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捨てられし世界の名は『エルトリア』  作者: ムー
第二章 もう一度SecondDays
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第8話 『SecreHeart 大丈夫』

「君、止まりなさい」


 あれだけ準備して進んだ先は、見知った門と人物だった。この世界に来てから一匹しか魔物に会っておらず、死因は他殺と言うのはどうにも可笑しな話しであった。

 

「ラザックさん、お久しぶりです。一日振りですか?」


 その名を呼ぶときは世界を見終わった時か、どうしようもなく困った時と決めていたのだが、今はどうだろうか?そこまで困ってはいないし、世界などまだ自分の見たことがある地しか未だ探索していなかった。


「……すまないが、君のことは記憶にはないな」


 本当に申し訳無さそうに告げるラザックさんは私に警戒の一つもせず、改めて優しい人なんだなと理解する。普通こういう場合は不審がると思うんだ。

 思わずクスっと笑っていると、合点が言ったような顔をする。


「何があったんだよ、フィリス」

「えっ」


 何で気づかれた。

 驚いた声を上げるとラザックさんは笑いながら背の低くなった私の頭をぽんぽんと撫でる。 


「お前の雰囲気って女になっても変わらねぇなー。逆にこっちのほうがらしいっちゃらしいけど」

「……そんなに似てます?」

「なんつうのかな、女々しい雰囲気?どこか他人と一歩引いた所から傍観してる感じがあるんだよな」

「よく見てますねー……あとフィリスじゃなくてシルフィって呼んでくれると嬉しいです」


 前は気付かなかったけど、ラザックさんは意外と凄い人なんだなーと小学生並みの感想が思い浮かんだ。

 

「で、ギルドカード作ったのは聞いたが持ってるか?終焉の草原からまた来やがったんだ。持ってなきゃまた保証書書いてやるよ」

「あー……持ってるんですけど、ちょっと新しく欲しいので保証書書いてくれると嬉しいなーって」

「しょうがねぇなぁ。ほら、こっち来い」

「わーい」


 心まで幼くなってねぇか?と投げかけられる言葉に苦笑しながらも、ラザックさんの大きい背についていく。前より大分背が縮んでおり、その背はどこか頼りがいのある男性のように思えた。



◇ ◇



「ほら、もうなくすんじゃねーぞ」

「ありですわ!」


 めんどくせーめんどくせー言いつつも丁寧に書かれた証明書の記号文字は、改めて見て本当に凄いと思った。

 1つ1つでは複雑な記号でしかないのに、意味をなした時、その文章が分からなくてもとても綺麗なのだ。まるで星と星が繋がり合い一つの形が出来上がるように。受付嬢さんが書いていた記号文字も、ラザックさんの書いた記号文字も、どこか違う雰囲気を感じさせつつも、指でなぞりたくなるような美しさがそこにはあった。


「どこか間違えてたか?」


 少し見とれすぎていた。その様子はラザックさんを心配させることになる。


「いえ……この文字って不思議なくらいに綺麗ですよねぇ……」


 惚れ惚れしすぎて溜息がこぼれる。


「そうかぁ?むしろもうちょい簡単な方が俺にはありがたいんだけどな」

「むぅ……」

「ま、感覚なんざ人それぞれだ。ほら、2000ガルと地図」

「ありがとうございます」


 前よりも増えたこれからの資金。貰わなければ今日中に色々動かなければならないので黙ってありがたく受け取っておく。

 受け取った後、何やら言いにくそうなことを口に出そうとしているラザックさん。どうかしたのだろうか?


「あー、あとな」

「はい?」

「もし困ったことがあれば、俺でもよけりゃ力になるからここに来い。フィリ……違うか、シルフィ。お前みたいな死んだ目してる奴はどうにも放っておけねえ」

「えー、そんな目してます?ちょっと傷つきますよ」

「だったら――」


 なんで今にも泣きそうなんだよ……。そう言うラザックさんの顔は少し困り顔だった。

 ラザックさんの言葉で初めて気付かされる、目の前が涙で歪んでいた事に。

 意識してしまったら、後は簡単に決壊してしまうと思ったから、思わずラザックさんには背を向けてしまう。

 意外と、信頼したラクラに刺された事実が心を軋ませていたのか、と客観的に考える自分がいた。

 

「す、すみません。もう行きますね!」


 人に弱みを見せることは、絶対にイケナイコト。それを橋渡しフィリスとなる前に決めた事。その癖で、涙を流す姿なんて誰にも見せたくはなかった。


 しかし、走りだそうとする所でラザックさんに静かに止められる。


「なぁ、シルフィよ」


 その言葉はどこか窘める言い方で、ちょっと苦手だと思った。


「お前が別にそういうことを隠す理由があるとしてもだ」


 人を引っ張る上で絶対に弱さを見せれば、不可能になるからと隠す物。


「それを知ってる上でお前について行くやつを知ってもいいんじゃねぇの?」


 私は人が好きすぎるから、誰に嫌われようと嫌う人だって好きだから、そんなのは不可能なのだ。


「ごめんなさい、もう行きます」


 振り向き見せた笑顔。私は本当に笑っていたのだろうか。

 だが、ラザックさんは苦痛に歪んだ顔を見せていた。


 逃げるように走り去った詰所からは、馬鹿野郎がと声が微かに聞こえた。

 

 ――ああ、本当に……この世界は生き辛い。

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