第7話 『NewGame すたーと』
「……殺してしまったの?」
「……不服ですの?」
「質問に質問で返すのは……よくない」
「あの人が私の目に敵わなかった、ただ……それだけですわ」
「そう……」
星が瞬く空間、そこには二人の少女がいた。
赤髪の少女はどこかつまらなそうに、青髪の少女はどこか寂しそうに、しかし互いに目を合わせずにどこか遠くを見つめる。
ふわりと青髪の少女が歩き、彼女の着ている淡い水色のフリルが揺れる。
「どこへ行きますの?」
「……散歩」
「行ってもいませんわよ」
「別に、構わない」
「そう……好きになさいませ」
「そうする」
目を合わせずに会話する二人。青髪の少女が再び歩き出そうとした時、カチリと赤髪の少女の胸元にあった銀色の懐中時計が針を静かに動かした。
それを耳に入れた青髪の少女は責めるような視線を赤髪の少女へ送る。
「……嘘は、いけないよ?」
「なんのことかしら?」
「……次は、私が殺す」
殺す、まるで確定事項のようにその言葉を告げる少女の目は微かに嬉々としているようにも見えた。
「ねぇ、アト」
アト――そう呼ばれた少女は今度はその名を呼んだ少女を窘める。
「その名前は、とうに捨てた」
「……私達は、ただ逃げているだけじゃないのかしら」
しかし、赤髪の少女は飄々と流し振り向いた『アト』の目を見つめる。
「……今更、戻れない」
「そう、ですわね」
その言葉はどこか、哀愁をもって星星の煌めく空へ掻き消えた。
◇ ◇
「ふぁ……」
無魔導師第一スキル『孤立空間』を解除してから立ち上がり伸びをする。
木に傷を作ったため経験値が入っていた。そのお陰で職業レベルは1上がりスキルポイントを1つ入手。
『CFO』は意味になさそうな行動さえ経験として見なす謎システムを採用していた。
『孤立空間』とは12時間自分を中心として1メートル範囲を誰にも干渉できなくなる空間を作る魔術。変わり自分は外へ出ることをできなくなるが、睡眠時間確保には十分であったし、探求者第一スキル『魔術開放』でいつでも打ち消す事ができた。
「さーて。まずは縫い縫いしますか」
賢者第一スキル『効率化』をパッシブ発動にさせ、精霊第一スキル『裁縫』を使いブースターポーション……長いので『BP』と名づけた瓶から手に液体をコポコポと零す。
氷水のように冷たい青々とした液体を人差し指と親指でつまむように持ち上げ――しゅるしゅると糸を取り出す。
淡く青色に光る糸をキラリと光る縫い針に通し、迷いなく紡ぎ一枚の衣が次第に形を成していく。
「ふぃー。完成っ」
ものの数秒で出来上がった肌触りの良い生地。それは一枚のマントであった。
「効果は……上出来上出来」
淡い青色のマントに浮かぶ液晶板には1/2とだけ簡素に記号文字が書かれていた。
「ダメージ率、魔法命中率、物理命中率、状態異常、発見率……ついでに移動速度の遅さをカットかなー」
そう、まさしく言葉にするのならば壊れ性能。異常な性能持ちのマントが簡単に繕われていた。
「んにゃーうぇぽんしすてーむ」
お馴染みの鈴の音を立てて現れる液晶板。そこへ『BP』をドバドバと無理矢理飲み込ませる。
「鍛冶師第一スキル『マジックウェポンマエストロ』」
その一つの意味を成す詠唱により、液晶板に描かれていた竈や鎚は動き出し……数分後、水晶の様に透き通る短剣がふわふわと現れる。
柄を握り締めればズシリとした重みが腕を下げさせる。
先程と同じように性能を確認すれば、そこにはやはり同じ記号文字。
ステータスシステムを開けば全ステータスが50%上昇効果を引き起こしていた。これで準備は完了した。
「知識ありよわくてニューゲーム。はじめますか!」
今度こそ転ばぬように地に足を踏みしめ、まだ慣れぬ体にふらふらしながらも力強く言った言葉。その周りには経験値のために樹皮が削られた木が並んでいた。