第6話 『Not Calling』
此処から先『TS』所謂性転換が出始めます。
苦手な方や不快な方はバックすることをお勧めいたします。
「あー……」
気がつけば自分は寝転がっていた。木漏れ日が眩しい。
「死んだ、のか」
確認するように意識を失う前の出来事を思い出し、身震いする。
ラクラ――赤の瞳と赤の髪の少女。自分よりも自分のことを知っており、まるで第三者かのようにプレイヤーを知る人。
立ち上がり死んだハズの自身の体を触り確かめるが、特に外傷などなく……二つの膨らみが地面への視線を邪魔する程度だった。
「あぁ……」
先程から自分の声が柔らかくなったことを、出来る限り意識しないでいたのだが、確かめるように股の部分へ手を当てる。
ない。
「もうやだぁ」
再び草が生い茂る地面に背から倒れ、陽の光を浴びながら涙を零す。
死ぬ経験をしたせいか、口から自然と出る言葉は精神退行を起こしている。
「うぅ……ぐすっ……すてーたすっ」
泣きながらも記憶を探り、ステータスシステムを表示させる。確かめなければいけないことが確実にこの透明な液晶版には記載されていた。
―――――
種族 ハイヒューマン
職業 All
名前 シルフィ
性別 女性
BaseLv 1
JobLv 1
F-SystemLv 75
―――――
ようこそ、セクシャルトリップ。おいでませ、弱くてニューゲーム。
「こんな世界だいっきらいだ!」
その言葉は誰の耳に聞き届けられること無く、森のなかに木蝋した。
◇ ◇
ようやく涙も止まり、少しずつではあるが今の現状を受け入れ始める。
溜息は止まらないが、一度『CFO』のレベルシステムやれ職業システムについて整理しよう。
まずこの世界ではヒューマン、エルフ、天使、獣人、人魚、竜人の種族が存在する。そして転生を行うとハイヒューマンと言った上位種族に変わる事でレベルキャップが開放される。
ここまではいいのだ。問題は職業システムとFシステム。
職業はどの種族も共通であり
戦士、騎士、暗殺者、弓銃士。ここまでが物理職。
無魔導師、巫女、闇魔導師、治癒術士。ここまでが魔法職。
鍛冶師、精霊、探求者、賢者。ここまでが生産職
ちなみに精霊は防具作りやポーションの元になる農場を豊かにしたり、それ以外にも支援が出来る職。
探求者は遺跡や迷宮で罠の解除やら魔物の生息する場所で役立つアイテム作りが非常に豊富な職。
賢者は他の生産職の効率を倍に上げるなどの支援に加え、他者へのバフや敵へのデバフが豊富な職。
どれもこれもが自分自身の役割を持っていたのだが、Fシステムが加わると少し事情が変わる。
まずFレベル50まで上げきると自分本来の職業スキルの裏が現れ、全てを習得する。次に70まで上げると全職のスキルが……制限付きではあるものの全て扱えるようになる。
これは次世代陣に変わってもひた隠しにされていた事実だ。トッププレイヤー陣で独占していた情報であるが、こんなのが漏れてしまえばいらないと言われる人が出てきてしまうため必死に隠されていた。何を思って実装したのかが未だわからない。
しかも20人70Lvに達した時点で他の人には経験値が入らなくなるという謎仕様。何故消さないのか経験値の入らない人からは色々言われていた。
しかし、だ。今の自分のベースレベル、職業レベル共に1。スキルツリー欄を見ても習得できるものは一切なく、無スキル状態であった。
強くなる可能性は秘めているのだが、死ぬ前に自分が持っていた場所まで戻るだけである。やる気など到底ない!
例えを挙げるとしたら、全クリしたゲームのセーブデータを消去され、また初めから、縛りプレイで全クリしろ。そんな状況だった。
「あーあー……」
いっそ最初からTS転生してLv1からだったらまだ受け入れきれたのに。
「ラクラに会ってもばれないのが不幸中の幸いかなぁ」
うじうじ悩んでても仕方ないと思い、ポジティブな思考に切り替える。
しかし……この姿になってもラクラは気づきそうな雰囲気がある気がする。やはりできるかぎり近づかないことがベストなのだろう。
「まっぷしすてーむ」
自分の口から聞こえる幼くも可愛らしい声。だが気だるげ。
微かな鈴の音を鳴らしながらマップが出てきたのだが……
「真っ白だよははは」
前に見たエルトリアの世界マップは中央は明確に記載されていた。しかし今や現在地以外を真っ黒で塗りつぶされている酷い状態であった。
ああ、ホント前途多難な転生ライフだちくしょう。
武器なしスキルなし体の感覚性別変わって異常有り。来た時よりも悪化してることにげんなりとする。
近くに転がっていた石を拾い上げよろよろと立ち上がり、傍の木にガリッと音を立てながら印をつける。
「終焉の宇宙にバグで放り込まれて三日三晩サバイバルした私を舐めんなよ……」
運営は自力で脱出してくれと謎の返答をしてきたため、自力で魔物一律1000Lvオーバーの大地を脱出したんだ。最早意地でもここから逃げ出してやろうじゃないか。
アイテム欄に入っていたブースターポーションを飲み、腰へ携える。地味にこれは呪われたアイテム扱いで捨てれないアイテムなのだ。多分役に立つだろうと思いを馳せながら。
「やってやるぞー!」
思いっきり腕をあげたら足をひねって地面に倒れる。
「もーやだぁ……」
本当に前途多難な転生初日。陽はそんな自分を待たず、既に傾き始めていた。






