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捨てられし世界の名は『エルトリア』  作者: ムー
第一章 強くてFirstDays
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第2話 『降り立ち』

 ふわりと微かに吹く風が、さらさらと草花を揺らす。

 

「え……?」


 疑問に思いながら目を開けるとそこにはまさしく本物の草原と、色とりどりの花々。


「えっ?」


 思わず頭がパンクしそうになる。何故こんな所にいるんだ……!?

 釈明しておくが、自分がプレイしていたネトゲ『CFO』は近年話題であるVRMMORPGなどではなく、普通のMMORPGだ。もう少し詳しく言うと、確かに仮想空間に意識は落としはすれど、それは擬似的に4Dをもたらす空間だ。

 説明しておくが2Dはゲームのような平面世界、3Dはそれを立体視させた物。4Dは立体視に更に五感を加えた物。

 

 だが今の状況はどうだろうか。映像から客観的に自分を見るのではなく主観的視界を持っているし、草、土、花、風、どの香りも感触もまさしく本物であった。

 と言うか仮想空間に行っても椅子に座って結局やっていたんだ、土の上に立っている時点で完全におかしかった。


「どうすればいいんだ、これ」


 こういう時VRゲームならば、自分がゲームキャラクター『フィリス』として入れ替わっているならば、ステータス画面でも出せそうなものだが、幾ら言葉に出そうと念じようとも出ることはなかった。


「強くてニューゲーム!じゃなくて完全に放り出されてるパターンだこれ」


 確かにこういった不思議に巻き込まれることに憧れはしていたが、現実世界に置いてきてしまった友人等を思い出すと、ちょっとばかり困ったものだ。


「はー……そもそも、お金も装備も全部捨てたじゃん。これでレベルリセットでもされてたら弱くてニューゲームじゃないですかやだー」


 電子の海の藻屑となった過去の遺物を思い出しながら、いつまでも不貞腐れてる訳には行かないと歩くことにした。

 だってここ、プレイヤーのレベルキャップ250Lvよりも高い魔物がいるマップだし。昼はピクニックでもしたくなるような草原、夜は流星群が見られる観光にもってこいの場所なのだが、如何せんポップ(湧き出る)する魔物(モンスター)が凶悪すぎる。

 ちなみに『CFO』ではレベル差10起きる度、命中率が20%下がります。ここにでる魔物は軒並み300Lvオーバー。今の自分が会えば確実に死ぬ。

 レベル差命中減衰と呼ばれている現象は、強化した武器を装備しない限りは当てることもままならない。一応麻痺とか状態異常かけられれば当たるんだけど。


 しかし転生初日、ままならないものだ。


「グルルルルル……」

「おークリムゾンハウンド、フィールドボスが早速かよ!?」


 舌打ちしつつも、襲いかかってきたクリムゾンハウンド、真っ赤な2メートル程の体を持つ狼の攻撃を避ける。


「グルァァー!」

「くそったれ!」


 フィールドボスなだけあり、300Lvなんて軟さではない、こいつは700Lv。課金で強化しきった武器じゃないと当たらない非道。レアドロップは移動速度を一月50%上昇させるポーション。この運営は中々えげつないぞ。

 

 このゲームには命中補正があるにはあるが、意外とプレイヤースキル次第では回避は簡単……訂正、剣豪の攻撃を白刃取りをする程度に難しい。

 だが、課金力で追いつけない自分はひたすらひたすら練習した。仕組みさえ覚えてしまえば、物理など目ではなく、魔法さえ避けることが出来る。


「リアルでやると精神力ほんとすりへるなぁ……っ」


 目眩を起こす程度には体を酷使するような技術だった。本気と書いてマジで辛い。頭痛い。


「グルルルルウウウウ……!」

「見逃してくれないかなぁ……!?」


 仕留められない獲物に痺れを切らし始めているのか、殺気が半端ではない。

 しかし、そこでふと思い至る。1Lvでは避ける事も殺気無視もままならない筈。だが今の自分はそれを可能にしているならばレベルリセットは起きていない……つまり覚えている筈のスキル使えるんじゃないか?と。


「ほら、来いよこの豚足」


 どうせジリ貧で死ぬのなら、勝負に出るべきだと判断した。これでも数百単位の人達を動かした頭脳持ち。一々迷ってれば自滅は明白に理解できる。

 

 クリムゾンハウンドは知能があるのか、挑発に乗ってギリギリ目で追える早さで飛びかかってくる。体を恐怖で仰け反らしそうになるが、必死にこらえてその瞬間を待つ。


 ――使うスキルは、刹那の如し。


「影・刹那」


 腕から指先までを剣のように立て、体を前に倒しクリムゾンハウンドの口中へ跳ぶ。


 パァン!と直後に風船の割れるような音。

 そして頭の中で微かに機械音が流れる。


 ――クリムゾンハウンド討伐しました。

 経験値0職業経験値0 F経験値9998000獲得

 スキル『影・刹那』ディレイ・タイム『60:00』

 称号:戻りし者/会得:システムロック解除

 称号:*******/***:*********

 『フィリス』アカウント/ロック解除

 本来のゲームシステムを開放します。


 

