あなたは、「アランドルテ」様でしょうか??
並行世界、パラレルワールド、多次元宇宙、異世界・・・
とにかく「世界」は一つじゃなくて数えきれない程たくさんあるものだと、いろいろな本で読んだことがある。
読んだことはあったよ、確かに。
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「いやぁ~!朝から並んで正解だったわぁ!!」
大ヒットオンライン対戦戦略ゲーム「召喚士シリーズ」の最新作、「召喚士の異空戦線」の発売日。
俺は朝の4時から最寄りの一番大きなゲームソフト専門店の前に並び、開店までの6時間、12月の半ばという寒さに耐えたのだ。
朝4時に並んだとは言っても、やはり待望の新作ということもあり、すでに勇猛な同志たちがなかなかの行列を作っており、内心買えないんじゃないか?という不安はあった。
しかし!いざソフトを購入できてしまえばどうということはないのだ!
「うっしゃあ!早速帰宅して徹夜で攻略じゃああ!!!!」
あまりの興奮を抑えられず、購入したソフトを高々と空に掲げて雄叫びを上げた。
が、その先にあったのは、冬特有の灰色の曇り空ではなく、無駄にさわやかな真っ青な空があった。
「…あああ。え?」
顔を下すと、立っていたのはゲームソフト専門店前でもないどころか、町でもない。
何というか・・・森の中の少し開けた場所?
ってか暑い!!
冬用コートが暑くてたまらん!!
慌てて着ていたコートを脱ぐ。
ふと、後ろを見ると、淡い緑色のマントを羽織った白髪の女の子が、引きつった表情でそこに立っていた。
「…え??」
「あ、えっと…」
「ここどこ!!??」
あまりに突然の出来事でフリーズしていた頭が動き出し、混乱するよりも早く俺は大声を出していた。
「おぇ!!ごめんなさい!!!」
女の子は咄嗟に謝り、頭を抱えてその場に勢いよくしゃがみ込んだ。
「あ、ごめん!えっと…あの、ここはいったい?俺は確か「アトミックゲーム」の前に居たはずなんだけど?てか、なにこれ瞬間移動的な!?」
「あとみっく・・・げえむ・・・?」
「ああ~ゲームの専門店だよ。そこでこのゲームを買って、出てきたとこだったんだけど・・・」
「げえむの・・・専門店ですか?」
なぁんか要領を得ないぞ?
「う、うん。それでここはいったい?
そもそも日本なのか?日本にもこんな豊かな自然がまだあったんだな…ってそうじゃなくて!」
やばい。まだパニックだ。自分で自分にツッコミとか・・・。
「にほん・・・という国は聞いたことありませんが、ここは「サルファウスの森」で、首都「スターニア」からは離れたところになります」
!!??
さるふぁ・・・?
なにそれ??
それに「首都スターニア」???
首都は「東京」だろ!?
「ちょっと待って・・・えっと、じゃあこの国の名前は??」
「国の名前ですか?
ええっと・・・一応ここはまだ「王都スタールヴァニア」国内になると思います」
王都・・・だと?
日本じゃないどころか、聞いたことすらない国だと・・・?
待て待て待て待て!
あれだ!
この子、「痛い子」なんだ!!
そうだよ!そうに決まってる!!
こんな白髪の子が普通なわけないよな!
あっぶねぇ!可愛い子だからって鵜呑みにするところだった!!
「あ、あのぉ・・・」
女の子がおずおずと声をかけてきた。
「ん?なんだい?」
少し落ち着いた俺は、できるだけ気さくに返事をした。
「あなたは、「アランドルテ」様でしょうか??」
「・・・ん?誰って?」
「アランドルテ様…ではないのですか…?」
「・・・古泉春渡です」
女の子の顔が一瞬真っ赤になったと思うと、見る見るうちに青ざめていった。
忙しい顔色だこと・・・。
数秒の沈黙。
と思った次の瞬間、女の子が絶叫した。
「あああああああああああああ!!!!!!!」
「うぅわぁ!!なんだよ!?」
「また失敗したああああああああああ!!!!あれが最後だったのにいいいいいい!!!!!!」
絶叫プラス大号泣である。
てか目の前で女の子にこんな引くくらい泣かれたらどうすればいいんだよ!?
ギャルゲーは専門外なんだよ!?
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「えぇ~っと…つまり君はこの「スタールヴァニア」の新王選考に勝ち残るために、「異界」から魔王を召還しようとして、俺を召還しちゃったと・・・?」
「はい・・・申し訳ありません・・・」
「はぁ・・・まったく。
そもそも「魔王」の力借りてまで王様になりたいものかな?」
俺は、目の前にちょこんと正座している白髪少女からもらったパンを食べながら話をかなり大まかに聞いた。
この「王都スタールヴァニア」は、もともと革命に革命を重ねて出来上がった成り立ちがあり、その名残から、現王様が逝去しご子息がいなかった場合、国民全員の中から立候補、または推薦された「新王候補」同志を戦わせて新王を決めるという制度があるのだとか。
それでこの白髪少女は「新王」に立候補した、と。
「そんで、えぇっと・・・」
「リコです。リコ・レイン・オルフェンです」
「ああ、リコは王様になって何がしたいんだ?」
「はい・・・この国は、「純人種博愛主義」を掲げていて、亜人種にとってとても…住みにくい国なんです。でも国土は広大で、国土内にはいくつも亜人種の集落があり、建国以前からある亜人種集落もたくさんあります。
そういった集落の亜人種は高額の税を納めることで何とか国土内で暮らすことを許されていますが、住みづらいことに変わりありません。
私も・・・その・・・孤児なんですが「純人種」ではないんです」
「だろうな。白髪だし、耳とがってるし」
髪の隙間から垣間見えていたとがった耳先がピクリと動き、リコは慌てて両耳を抑えた。
「な、なんで言ってくれないんですか!!」
「え?だって、亜人が迫害されてるとか今知ったし、第一ゲームでかなり見慣れちゃってるから、今更驚きもしないし?」
リコは若干眉間にしわを寄せつつ一息ついた。
「つまり、王様になりたい理由ってのは、その亜人差別をなくしたいとかそんなところかな?」
「は、はい。時間がかかるのはわかります。
でも、行動しないことには何も変わらないと思いますし」
なるほど・・・ま、彼女にも彼女なりの過去とかあったりするんだろうけど・・・。
「それで、俺はいったいいつ元の世界に帰れるの?」
「ふぇ?」
リコがどばどばと汗をかき、表情を固めてしまった。
なんか嫌な予感がしてきた。
「・・・俺・・・元の世界に帰れる、よね?」
「そ、それはぁ・・・元の世界でぇ・・・もう一度召還してもらう、とか?」
「俺の世界に「異世界召還」なんて技術はねぇよ!!!」
「ごめんなさいいいい!!!」
あああ・・・朝4時から並んだのに・・・「召喚士の異空戦線」・・・プレイできないなんて・・・。
それどころかこっちが召還されてる上に、王様になりたい少女が目の前にいるし、元の世界には帰れない。
俺がプレイしてきたゲーム、読んだ漫画やラノベ、視聴したアニメ・・・。
その知識を総動員していきつく答えは・・・。
「はぁ・・・強制イベント発生だなこりゃ・・・」