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生きる

十六夜は言った。

「ややこしいな。髪の長さでしか見分けられねぇじゃねぇか。」

維月が言った。

「そんなことはないわ。確かに動きは同じだけど、少し違うの。」と説明した。「こちらの維心様は少し穏やかでしょう。表情の作りかたが。あちらの維心様はもう少し厳しい感じなの。滅多に人前で表情を崩さないし。」

言われて十六夜は二人を交互に見た。

「…変わらねぇぞ。二人とも仏頂面で。」

維月はため息をついた。

「あなた、適当に見てるものね。見分けられないかも。」

こちらの次元の維心は言った。

「確かにあれは400年前の我よの。もしも400年前に対峙していたなら、誰にも見分けは付かなかったであろうぞ。」と維月を見た。「ここ最近の数十年は維月が共に居たからの。変わっても来るであろうて。」

相手の維心は頷いた。

「我も維月を娶って三か月ほどであったが、これでも臣下達には変わったと言われておったからの。」

十六夜は驚いたようにそっちの維心を見た。

「なんでぇ、お前も維月を嫁にしてたのか!ほんとに維心はどの維心でも同じだな。維月維月って追い掛け回して…そのうち維月に飽きられるぞ、維心。」

両方の維心が十六夜を見た。

「飽きるとはなんだ」こちらの維心が言った。「そのようなことがあるはずはないではないか。」

「そうよ」別の維心も言う。「そのように簡単な気持ちではないわ。主にはわからぬのか。」

十六夜はお手上げだというふうに両手を上げた。

「一人でも面倒だってのに、増えやがって。オレはこれからどうしたらいいんでぇ。まさか三人で維月を分け合うなんてことになるんじゃないだろうな。」

維心同士は顔を見合わせた。しばらくして、別次元の維心が言った。

「いや。我は元からこの維心が迎えに参るまでのことと約して妃にしておった。ゆえ、もう権利はない。維月も困るであろうて。」

この次元の維心は黙っている。十六夜はそれを見て、慎重に言った。

「ふうん…まあ、オレはどっちでもいいがな。維月さえ里帰りさせてくれりゃあよ。」と椅子にそっくり返った。「それにしてもややこしいな。どっちか名前変えろ。話しづれぇんだよ。」

二人は同じように眉を上げた。維月が咎めるように十六夜を見た。

「ちょっと!何を言ってるのよ!そんな、簡単に変えられる訳がないでしょう。両方とも維心様なんだから。」

十六夜はふて腐れたように言う。

「そんなこと言うけどよ、召使いはいい。こっちは名前で呼んで」と別次元の維心を指した。「こっちは王って呼べばいいんだからな。オレ達は違うだろうが。名前で呼んでるんだから、維心と呼んだら両方振り返るじゃねぇか。ややこしくって仕方がねぇ。将維だけでも大概ややこしかったのに。」

別次元の維心がふと十六夜を見た。

「…将維?」

「息子ですの」維月は説明した。「私達の第一子で跡継ぎの息子ですわ。維心様にそっくりで、宮では間違える者が多くて。」

別次元の維心は頷いた。では、我の息子になる訳か…おそらく、我があと400年次元の崩壊なく生きていたら、もしかしたら生まれたかも知れぬ子。

十六夜が手を振った。

「そんなことはいい。で、名はどうするんでぇ。」

別次元の維心が答えた。

「そうよの」と首を傾げ、「我のことは、シンと呼んでくれればよいわ。」

こちらの維心が、あ、という顔をした。

「そう言えば、瑤姫が幼い頃我の名をはっきり言うことが出来ず、そのように申しておったの。シンお兄様、との。何故に維心と言えぬとよく咎めたものよ。」

「おお、主の世でもそうであったのか?我の方もそうよ。瑤姫は炎嘉に嫁がせることになっておっての…あれは嫌がっておったが、いつまでも宮に置いておく訳にもいかぬゆえ。だが、まだ幼かったゆえ宮におったので、崩壊で嫁ぐこともなかったが。」

