テイマー去る
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「お前、この僕に逆らってこの国で商売できると思ってるのか?」
贅肉を揺らせながら久しぶりに来た客は私に暴言を吐いていた。
お供の二人もさっきから私の商売道具をせっせと懐にしまっている。なんだこのクズ共は…
「帰れ」
コミュ症…と言うより言葉があまり話せない私はそう言って目の前のオークもどきを睨みつけた。
「ひっ…!そ、そんな目をしても無駄だぞ!僕のお父様は…」
「帰れ」
聞き飽きたし、何より鬱陶しくなってきた。三年もここで商売をしていたがソロソロ限界かもしれない。
「お、女のくせに生意気なんだよ!」
オークもどきが激情して私に殴りかかる。
ゴン…
オークもどきの拳は私の頬を殴ったが私は痛くない。逆に相手は…
「……っ!」
あまりの痛さに転げ回っていた。今ので死なないのを見るとレベル1だなこいつ。
「最後だ、出ていけ」
普段閉じている眼を開けて、殺気をだす。髪が魔力に反応して逆立つが気にしない。
「ひっ…!お、お前なんかお父様に頼んでこの街からでていかせてやる!」
お供二人と粗相を漏らしながら走って出ていった…案外速いんだな。
それにあいつらは二つ勘違いしている。
一つは私は男だ。
もう一つは…この街に居て欲しいと懇願したのはそちらのトップの王、グスタフ5世だ。
それにお前達の父親が出ていけと言う前に私はこの店を閉める。
誰か一人でもこの街の人間が私を拒絶したら私はこの街を去っても良い。そうグスタフと玉藻が契約を交わしていた。
寧ろ三年も居る予定はなかったのだが…まあいい。グスタフには悪いが約束通りこの国を去る。
「玉藻、フウ」
目の前に魔方陣が現れる。片方は漆黒、片方は新緑の色合い。
「なんぞえ、主様」
「君に召喚されるのは三年ぶりかなご主人様」
魔方陣から現れた二人の美女は私の前で膝をついて頭を下げていた。
片方は玉藻前と呼ばれる神、片方は風の精霊のトップ。両方とも元気そうでなによりだ。
「街を出る」
そう言うと私はてを前に出し、
システム欄を起動させ、次々に店の物をアイテムBOXにいれていく。
「当てはあるの?」
フウが頭を上げて聞いてくる。緑の眼に堀の深い造形の顔立ちはいつ見ても好みだ。
「無い」
そう言って作業を続けると玉藻の方からため息が聞こえてきた。
「主様、その身が各国から狙われているのをご存知?行き先を決めずに歩いたら国に戦争をしかけられ……まさか主様」
玉藻が途中で言葉を止める。気になってそちらを見ると真剣な顔でこちらを見ていた。
「戦う気ですか?」
何と戦うのか主語をつけて欲しかったが多分話に出てた国とかではないだろう。個人と国が戦っても勝てる訳が無い。それこそ圧倒的な戦力差がない限り。
「戦う」
テイマーとして召喚獣に戦わないと言う訳にもいかずそう答えた。
「御意…三年間で何があったか想像しかねますが、この玉藻…全身全霊を持って主様の敵を駆逐します」
玉藻の髪が神力で逆立つ。やっぱり三年間も戦わないで放置させていたのは不味かったようだ。
アイテムBOXに全ての武器防具、薬を入れ終えて改めて店内を見回す……愛着とかあると思ったが特に何もなかった。
「行く」
転移魔法を起動させて二人に手を差し伸べる。まずは拠点の確保と……飯だな。
「「御意!」」
二人が私の手をとり立ち上がる…ああ…やっぱり私より背が高い。160と180を超えてるこの二人の組み合わせは…胸が当たるからなど決してそんな訳ではない。
「転移」
そう言って私は三年間過ごした家を後にした。
この時に気がつくべきだった。
国と戦う圧倒的な戦力を私は保有していた。
だからこそ後の悲劇は回避されるべきだった。
焼肉パーティー中止のあの悲劇を…