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雪香日和

『ええ、全ては――』

「アクアスプラッーシュ!」

「バーリア! ききませーん」

 坂野美里ボイスはいいのはもちろんだが、大作だけあってドラナイ5は面白いと思う。できれば静かな環境でプレイしたいが、今日はせっかくの休日だし、クリアまで一気にいきたいのだが……。

 さて、簡潔に説明しよう。

 今、俺の部屋に雪香がいます。麻衣と遊んでます。雪香が魔法少女アニメの必殺技を放つ真似をすれば、麻衣はパントマイムよろしく壁を張る動きをし、バリアだといい張ってる。つまり、部屋の中には小さな子供が二人で騒がしいということです。

 つか、麻衣は十六(享年)だろ。雪香といっしょに遊ぶのはいいが、も少し大人に応対しろよ。正確には何十年も現世で過ごしてんだから、精神は俺より大人でもおかしくないはずなんだがな。

 しかし、ここで怒鳴るなりしたら俺も同列だろう。ゲームに集中できんという理由だからな。それに、雪乃さんから預かってる身だし、キチンと見守る必要がある。

 雪乃さんは確か夜には帰るとか言ってたし、それまではしっかりと面倒を見るさ。雪乃さんの大事な娘だからな。

「ダイヤモンドダスト!」

 未だなりきりごっこは続いてるらしい。今度は氷の魔法か。雪香は手に持った魔法のステッキ(新聞紙仕様)を振りかざすと、無数の氷のつぶてが部屋内に走り、部屋が真冬の山みたいな猛吹雪になる。さすが雪女の血筋だな。

「ええい、サイコキネシス!」

 それに負けじと、麻衣が叫んで部屋内の色んな物を飛ばして反撃する。安全面を配慮し人じゃなく押入の戸とかにぶつけているな。ゲーム機も飛んでったわ。

 ちなみに霊能力みたいなのでいわゆるポルターガイストみたいなもんだ。

 やれやれと俺はため息を吐く。

 そろそろ止めるべきであろう。

 部屋が全壊したら困るしな。




「……ごめんなさい」

「別に邪魔したわけじゃ――いったーい!」

 麻衣が雪香より幼いこと決定したな。

 とりあえず二人を正座させ、あまり怒鳴ることはなく、言い聞かせるように叱る。

 さすが雪乃さんの教育の賜物か、雪香は反省の色が窺え、麻衣はその素振りはなく、ハリセンで打たれた頭を抑えている。これは俺の教育が悪いのかね。

 しかし、今日は下の階の天使さんがいないのは幸いだな。もしいたなら、走り回る音がうるさいとか言われ、あの青白い光弾が飛ぶとこだっただろう。

 ふと時計を見たが、十二時を廻っているのか。ゲームに集中すると時間が流れるのが早い。

「そろそろ昼飯にするか。雪香は何か食べたい物とかあるか?」

 雪香は表情を明るくさせ、

「ハンバーグがいい!」

 元気よく注文を告げた。じゃあ、ファミレスにでも行くか。生憎、食事に関しては雪乃さんのお世話になってるから、冷蔵庫にはめぼしい食材はなく、コンロもない。

「あ、そだ。クロテンの新刊今日発売日だから買ってきて」

「へいへい」

 パシリのような扱いだが仕方ない。麻衣は部屋からはでれないし、あと食べ物も食べれない。既に死んでるから飢えないのはいいが、味わえないというのは辛いだろうし、唯一楽しめるだろう娯楽に関しては十二分に味あわさせてやりたいからな。限度はあるが。

 ちなみにクロテンというのは、一般的なタイトルの略語だ。ライトノベルのコミック版で、俺も読んでいる。




 寂れた景色が広がる魔界荘から、都会ほどまではいかないが賑やかな喧騒が広がる街中まではそれなりに距離がある。

 つい最近経験した遭難未遂に比べりゃ大したことないが、出歩くのは億劫にはなる。元ヒキをなめんな。

 笑顔を絶やさず、ルンルンという文字が似合う雪香を連れ、最近人気が出つつあるチェーン店のファミレスに入る。

「いらっしゃいませぇ。二名様でよろしいですか?」

 はいと答えた。

 これは人気が出るのも分かる。

 可愛い店員が身に纏うのは、赤と白の色合いが綺麗な制服。赤のミニスカートに白いニーハイソックスはまさしく神聖なる領域を形成している。

「注文が決まりましたらお呼びくださいー」

 席へ案内され、メニューを開いて見やすいように雪香に見せてやる。

「お子様ランチ!」

 と、雪香は小さな指で示す。このセットにはハンバーグに旗が刺さった写真が載っているな。俺もメニューが決まり、店員を呼ぼうと周りを見渡す。ファミレス自体馴れてないからな、タイミングが大事だ。できれば先ほどの店員を呼びたい。

