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闇を纏う  作者: caster
1/1

第一話

新作です。

こちらも戦国を舞台にしています。

忍術や魔法、ファンタジーの要素を取り入れ、実際に起きた合戦を舞台にして、フィクションを土台として書いていきたいと思います。

どうぞ。ごゆっくりお楽しみください。

                   プロローグ

 これは、私たちが知っている歴史の中の、決して語られることのない、私たちの知らない物語。

 闇に生き、光を生んで、闇に消えた、一人の少年の生きた記録。

 例えばこれが、あなたの、記憶の中にある戦の数々を、揺り起こす刃になれば。

 例えばこれが、あなたの、記憶の中にある想いの数々を、切り裂く刃になれば。

 そんな、ありえない、いや、ありえたかもしれない、想像の向こうの歴史を今、語ろう。

 


                     1

 満月が照らす赤塚。時は戦国。血霞に煙る荒野に、無数の金属音と怒号が響く。

 後に魔王と呼ばれ語られる、織田信長の覇業の始まりに、柊は立ち会っていた。

 柊が立つのは、戦場が見渡せる小高い山の中腹、その生い茂った木々の中である。

 影に身を潜めて、戦況を見守る。

 信長勢は千に届かないほどであるが、相手方、山口の軍勢はその千をゆうに超えている。傍から見れば、劣勢の信長軍ではあるが、しかしその士気は、響き渡る怒号やここから見える景色を見るに、何かにとりつかれたかのように高い。狂気の沙汰とも言えるほどに・・・。

 「ふっ。大うつけと言うのは、虚言ではないか」

 柊は振るわれる度に的確に敵陣を切り裂いていく信長の采配を見て、小さくこぼした。

 「見事」

 素直にそう評価して、自分の任務を果たすために立ち上がる。

 茂みに身を隠すのをやめ、目下に広がる戦場をしかと見据えて、虚空に手を伸ばす。

 伸ばした手のひらに意識を集め、静かに呟く。

 「来い」

 途端、力のないものには見ることすら叶わない黒い光が柊の手元にちらつき始め、刹那の間には、剣の型を取って、収束した。

 これは、日の本の人間が言うところの忍術。西洋の人間が言うところの魔法の類である。

 そう、柊のその出生、素性は愚か、その風貌を知る者などこそいないが、闇に生き、人を斬る、忍びである。

 いくか。と短く切って、斜面を駆け下りる。

 ここは、傾斜こそ並の人間はしがみつけば耐えられるほどではあるが、そこに生い茂った植物や、地形のせいで、柊のようなものでなければ、ただ転げ落ちるしかないような、そう、崖のようになった場所であった。しかし柊はそんなものものともせず、全力で駆ける。身を低く、地を這うようにして、両の手は当然の如く襲い来る風に逆らうことなく、後ろに放り出すようにして駆ける。その左の手には、先程呼び出した、黒い刀身の、柄も、鍔も、その全てが黒く塗りつぶされたかのような、細く薄い刀が握られている。銘は無い。その昔、語られてはいたそうだが、柊がその手にとった時には既に、誰もその刀の銘を知らなかった。

 月に照らされた戦場では、甲冑を着た戦士たちはよく目立つ。柊は己の目標をその視界に収めた後、そこまでの道のりに立ちはだかる武士どもを捉えていく。

 正確に首や胴、甲冑の隙間から覗く部分を切り裂いていく。息の根は止める。誰もその姿を捉えることはできない。

 柊は己に景色に溶ける術をかけている。術の素質のあるものにしかその姿は見ること叶わず、たとえ見えたとして、柊の駆け抜ける速度は、残像すら残すほどに早い。それゆえ、視界に捉えることは至難の業である。

 標的は織田側、内藤勝介。信長の父、信秀の頃より仕える四家老のうちの一人であり、この戦の重要人物である。

 彼を屠れば、山口側はとたんに優勢になる。

 柊は静かに、無数の武士を斬りながら、標的へとまっすぐに駆ける。

 そして、ついに内藤の跨る茶色い毛並みの戦馬の足元へたどり着く。

 そこで柊は術を解き、服に縫い付けてあるフードをかぶる。

 突然現れた男の姿に、内藤の馬は驚愕し、大きく嘶いた。

 前足を大きく上げた馬に、内藤は振り落とされ、突然現れた襲撃者に目を剥く。

 「なっ!貴様!何者だ!」

 しかし柊は答えない。左の手に持った黒い刀をカチリと構え、静かに息を吐く。そのまま、終始無言のまま、標的へと襲いかかる。

 内藤が最後に見たのは、満月に照らされて妖しく光る黒い刃と、その向こうに光る、感情を無くしたかのように黒く澄んだ柊の瞳だけだった。

   

                    2

 内藤様ぁ!!

 異変に気づいた者たちが一斉に悲痛な声を上げる。

 その頃には柊はもうすでに最初にいた断崖に身を隠している。

 「これで」

 柊の予想していた通り、山口の軍勢は、内藤の抜けた陣の方から怒涛の勢いで流れ込んでいく。

 織田の軍勢は、圧倒的劣勢となった。

 「終わりだ。織田信長、己に恨みはないが、ここで朽ちるがいい」

 尚も身を隠し、戦況を見守ったまま、柊は呟く。

 その時だった。

 今の今までその姿を堂々表していた満月が、ものすごい勢いで突如現れた黒雲に包まれる。

 「これは・・・。むっ!」

 柊が感づくか否かの間に、何者かの術式が完成する。

 現れた黒雲は、膨大な量のエネルギーをもち、それはすぐに帯電し始める。

 「あれは・・・」

 そして、未だ金属音と怒号に埋め尽くされた戦場に、凛と声が通る。

 「雷悉く刃となりて、我に仇なすものを打ち砕け!」

 その言の葉に応じるかの如く、黒雲の中で凄まじい音を立てて無数の雷が生じる。

 「落ちよ!神の雷!」

 最後の言の葉に応じ、術が発動する。

 空を覆う黒雲から、大の大人が十人がかりでも抱えきれないほど太い雷が、山口側の軍勢の中央へと降り注いだ。

 あれは、柊が思うところの、降雷の術。落とされた場所に巨大なクレーターができて、そこにいたはずの者たちを一人残らず消し炭にしてしまったことから、あれを呼んだのは、強力な術者であるとわかる。

 あれほどの術を、あれほどまでに省略した言の葉で扱えるものということは、柊を上回る術者であることを示している。

 そしてそのたった一撃で、この戦の勝敗は決した。

 内藤の討ち死にで劣勢となったのも束の間、織田の軍勢側から振り落とされた雷の鉄槌によって、山口側の軍勢はその大半を喪失。もはや戦にもならぬ状況へと一転した。

 後に赤塚の戦いと呼ばれたその合戦は、こうして織田側の勝利で幕を閉じた。

 しかし、その戦のさなか内藤勝介を討ち取ったものの存在も、織田軍勝利の決め手となったあの雷を呼んだ者も、後の歴史には一切語られることはなかったのである・・・。

 

いかがでしたでしょうか。

まだまだこれからなので、新話をお楽しみになさってください。

では。

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