第3話 『Re:Start』
「おいそこのお前!止まれ!」
「む」
ようやく始まりの街カルーンの裏門についたと思ったら止められてしまった。
いや、この先の事を知っていれば当たり前なのか?
「なんですか?」
「なんですかって……お前名前は何と言う」
「あー……フィリス」
普段から他人に対してはいつもの口調で話せず、丁寧語や敬語を使い分けるようにしているのだが、名前を聞かれるとは思って無かったためどもってしまう。
ゲームとは違って頭上に表示されないもんなぁ名前って。それに鑑定で相手のステータス覗き見とかも……一応あったか?
「ふむ……フィリス、お前が来た方向どんな所か分かってるか?」
「えー、と。すみません、気がついたら草原に放り出されてて適当に歩いてたら街が見えたので来たんですが」
「名前以外に何か自分を証明できる物はあるか?」
「気付いた時色々手持ちの物探しても全部なかったです。お金もないですね……と言うか名前以外よく覚えてなくて」
「物盗りに襲われた後放り出されたか……いいだろう。雰囲気からして安全そうだから俺が保証人になろう。ついてこい」
「あ、はいっ」
保証人って事は街に入れてくれるらしい。特に何かされなければ問題起こす気はないが、門兵の人に迷惑かけないように気をつけよう。
◇ ◇
そのまま連れられて近くにあった詰所に行くことになった。
色々紙に書いているため保証書のようなものを記しているのだろうか。
「よし、できたぞ……なんだやけにソワソワして。嬢ちゃんこういう所慣れてないのか?」
「え、嬢ちゃん?」
自分は男なのだが、どうして嬢ちゃんなのか。
「あー、すまん。体つきから女と思ったんだが、男だったのか?」
「い、一応?」
『フィリス』は外見だけ見れば中性的なのだか、それでも女性と間違えることは無いと思ってたのだが……目のせいかな。
「まぁいいか、最後にこの水晶に手を当ててくれるか」
「わかりました」
と、ふと流れるように水晶に手を触れたのだが気付く。この水晶『鑑定水晶』だと。所持していれば敵のステータスを覗き見できるアイテムなのだが、人には適用範囲外だったはずなのに反応している。
ステータス云々は面倒臭そうなので隠して行きたかったんだが、これでもう不可能になってしまったか?
そんな事を考えていたら、また何か機械音が微かに響く。
――スキル取得――
鑑定:相手に悟られず大雑把に実力を知ることが出来ます。
お、おう?
「ほー、Lv75か。裏平原から生きて帰れたからにはもちっと高いと思ったんだが、運が良かったな」
「そ、そうなんですか?」
なんでFレベルだけしか反応しないのかかなり気になったのだが、もしかしてこの世界ではFレベル基準なのだろうか……いや、運がよかったと言ってるからにはベースレベル基準なのだろう。ばれなくてよかった。
「お前さんが来た終焉の平原、通称裏平原は定期的に騎士団の奴等が狩っているから街に押し寄せては来ないけどな、高々Lv75のお前さんが行ったら普通の魔物でも出会った時点で死だ。
俺はそういう奴等が出ないように見張ってはいるんだが、転移魔法で裏平原を設定した奴が気に入らないやつを裏平原に捨てるっつー事が稀にあるんだよ。だから魔物に会わずにこれたお前は運がいいよ、誇っていいくらいだぜ」
「あはは……代わりに記憶無くしちゃってますけど」
「命あっての思い出だ。まだ水晶見る限りじゃ18じゃねーか、これからだこれから!出会ってから少ししか経ってないが、きっとお前さんならこの先生きていけるよ。俺が保証してやる」
命あっての思い出。門兵さんも良いこと言うな。
「あ、あの」
「ん?どうした?」
「門兵さんの名前聞いても……?」
だから、この人のことを覚えておきたかった。きっと忘れないように。
「おう。俺はラザック・ディルムッドだ。お前さん――フィリスのこれから先を上手くいくよう祈ってるぜ」
「ラザックさん」
心に刻むように名前を心で復唱する。
「ありがとうございますっ」
「くはは!じゃぁ行って来い!ほら、4日分の宿屋代とこの街の地図だ。ここからまた違う街に行くんだったら、どの街でも保証書になるカードが貰えるギルドに行ってみるんだな」
「何から何まで本当に……」
「いいんだよ、このくらい。ここはカルーンの街なんだ。フィリスがそれをいつか思い出してくれれば俺としても十分だ。ほら、さっさといけ!」
「はい!」
本当にこの人は、いい人すぎる。
始まりの街。その名はカルーン。ここから数十、数百、数千、数万の冒険者の門出を祝う街。そしてNPCと名付けられていた人達でも、優しく冒険者を迎え入れてくれる街。
自分は再び、初めからここをスタートした。
――その様子を見ていた者がいることには気付かず……