 店内を見渡すと、満席に近い状態だな。先ほどの店員も接客に勤めている。心なしか家族連れより、男二人組が多いのは気のせいだろうか。まあ、あの制服だと無理もない。俺も雪香と一緒じゃなかったら、そんな店員目当ての客だと思われるんだろうな。




 ファミレスで腹を満たした後、直帰はせず街をウロツくことにした。雪香も楽しそうに、はぐれないように繋いだ手を振り子のようにブンブンと動かしている。

「映画でも観るか?」

「うん!」

 俺の提案に雪香は力強く頷いた。

 賑やかな街の通りにある映画館。まだ入ったことはないが、人気作から、コアなアニメ映画まで幅広く上映されてるらしいと、三神さんから聞いたことがある。

「どれか観たいのあるか」

「アレがいい!」

 と、雪香が指した映画看板は『魔法美少女シャーリィ』だ。よくある魔法少女モノで子供に人気な作品だな。俺もTV放送版は欠かさず観ている。以外と楽しめるよ。

 この映画版も実は気になってはいた。

 だが、よく考えてみろ。たまの休日に男一人で子供向けな認識がなされてるアニメ映画をシアターに足を運んで観てる光景を。中には気にせず行くツワモノもいるらしいが、とてもじゃないが俺はその領域にはいない。

 そう、そこでだ。雪香といっしょに観れば『子供に付き合い映画を観る気さくな兄(或いは父)』という見方がなされるだろう。人目とかの問題なくこの映画を楽しめるというわけだ。決して雪香をダシにしようとしてるわけじゃない。たまたま俺の提案に雪香が同調しただけだ。念のため。




 良かった。実に良かった。

 子供向けと侮る無かれ。中身は俺みたいなオタクに向けられて作られたような出来だったな。雪香もご機嫌ゲージが振り切ったようにスキップして、帰り道を進んでいる。

 フフ……今日だけで雪香の俺への評価は高くなったな。つまりは雪乃さんの心証も上がったということ。

「あら。久しぶりねえ」

 艶っぽい声を掛けてきたのは、紫の髪を靡かせるサキュバス。リルハさんだ。そして、

「…………」

 傍らに寄り添ってる犬コロは、無言で前を見据えている。その視線の先には、

「ユーキお兄ちゃん、知り合いなの?」

 雪香が飼い主を見上げる子猫のように、俺を見て訊ねる。

「まあ、色々とあってな」

 その色々とやらは、俺の行動によって解決したとは言いたいのだが、結局は勇者とやらに取られたという話だ。さすが勇者、汚い。

「白峰雪香です!」

 雪香は元気よく名乗る。さすが雪乃さんの子。教育がしっかりしてる。

「ほら、クリスちゃん。挨拶は?」

 リルハさんが言うが、クリスは少し母の影に隠れるようにして、何も言う様子はないな。前と小生意気キャラと違うんだが。

 それにしても、クリスは犬耳を惜しげもなく露出させてるし、リルハさんの髪色や尖った耳も目立つだろう。毎日ハロウィンじゃないんだし、少しはこの街で話題を産んでいてもいいと思うが。この街に住む人は感覚がおかしいんじゃないかと。

「…………」

「クリスちゃん?」

 うーん。一向に挨拶もせんとは。

 隠れつつ雪香を見るクリス。

 頬を紅く染めるクリス。

 目があって、雪香が微笑むと視線を逸らすクリス。

 なるほど。これが示す答えは一つしかない。謎は全て解けました。




「今日はありがとう。助かりましたー」

「いえ。いつも世話になってますし、またいつでも言ってください」

 雪乃さんの頼みなら、奪還屋でもなんでもやりますよ。

「今日はユーキお兄ちゃんといっしょで凄く楽しかったよー!」

 嬉しいこと言ってくれるじゃないか。

 その天真爛漫な姿にクリスが惚れるのも頷けるな。だが、俺には関係はない。当人の問題だからな。

 何はともあれ、雪乃さんの俺への好感度は上がったな。確実に。

 ドラナイの為の休日が半日無くなったのは痛いが、将来の地盤となるならば痛くはない。


 あ、クロテン買うの忘れた。



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