維月と十六夜がびっくりしたように言った。

「炎嘉様に?!」

維心が不思議そうに言った。

「なぜにそんなに驚くのよ。蒼が居らねば、釣り合うのは炎嘉ぐらいしか居らなんだしの。この世でも、おそらくそうなっておったであろうて。」

シンは頷いた。

「ここでは蒼に嫁いで、今は西に出て居るのだな。維月の記憶で見た。大きゅうなっておったので驚いたわ。」

「とにかく」十六夜は言った。「これからはシンと呼ぶ。こっちは維心だ。」

維月は黙っていたが、言った。

「…私はお呼びするのはお二人とも維心様と。」十六夜が顔をしかめたのを見て、付け足した。「だって、私にとってはどっちも維心様なんだもの。話しをするときはシン様と言うから。」

十六夜は渋々頷いた。

「じゃあ、それで。ところで、シン。」とそちらを見た。「お前、どうする?しばらくはここに厄介になるんだろうが、その後はお前も居場所を見つけなきゃならねぇぞ。維心を見ててわかるが、お前の寿命は長い。オレの親父が全てを管理してるから、おそらくお前ほどに力が強かったらこっちの次元でも責務も課せられるだろうが…それでいいのか?」

シンは少し黙った。そして、頷いた。

「仕方があるまい。我にはもう帰る次元はない。主の父に、良いように考えて欲しいと伝えてくれ。力を持っておる限り、責務を負わされるのは仕方がないと思うておる。」

十六夜は複雑な顔をしたが、頷いた。

「言っておく。呼べば来るんだが、用件が溜まってからにしてるんだ。来るといちいちうるさいからよ。」

維月が横を向いて失笑した。それは十六夜が子供っぽいからじゃない…。

十六夜がそれに気付いて膨れた。

「維月、お前、オレのせいだって思ってるだろう?口うるさい親父なんだからよ…そうそう、お前にも、父と呼んでくれと言ってたぞ。オレは伝えたからな。」

維月はびっくりした。

「え、碧黎様を?確かに父だけど…。」

「オレに言うな」と十六夜は背を向けた。「じゃあ、オレは帰る。いろいろ忙しくなった。」

クルリと踵を返すと、そこに、碧黎が立っていた。十六夜は驚いて後ろへ飛び退った。

「…なんで急に来るんだよ親父!びっくりするだろうが!」

維心も驚いている。この親子は、我の結界に掛からないのをいいことに、好きな時に来て好きな時に帰りよる…。心臓に悪い。

「なんだ、碧黎。いつでもそうそう出て来ぬのに。今回はよく見るの。」

碧黎は維心を見た。

「我にしても不本意だが、気になることがあっての。そっちの維心が居った次元のことよ。」と十六夜を見た。「主はどうするのだ。帰るなら止めぬが、我は雑談をしに来ることはないぞ?」

つまりこれから話すことは結構重要だということだ。十六夜は肩をすくめると座った。

「じゃあ、さっさと話してくれ。」

「態度のデカい奴だの。」碧黎は呆れたように言うと、皆を見た。「そっちの維心のことであるが、やはり次元の消滅を正確に確認してからこちらの次元で責務を与えようと思うての。あのどさくさで我もしっかり確認出来なんだ…もしもまた繰り返されているとしたら、此度は維心という大きな駒を失っておるし、常のようには行ってはおらぬだろうし…なぜか気になって仕方がないのよ。」

シンは言った。

「消滅しておらぬ可能性もあるというのか。」

碧黎は頷いた。

「そうだ。我は確かに時間の繰り返しは止めたつもりだが、こやつらがこちらへ帰るのがぎりぎりであったゆえ余裕を持って力を使えなかった。なので次元の巻き戻しが少し起こってしもうてから止めた気がするのだ…消えておらぬかのしれぬ。確かめぬわけには行かぬのよ。がしかし、次元は無数にある。いくら我でも、あの次元を探し出すとなればしばらく掛かるであろう。次元があったの所には、その痕跡が残るゆえ、消滅しておっても確認は出来ようと思うて。」

維月が言った。

「消滅していなかったら、どういった状態になっていると思われますか?」

碧黎は深刻な顔をした。

「時が止まった状態でおるか、巻き戻されて維心の居ない状態でまた崩壊へと進んでおるか…だが、維心が居ないとあの世は成り立たぬ。ゆえ、どうなっておるのか気になるのだ。我に時をくれ。見つけるようにするゆえに。」

