再就職
青空が良く見える窓際で僕は一杯の珈琲を片手にある資料を読んでいた。
その資料の内容は就職一覧表だ。様々な職業がずらっと並んでいる。
今日ここにきた理由は新しい就職先を選ぶからだ。
「あなたも新しい就職先を選びにきたんですか?」
いきなり男が喋りかけてきた。
見た目をいうなら、魚だ。しかも、コブダイみたいな。不細工な。
「僕もですねぇ、職を選びにきたんですよ。」
コブダイは独り言のように喋っていた。
「実は僕、前にもここに来たことあるんですよ。」
「しかも、これで10回目ですよ。」
「8回目でようやくいいところにつけたんですけどね、嫌になって辞めちゃいました。」
コブダイは笑いながら言った。
「それで9回目のときは前よりもレベルを下げたところに行ったんです。前いた職場よりも楽だったんですけどね、なんか物足りなくて定年退職したあとにまたここに来ちゃいました。」
コブダイは続けて喋る。
「やっぱり私達は何かをするために生きるんですよ。」
「それが、生きることの目的なんかじゃないなぁって、思うんですよ。」
「あなたは何回目ですか?」
急にコブダイが話をふってきた。
「僕は今日で2回目ですよ。1回目でいきなり重役を任されたんですけどね、僕には荷が重過ぎました。だから辞表も書かずにここに逃げてきましたよ。」
コブダイを見たらとても驚いた顔をしていた。
「もったいない!あなたは千載一遇のチャンスを無駄にしたんですか。」
そんなこと僕が知ったことではない。
すると、もう一人が僕らの話しているところに来た。
七三分けのしかめっ面した感じの悪い男だった。
男は不満そうに話し始めた。
「重役を任されたが社内に敵ばかり作ってしまった。」
「最初はみんなも私を慕っていたよ。」
「でもね、それは最初のうちさ、時が経つにつれてだんだんと敵が増えていくんだ。」
「最終的に部下の不満が爆発して私は退職に追いやられたんだよ。」
「人ってのは無情だな。」
男は悲しそうに呟いた。
「それでも最後まで慕っていた人はいたんですよね?」
コブダイが優しそうに男に尋ねた。
「まあ、いたさ。しかも熱狂的にな。退職直前まで一緒にいたよ。思えば良い部下だったな。」
一息ついたところで男は僕に話しかけた。
「聞けば君はまだ辞表も書かずにここに来たらしいね。今すぐ戻った方がいい。君はまだ若い。夢があるではないか。」
「いきなり重役を任されて戸惑ってしまったらしいね。それはしょうがないことだ、しかし逃げることは誰も良いように思わない。精一杯やることだ。そうすると答えが出てくるさ。」
男にそう言われると僕はなんだかまた戻りたくなってきていた。
またあの仕事をしたくなっていたのだ。
コブダイと男に礼を言ってから、その場所を後にした。
光が見えている。あそこに仕事がある。いつの間にか走っていた。
次は大丈夫だ。上手くやれる。
僕はそう思って走っていた。