第5話 『The real beginning』
1回書いて消滅→書き直し→投稿→修正→終わり。
もう少し修正するかもです。
青々と生い茂る木々の葉が陽の光を遮り、白の森と呼ばれる冒険者になるならば誰もが通ってきた森を薄暗くさせる
幾十もの魔物や冒険者が亡くなっている森だからだろうか、独特の冷えきった空気が薄気味悪さを感じさせる。
「あの、ラクラさん」
不安を吹き飛ばしたくて隣を歩くラクラさんへ先程から何度か話しかけるようにしていたのだが、ラクラさんから返事は帰ってこず、黙々と森のなかを突き進む。
ある意味、薄気味悪さの理由はこれもあるのだと考える。
森に入ってからラクラさんが一切口を利かなくなったのだ。
そしてもう一つ、自分は武器を買いこそしたものの、防具を買っていない。
過去に『フィリス』として装備も全て捨てたが、最低限の装備をつけておこなった事だ。
所謂街中装備と呼ばれる装備を自分はその時と同じ様に着ているのだが、これにはステータスを下げる効果が存在しており、魔物の出る区画で着る装備ではなかった。
主に防御と攻撃関連ステータスを下げる効果が付与されており、武器で妥協しなかったラクラさんが防具を流すというのはどうにも不可解であった。更に言えば回復ポーションなども買っていない。
自分は戦闘をする際万全の準備を整えてから挑む事を心がけていたため、これには納得行かなかった。
しかし、ここ白の森は初心者冒険者の最初の門と呼ばれるだけあり、非常に魔物のLvは低かった。未だ魔物に会うこと無く、会ったとしても全職スキルを扱えるため確実に生き延びられると慢心していた。
それもあり、森に入るまで準備の事など気にせずにいたのだ。完全にこちらに非があるようなものだった。
だが、ゲームならば楽観していた状況でもここは現実。
森の薄寒さと、ラクラさんへの不信感がどうにも心を落ち着かなくさせる。
更に今し方不安要素が加わったことも付け加えたい。
白の森と言えばキラキラと木漏れ日が綺麗な名所でもあったのに、この陽の無さが気になり、マップを開いてみればどうだろうか。
既にマッピングを済ませてあった白の森。開けば現在地から入り口や魔物の湧き位置さえ正確に出るはずが、マップシステムが機能しておらず、白の森は霧がかったように、現在地付近しか確認できなかったのだ。
これで不安にならないほうがどうかしている。
いや、自分のレベルからしたら明らかに怯えすぎなのだろうが……どうにも不確定要素の存在は苦手なのだ。
◇
そうして黙々と薄暗い森のなかを突き進み、森の奥地へ来た時だった。プレイ時代は壁があった場所にはそのような遮るものはなく、白い霧が先を遮るようにあった。はい、不安要素追加!
そこでようやくラクラさんから言葉が紡がれる。
「ねぇ、フィリス」
「……はい?」
不安になりすぎてつい訝しげな返事をしてしまう。
「貴方は今も昔も変わらず人を信じ騙される……本当に滑稽ね」
何を言われたのか理解できず、聞き返そうとするがそれは叶わない。
「本当に何もかも変わらなくて、虫酸が走るわ」
腹部にラクラの槍が貫かれており、激痛で声も出せなかったから。痛みに耐え切れず、膝から地面へ崩れ落ちてしまう。
だが、それでもまるで自分を知りきっているような言い方にいら立ちが募る。
「あん、たに、なにが……ッ」
「分かりますわ」
言い返そうとする言葉もラクラは知っていたかのように受け流す。
「全て、知っていますわ。貴方を愛していたのだから」
……え?
疑問の言葉を投げかけようとしても、口にたまった血反吐が喉につまり、それは言葉にもならない。血で地面が赤く滲む。それは、探していた人を思い出す……色?誰を?自分は何を探していた?
再びラクラへ顔を向ければふわりとラクラの雰囲気が変わり始める。
銀色の瞳と茶色がかった髪はドロドロと溶け始め、血の様に赤い瞳と薄く赤みがかった長い髪へと変わる。
何故か分からない。どうしてかわからないのに、赤い瞳と赤い長い髪。その姿を見ると涙が留めなく零れ落ちる。
知っているはずなのに、分からない。
「でも貴方は私達を忘れた。何も思い出せず、何も考えられず、何もかも」
その言葉で、どうして自分が血が留めなく溢れ続ける腹部へ回復魔法を使おうとしなかったのか、どうしてラクラの槍を避けれなかったのか、疑問が湧き出る。どうして、考えられなかったのか。まるで端からそれが無意味だと頭のなかで理解させられているような。
しかし、今回復魔法を使おうとしても何も起きない。
腹部が燃えるように熱い。地面には血の水たまりが出来はじめていた。
「無駄ですわ。貴方を貫いた槍は『フィリス』という存在を破壊するために私が創った槍。
そうですわね、貴方達プレイヤーが使う用語で言うなら弱くてニューゲーム、ゲームリセット、はじめからスタート。どれでもお好きにお使いなさいな」
まるで、その言葉は『フィリス』ではなく、中の人……自分自身に言われているようで、喉を締め付ける。
「本当に、無様ね」
その言葉と同時に、彼女は腹部を貫いていた槍を引き抜き、高らかに掲げる。
何故だろうか、その姿を知らないはずなのに懐かしさを感じてしまう。
その様子を彼女は冷ややかに一瞥する。
「さようなら、フィリス」
別れの言葉を告げ、槍は振り下ろされた。
――不思議と痛みは感じず、瞬間視界が暗転していた。