シンは頷いた。

「我には次元のことはよく分からぬゆえ。よろしく頼む。」

碧黎は頷いた。そして、維月を見た。

「維月よ、無事に帰って良かった。これは」と十六夜を指し、「早く早くと騒がしかったが維心は冷静であった。ゆえに間に合うたと思うておる。何事も深く考えねばの。時を特定するのを間違ごうておったら、こうはならなんだしの。我が娘を失うかと思うたわ。」

十六夜はフンと横を向いた。

「維月が待ってると思ったら気が気でなかっただけじゃねぇか。まだ根に持ってやがるのか。」

維月は困ったように十六夜と碧黎を見て言った。

「あの…お父様。お力をお貸し頂いてありがとうございます。この、別次元の維心様の件、よろしくお願いいたします。」

碧黎はそれを聞いて、パアッと明るい顔になった。

「おお維月、我は娘の言うことならなんでも聞く心持ちであるぞ。」と十六夜を見た。「息子はこうだが。それでもかわいいのだから親とは愚かであるものよな。」

十六夜は碧黎を睨んだだけで、何も言わなかった。その様子を見て維月は苦笑した。

「ではの。また、何かわかったら来るゆえに。」

碧黎はその場からスッと消えて行った。それを見たシンは言った。

「維月、主らの父とはなんと大きな力の持ち主であることか。我はあのような気、初めて見た。」

維月は微笑んだ。

「あれは、「地」でありまする。本人はそう言っておりまするが、実質なんなのかは誰にもわかっておりませぬ…ただ、大きな力を与えられておる分、力を使える範囲は限られておりまして、あまりに世に干渉し過ぎた場合、一時力を無くしてしまいまする。私も時に、何かの意思が父を作ったのではないかと思うことがありまする。」

シンは頷いた。

「そうか、あれが地か。主の記憶で見た…主の父なら、我もきちんと挨拶しておくべきであったの。一時とはいえ、妃にしておったのだからな。」

十六夜が手を振った。

「ああ、そこは気にしなくていい。維心だってまだ、正式に挨拶なんかしてねぇし。そもそもあれが父親だって知ったのは、だいぶ後になってからだからな。」

維心が衝撃を受けた顔をした。

「…なんと。我はそこには気が回らなんだ。維月を正妃にする時も、碧黎にはいわなんだしの…どうせ知っておるものだと思うて。この件がひと段落ついたら、臣下に挨拶に行かせようぞ。結納も渡しておらんわ。」

なんだか慌てている。維月が苦笑した。

「まあ維心様、もう今更よろしいのよ。どうせ父はそんなことに明るくないのですし。世の儀式など、全く知らぬのですから。珍しがるだけでございますわ。」

それでも維心は顔をしかめた。

「別次元の我に教えられるとはの。同じ我であるのに…。」

何やらぶつぶつと言っている。維月はため息を付いた。十六夜が立ち上がった。

「はいはい、そんなことにこだわってるようじゃ、いつまで経っても維月は独り占め出来ねェよ。じゃあな、オレは帰る。」と維月に軽く口付けた。「またな。なんか動きがあったら呼べ。」

十六夜は、今度こそ出て行った。シンが、まだぶつぶつと何か考えている維心を後目に、維月を見た。

「維月、我に気を使わずともよい。約したであろう?我は約束は違わぬ。主の夫の維心がこうして居るのだ。我にかまけておってはならぬぞ。」

維月は首を振った。

「維心様…」維月はシンの方へ歩み寄った。「そのようなご心配などなさらないで。それよりも、早くこちらの次元に慣れなければ。たくさんのものを失われたのですから…私は出来る限りお傍におりまする。」と表情を曇らせた。「でも、お邪魔であったらおっしゃってくださいませ。」

シンは維月の頬に触れた。

「維月…」と、維心がこちらを見ているのに気付いた。「よい。さあ、戻るが良い。」

維月も維心の視線に気付いて、頷いた。黙って手を差し出す維心の手を取って、そしてシンを振り返り振り返り、そこを出て行った。

シンはため息をついた…さあ、我はここで、生きる道を探さねば。

昨日夜8時に、番外編の迷ったら月に聞け・隣の世2~略奪の世 http://ncode.syosetu.com/n2653br/読み切りアップしました。短編ですが二万字以上あります。暇つぶしにどうぞ。ちなみに「もしも~だったなら」的な、まよつき版です。

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