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仮面のエリエ

作者: 神榛 紡

 真っ白仮面に竜鱗のドレス。所作は姫君に比し、武技は武神にすらも比す。

 

 

 アーリエの村にて生まれ、妹は才を見込まれ城へと上る。

 

 

 エリエ、エリエ。仮面のエリエ。

 

 

 今はまだまだただの人。仮面も付けずに道を行く。

 

 

 されど一転、ギルドにて。仮面を被りて剣を取る。

 

 

 そこから始まるは後に万年残る伝説の数々。

 

 

 森に行っては初見の迷宮を踏破して、山に行っては翼竜を斬る。

 

 

 野を行けば千の賊を切り殺し、海では城ほどもあろう海魔を一太刀にして切り捨てる。

 

 

 竜斬り賊斬り海魔斬り、それでもまだまだ事始め。

 

 

 あくる日ギルドに召致され、任されたのは姫の護衛。

 

 

 騎士に魔術師、侍女に馬車。数多の人が列を成して歩き行く。

 

 

 その中程に、仮面のエリエは只一人。

 

 

 闇深き衣を身に纏い、しかし剣と仮面がなければ街娘。

 

 

 しかしこの時すでに名手の一人。仮面のエリエは国でも十指に入る冒険者。

 

 

 正しく強者。護衛の軍の只中に在っても、その身は常に自然体。

 

 

 一行はゴブリンを蹴散らしオークを蹴散らし先へと進む。

 

 

 さすがは姫を護りし精鋭とでも言うべきか、スティールウルフもエッジバードも赤子の如く。

 

 

 しかし、神の悪戯か悪魔の気紛れか、彼らの前に降り立ったのは一頭の巨大な黒き竜。

 

 

 凶悪、凶暴、狡猾、残忍。遥か遠方の地まで悪名轟かせる竜が望むは姫の身柄。

 

 

 騎士団は足元にすら及ぶ事無く、冒険者達も刃が立たない。絶対絶命の窮地と思われた。

 

 

 そこで突如前へ出たのが仮面のエリエ。

 

 

 その腰に佩きし片刃の剣をサッと抜き、たった一人で黒き竜に言い切った。

 

 

 「姫を望むならば私を殺してからにしてもらおう。でなくば望み適わぬと知れ」

 

 

 傲岸不遜。これに怒らぬ竜ではなく、火吹き爪を振るう。しかし仮面のエリエは意にも介さず。

 

 

 「ここは私が引き受ける。諸氏は先へと進むがいい」

 

 

 言うが早いか、竜を引き連れ彼方へと去る。結果、姫は救われ死者も出ず。

 

 

 ここから始まったのが、仮面のエリエの数多の伝説。

 

 

 まるで自重は止めたと言わんばかりに、その身に宿る絶技を振るう。

 

 

 隣国より五万の兵が攻め入ったと聞いたなら、単騎これを押し返し。

 

 

 街に悪魔が現れたというならば、只一人にて討ち取り滅す。

 

 

 後にも先にも同勲有らず。史上にて知らぬものなき女史である。

 

 

 エリエ、エリエ。仮面のエリエ。

 

 

 仮面から覗く瞳は酷く冷たく美しい。

 

 

 王国暦三百八十四年執筆。サンエルズ王国侯爵『クエンス・ローゼンタインの日記』より抜粋。

 

 

 

 

××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

 

 

 これってどういう羞恥プレイなのかしら。

 当人としては(・・・・・・)嫌がらせ以外の何物でもないな。そう思いつつ椅子へと腰を下ろす。

 周囲を見れば、等間隔に並んだ机と椅子に自身と同じ年齢の少年少女が座り、彼らの前に立つ壮年の男性が垂れ流す言葉を真剣に聞いている。

 

 「つまり、この日記が見付かった事により、戯曲などで知られる仮面のエリエという人物が実在したという事が知られ―――」

 

 カッカッ、とチョークが黒板に叩き付けられる音を聞きながら、青い空が広がる窓の外へと目を向ける。

 そこには、灰色のジャングルと揶揄される景色が、いつも通り当然のようにあった。

 

 「本当に、転生なんてバッカみたい」

 

 小さな、とても小さな呟きは、窓を震わせる事も無く消えていく。

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