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捨てられし世界の名は『エルトリア』  作者: ムー
第一章 強くてFirstDays
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第4話 『racula』

「はい、これにてギルド登録は完了致しました。既に受ける依頼が決まっておりましたらこのまま受け付けいたしますよ?」

「特に決まってませんね」

「かしこまりました。年中無休でギルドは開放しておりますのでいつでもどうぞ」

「ありがとうございます。では」

「はい。次の方どうぞー」


 



「ふー……」


 ギルドで名前などを記載する紙を出され、書くことは出来たのだがかなり焦った。言葉が通じるからには文字も大丈夫かと思ってたら、まさかの記号文字。


「解読班だったからギリギリ覚えてたのが助かった……」


 記号文字でも『CFO』では遺跡などでよく見かけるものであり、解読したことがあったので未だに覚えていたのだ。

 記号文字では平仮名、片仮名、数字、英字が記号化されているのだが、意外としっかりと作られていて解読自体は苦ではないし、むしろ嬉々として解読を進めていた。そのため頭に未だ大雑把であるが覚えていたのだ。


 しかし、これは自分のプレイしていた時代とは違う。ゲーム時代より微妙に複雑化していて受付嬢に簡単なものしか書けず怪しまれていた。素直に代筆をお願いすればよかった。


「何か受けるかなぁ」


 ラザックさんから1200G(ガル)……銀貨1枚と半銀貨2枚を貰ったものの、これでは少し心もとない。

 ちなみに宿屋一泊この街では300G、食事付きで400G。早めに依頼を受けなくてはやってられない。

 かつての資産10G(ガルではない、ギガ。100万で1M、10億で1G)に思いを馳せながら、依頼ボードと呼ばれる場所にギルドカードをかざす。

 依頼ボードで人混みにならないように自動でかざした後、1日の間依頼の内容が全てカードに記載され、自分で画面を表示してみることが出来る。

 

 気になったのはここカルーンから西へ行った先にある森、そこにいる蜂退治であった。ビークイーンが巣にいるため、ランクはB……ランクはFが一番下でAが最高だ。Sは騎士団と呼ばれる者にしか付けられないらしい。


 らしいというのは『CFO』にはギルドなどという機関も、王国と呼ばれるのも騎士団と呼ばれるのもなかったから。

 あまり目をつけられたくないので現在Fランクの自分がいけば目立つだろうが、どうにも情報によれば騎士団が失敗し蜂が苛立っているらしい。本来Eの依頼がBまで引き上げられてるのはそのせいらしい。


「ふーむ……」


 貼りだされてから既に一週間。それなのに緊急と書かれた文字。それだけで行くのは十分だった。蜂、と言うかハニービーとビークイーンは猛毒持ちだから放置すればいずれ初心者冒険者に危害が加わるだろうし。


 よし、と決め貼りだされている紙を剥がそうとした時だった。


「あら、あなたはそれを行くのですね」

「え?」

 

 いつの間にか隣には13,15位の少女が立っていた。


「てっきりあれに行くと思ってましたわ」


 指の先には、赤い狼の書かれた依頼書。こちらも緊急と書かれているが誰もが避けるように取るため、それだけがポツリと貼られていた。

 

 一応、先に狩ってしまう場合もあるので、その場合は討伐証名となる部位を持ってくればいい。


 そして依頼書の名前は『クリムゾンハウンド討伐または撃退』

 討伐証名となる牙は売れるため剥ぎとってアイテム欄へ入れてあった。


「ちょっと何を言ってるか分かりませんね」

「そう」


 何で自分が倒した事を知っているのか気になったが、それ以上に彼女の雰囲気が心を落ち着かなくさせる。

 

 似ているのだ、かつて捨てたパートナーに。

 赤い瞳と赤い髪ではなく、銀色の瞳と茶色がかった髪色のため違う様だが……


「それじゃぁ私はこれで……」

「待ちなさい」


 怖くて逃げ出したくて素早く依頼書を取って受付へ行こうとしたが、そうは問屋が卸さなかった。


(わたくし)も行かせていただきますわ。いきなりFランクの冒険者がBランクの依頼を受けるんですもの、私が同伴して見させていただきます」

「……」

「依頼を貼り戻すのはマナー違反ですわよ」


 逃げてえにゃぁ……


「……よろしくどうぞ」

「えぇ、よろしく」


 握手した手がギリギリと音が聞こえるほど握りしめられ、痛かった。

 自分が何をしたというのか……っ



◇ ◇



「はい、確かに依頼受注完了しました。パーティー契約は依頼が完了した後も続きますので、破棄する場合はそちらの方でお願いします」

「わかりましたわ」

「はい……」

「あ、と。それと、フィリス様、こちらで武器屋の紹介状を書いておきましたのでよろしければお使いください。お勧めなのはギルドを出て南東に行った武器屋さんですよ」

「ありがとうございます」

「い、いえ……それではフィリス様の事よろしくお願いしますね、ラクラさ、ひっ!?」

「フィリスさん、いきますわよ」

「え、あ、はい。受付嬢さん大丈夫ですか?」


 何故か受付嬢が異常に怯え始め気になってしまう。


「だ、大丈夫ですので!お気をつけていってらっしゃいませ!」

「フィリスさん早く行きますわよ」


 自分ではなく明らかにラクラさんに怯えており、なにかこの二人の間にあったのかと言いたくなるが、自分が来ないため苛つき始めているラクラさんと更に怯える受付嬢の悪循環なのでラクラさんに早足でついていくことにする。


