・。
「おじゃまします・・・」
一応女の子の一人暮らし部屋に入るわけなので、それなりに緊張はする・・・。
いや緊張は一瞬で吹き飛んだ。
一言かつ端的に言おう。
「汚い」
「ひどいですぅ!?」
いやお世辞にもキレイとは言えないし、言わないぞ。
所狭しと積まれた分厚い本の山々。
本棚らしきものは奥に見えるが、棚のキャパに対して本の量が完全に要領オーバーだ。
「これどこで寝てるんだよ・・・」
「えっとですね・・・それ!!」
リコは近場に積まれていた本の山をかなり粗雑に寄せていきようやく人が一人横になれる空間を作り出した。
「ね!」
「なにが「ね」だ!!ダメだろ!?てかこの本は大事じゃないの!?」
「大事に決まってます!!」
「尚更ダメだろ!?」
はぁ・・・少し憧れていたんだけどな・・・グッバイ!俺の理想の異世界召還!
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「さっき「あれが最後だった」って言ってたけど、召還にはなにかアイテムが要るのか?」
「あぁはい・・・これです」
リコは一冊の本を開き、あるページを見せてくれた。
「これって・・・」
「はい、この特性の人形に魔力を込めて、魔法陣の上に置き、呪文を唱えるんです」
「特性の人形って・・・藁人形じゃねぇか・・・」
丑の刻参りが釘を打ち付け、人を呪うために藁で作った呪いの道具・・・藁人形。
完全にそれだ・・・。
「藁・・・ですか?
違いますよ!これは標高3000メートル以上の山の頂上付近に自生する「アシック」とゆう植物を乾燥させて作るんですよ!
アシックは生息域が特殊なうえに数も少ない者なのでとても希少なんです!!」
正直本に書かれた文字は読めないし、全く見たことのない文字だし・・・。
言葉が通じるのは不幸中の幸いなのか、異世界召還のおまけなのか・・・。
にしても、どう見ても挿絵の「アシック」らしき植物は、イネ科の植物にしか見えないし・・・そこらの藁でも作れそうなんだが・・・。
「なぁリコ。試しに藁で作ってみろよ」
「絶対失敗しますよ」
まるでわかってないとでも言いたげな顔でリコはため息をついた。
「いくらハルト様が召還された人間だからって、魔王ではないんですよね?」
こいつなんかむかつくな。
どうもすいませんね!魔王じゃなくて!!
「単純にその本を書いた人が「アシック」とやらを使って、召還に成功したってだけだろ?
それに、その「アシック」とやらがそんなに貴重なら、これからどうやって手勢を増やすんだよ」
リコの家に着くまでの間、新王候補同士の戦いとやらがどんなものか聞いていた。
新王候補者は、その大衆先導の力を図るために最もわかりやすく「模擬戦争」を行うのだという。
大勢の人間を引っ張っていくカリスマ性は確かに必要だ。
加えて見られるのが「どれだけ多くの勢力を持てるか」。
つまりどれだけ多くの味方を得ることができるかも重要になるわけだ。
味方が多いということは、それだけ信頼されているということにもなる。
さてそうなると、こちら・・・というかリコには大きすぎるハンデがある。
リコの勢力は今、単純に俺一人なわけだ。
亜人種が受けている迫害をなくしたいというリコの考え自体は、賛同してくれる亜人が多いだろう。
だが、ポッと出の少女にすべてを託すような亜人種がそんなに居るだろうか?
まぁまず今は居ないだろう。
そう。
少なくとも他の新王候補者との、一番最初の「模擬戦争」を勝利しないことには、賛同していても力を貸してくれる亜人種たちは出てこないのが普通だ。
聞いたところ、リコに力を貸すと言ってくれる者は少なからず居るらしいが、その全員が、リコを慕ってくれる同じ孤児の年下たちなのだという。
まぁ・・・それはいくら何でも巻き込めないというか、使えないというか・・・。
強いて言うなら「模擬」でも「戦争」であるため、相手になる軍勢は殺すことになるし、無論相手リーダーである他の新王候補者も討ち取らなくてはならないルールなのだとか。
なおさらに年下の子たちは使えないな。
幸い、新王候補同士の最初の模擬戦争は大抵が多くて10vs10の小規模なものらしい。
まぁ、他の候補者が減るにつれて勢力も10から20、50、100、1000とかなりの規模になるらしいが。
となると、重要になる初戦には、少なく見積もっても4~5名の戦力が必要になってくるわけだ。
その初戦で勝てれば少なからず、賛同する亜人種が手を貸してくれるようになるはずだ。
その最初の戦力は、異世界から召還してでも何とか揃えたいわけで・・・。
「とりあえず外に積んであった藁で人形作って、それで召還してみよう。ダメならだめで召還で戦力をそろえるのは後回しだ。まずは初戦を勝つことが重要なんだからな」
「ハルト様・・・なんか、楽しそうですね」
「え・・・?」
リコに言われて気が付いた。
これって、まるっきり戦略ゲームと同じような状況じゃないか?
つまり・・・「召喚士シリーズ」における主人公の「アリドール」と同じ・・・!
さっきリコが言ってた「アランドルテ」とかいうヤツともなんか名前似てるし・・・。
「そうだな・・・ちょっと楽しくなってきたぞ、これ!」
俺はリコの目をまっすぐ見つめた。
「俺はリコを王様にする。これはそういうゲームだと思うことにした!!」
できなくなった新作ゲームの埋め合わせはさせてもらうさ。