中川希美
「いらっしゃーい。入って」
「ああ。失礼する」
そう言って麗子は黒いブーツを脱ぎ、相手の女の部屋に入った。
「相変わらず綺麗な部屋だな。」
嫌味をたっぷり込めて言う。
「それはどうも。麗ちゃんの部屋だって真っ黒で素敵じゃない」
「それは嫌味か」
「いーえ、褒めてます~」
無邪気な女。この女は中川希美と言う。
この女も麗子と“同じ部類”だ。
「さあ、座って。」
そう言って希美はポスッとソファに座ると、麗子も向かい合わせになるように座った。
「ねえねえ、この人知らない?」
「ん?」
その写真には、一人の男が写っていた。
どっからどう見ても怪しい。こいつは・・・
「お前の彼氏か?」
「んなわけないでしょ!!ふざけてるの?」
「本心なわけないだろう。・・・・スパイかなんかか。」
「ええ。そうっぽいわよ。なんか、見るからに怪しいし」
「そうだな」
「でも麗ちゃんが言うとなんか変よね」
「あ?」
「だって麗ちゃんだって見るからに怪しい格好してるもの」
そう言った希美の指の先には、麗子の服を指していた。
真っ黒な服、真っ黒な手袋、真っ黒なバック。
さっき脱いでいたブーツも黒だった。
「・・・しょうがないだろう、この色しか持っていないんだから」
「・・・もしかしてとは思うけど、この写真の男の人、麗ちゃん?」
「なわけあるか!!私は女だ!!」
「ふふっ、冗談よ。さっきのお返し」
その言葉に、麗子はちっと舌打ちを鳴らすと、足を組んで、問うた。
「要件は?それだけか?」
「わかってるくせにー」
「確認だ。」
「この男の人、怪しいから麗ちゃん見張ってくれない?」
「なんだと!?」
この女のことだから、もっと・・・こう、なんていうか、恐ろしいことを言い出すのでは・・・と麗子は思っていた。
それがなんだ、希美ときたら“見張っててくれ”だと?!
この寒い中?
「ずっととは言わない。この人、私の日常を全て把握してるらしいから。仕事の時間帯とか、出かける時間とか。」
「へえ、なんだ、コイツは探偵か何かか」
「だーかーらぁ、それを麗ちゃんに調べて欲しいの!」
「面倒だな」
「しょうがないでしょ、私たちの安全のためよ。」
「はあーぁ、」
麗子は最大にため息を着くと、その仕事を引き受けた。
「わかった、やる。」
「ありがとう」
「最初からそのつもりだったのだろう。目が鋭く光っていたぞ」
「うるさいなぁー、最後の一言は余計だって」
「最初の一言は否定しないんだな」
すると希美が立ち上がり、
「ハイハイ。・・・今日泊まってく?」
「ああ。」
「最初からそのつもりだったでしょ」
「まあな」
「否定しないのね」
「今日はヤケに仕返ししてくるな、お前」
「まあねん」
そう言って、写真をしまい、こう言った。
「ゆっくりしていってね。何してても構わない。さっきの件は明日からでいいから」
「ああ。」