「あの、ラクラさん」

「なんですの?」

「あの受付嬢さんと何かあったりしましたか?」

「身の程をわきまえない子へ躾けただけですわ」

「はぁ」


 ちょっと何を言ってるか分からなかった。

 自由気ままに風来坊するつもりが、完全にラクラさんに振り回されてどうしようもなく逃げ出したい気分になる。


「フィリスさん」

「はい?」

「武器屋着きましたわ。もう少し周りを見てはいかがですか?」

「え、あ。すみません」


 ふと鑑定スキルを思い出しラクラに使ってみようとしたのだが、その瞬間振り向かれて気づかれたかと思い焦る。

 

 ……一瞬冷ややかな視線を向けられた気がしたが、気のせいと思いたい。


「いらっしゃいませ。どのような武器をお探しでしょうか」

「えっと、まだ決まってないんですがどんなのがあるか見せてもらっても?」

「かしこまりましたー。何か聞きたいことがありましたらお呼びください」

「はい、ありがとうございます」

「いえー。礼儀正しいお客様でしたら冷やかしでもこちらも結構ですので」


 そう言うといつの間にか(・・・・・・)隣にいた好青年は奥に行ってしまった。暗に買って来ますよね?と言われたのは気のせいではないだろう。


 見渡せば、剣や杖や魔法銃など様々な物が置かれており、少し防犯はどうなのか気になったが、あの青年がやり手なのだろうと納得することにして武器を探す。


「んー……」


 ゲームをしていた時よりも明らかに品ぞろえが良く、目移りしてしまう。

 刀、鉄扇、簪、鉄棍と本当に揃いすぎて怖いくらいだ。


「まだ決まりませんの?」

「命預ける獲物決めるのに早々決める人は阿呆だと思うんですけど」


 優柔不断に食事のメニューやら決めるのは微妙な所だが、流石に死んだら終わる世界で武器選びに時間を掛けるのは当たり前と思うんだが、違うのか?


「ラクラさんは何を使っているんですか?」

「私は長槍ですわ。柄で魔法を使う媒体にもできますから」

「ふむ……」


 ゲームでは仲間を攻撃は出来なかったが、実際に戦うとなると間合いも考える必要がある。ラクラさんと戦うなら魔法と槍の範囲を考えて……


「短剣と……鞘付きで細めの剣、かな」


 いざ武器と武器の相性を考えると難しい。通常時は短剣を使い、納刀術と抜刀術をパッシブで習得済みだったから動きやすさ重視で決めたのだが……剣の重さで重心が傾きそうなのが少し心配事だった。

 腰に対して横に長剣は携えて、短剣は左腰に携えればいいか……?


「はい。かしこまりました」

「本当にいきなり出ますね」

「短剣でしたらこちらと、細めの長剣でしたらこちらがよろしいかと」


 普通手に持って決めそうなものだが、青年は青い短剣と黒い長剣を出してきた。もしかしなくても目に自身があるのだろうが……嫌な予感がするため2つ持たせてもらうことにする。


「軽すぎるわ……」

「何でラクラさんが先に持つのか教えて欲しいんですが」


 流石に横暴すぎて突っ込みたくなる。あんまり縛られるのが好きではない。


「そんなはずはありません。この男性にはこれで丁度なはずです」

「あなた、もう少し目を養ったほうがいいわ。彼に合うとしたらこの店じゃ短剣はあの白いの。長剣はあの水色のよ」

「そんなバカな!」


 本当に自分を置いていくのが好きな人達だなぁと傍観していると、納得行かないような顔をする青年がラクラさんに言われた2本を持ってくる。

 見たこともない短剣と長剣なのだが、どこか惹かれるものがそれにはあった。


「おおう……」


 凄い、合う。何というか半信半疑だったのだが、合いすぎて怖いくらいに良い。これなら幾らでも出してしまいたくなる……って自分お金全然ないじゃん。


「そんな……」

「その目に信頼を置きすぎね。もう少し自分の目を持つべきよ」

「いや、あの。自分お金ほぼ無いですからこんなにいい物出されても買えませんから」

「私が払いますわ」


 何故自分にそこまでラクラさんは良くしてくれるのか謎だった。


「いや、でも」

「でしたら、あなたが持ってる牙を貰えればこれくらいお釣りが来ますわ」


 ……本当に何なんだろうかこの人は。別に牙くらい構わないのだが、自分のことを何故自分よりも知っているのか怖くなる。


「わかりました」

「素直ですわね」

「それくらいが取り柄なので」

「そう」


 簡素に返事をすると、ラクラさんはそのまま白の短剣……星屑の短剣と水色の長剣……水龍の剣の精算をしに行ってしまった。


 本当にまだ一日目だというのに、前途多難な日だと溜息をつかざる負えなかった。


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