 命中補正について整理しよう。

 まず、プレイヤー側がレベル200持ちの場合、敵のレベル210で本来の命中率から20%引かれる。220では40%、230では60……そして250で100%当たらない。

 

 しかし、それでは計算式におかしな事がでるのだろう。『CFO』では最低5%当たる仕様がある。つまり20%減衰では80%当たるのではなく85%当たり、100%減衰では5%で当たるのだ。


 そして、自分が今使ったスキル、『影・刹那』これは相手との距離が10センチ切った所から真価が発揮される。普段は相手へ斬りかかるだけのスキルだが、敵が10センチ範囲に入った所から命中補正へ乗算が起こる。

 10センチでは『×1』9センチは『×5』……0センチ、つまり0距離で『×100』当たり、更には本来のATK倍率500%にさえも『×100』……これは事実上STRと呼ばれるATK上昇ステータスへ一切振っていない初心者がベースレベル250の者でもHP……体力を0に出来る程度の恐ろしい威力を発揮する。


 まぁ0距離で攻撃するには、足を動かさず敵の攻撃を回避した瞬間に0距離判定が0.5秒だけ存在するため、習得した人はドMと呼ばれていた。このスキル習得条件も0距離攻撃を1万回だからな。

 

 という訳でこれがクリムゾンハウンドを倒せた意味。


 なのだが、それよりも少し気になるのが『フィリス』アカウント/ロック解除の文章であった。何でロックされてたの!


「そりゃ2年もやらなかったらアカロックもされるのか……?」


 隠されてる称号が気になるところだが、取り敢えず今は放置。

 本来のゲームシステムの開放の文章だけが気になっていた。


「……ステータスシステム、ウェポンシステム、アイテムシステム、マップシステム」


 一つ願いを込めて常にゲーム画面で出していたウィンドウを羅列していく。

 

「っよし。これで少しは」


 想像通り、自分を囲むように透明なシステム画面が浮遊している。

 だがステータス画面は文字化け。辛うじて250Lvとだけ確認できる。

 ウェポンシステムは装備精錬が出来る画面……なのだが、アイテムシステムを見ても何も所持している物は無いため、何もできない。


「って、ブースターポーション手に入れてたのか」


 アイテムが何一つ無いかと思ったが、一番左端には水色のクリムゾンハウンドレアドロップが鎮座していた。これは消費するのではなく実は永続で使えるためラッキーだ。一月という制限があると言ったが、実はレアドロップ内容を隠すための運営フェイク。真実は手に入れた者と運営のみぞ知る。

 

 一度全ての画面を消してから、マップシステムを拡大させる。

 これを見ている間だけ魔物に感知されない不思議仕様。既に感知されていれば無意味なのだが。

 

「終焉の草原がここか。と言うかマップ随分広がってるなー。5倍になってる」


 自分の消えた世界を見たいと言ったものの、移動手段が地味に乏しい『CFO』。少しばかりこれには骨が折れそうだった。

 だが、これでまず最初に行くべき場所は決まった。


「始まりの街、カルーンだな」


 終焉の草原はプレイヤー初期配置の街裏手、その先に存在するという馬鹿げた場所だった。

 しかも終焉の草原から先も存在するというのにマップを見ても街にちょっと草原あるんだなーくらいの大きさでしか書かれていない。恐ろしい。

 一応ベースレベルキャップ250、職業レベルキャップ250、Fレベル30を超えない限りは行くことも出来ないのだが。

 

 ちなみに『CFO』は転生を行わなければキャップには届かない。

 基本がベースレベル120職業レベル120。

 転生を行うことにより、どちらも250に引き上げられる。また1から育てなければだが。

 そして2つ250にし終えると同時にFシステムが開放される。レベルキャップは250。経験値は一律。だが1上げるのにベースレベル250まで上げる経験値×2要求される。正直馬鹿げている。

 ちなみに自分の知る中で一番高かったFレベルは90。2年間で誰かカンストしたかと思っていたが、次世代の人達で最高Fレベルは142。未だ前世代……つまりは自分の世代のFレベル198が最高だそうだ。


 

 ちなみに今こそステータスシステムが文字化けしているが、自分のレベル、職業はこれだった。


 ――――――

 種族 ハイヒューマン

 職業 Oll

 名前 フィリス

 性別 男性

 

 BaseLv 250

 JobLv 250

 F-SystemLv 75


 ――――――



 

 まぁこんなのでも意外と廃人とは呼ばれなかった。多分。

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