1、第一の騎士 可愛くて年下の熊井君
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
~主人公紹介~
佐倉紅葉
三十歳。
彼氏なし。
役職は係長。
~第一の騎士~
熊井君。
中途採用として主人公の働く会社へ就職をした新人さん。
二十歳。
会社では、女性社員の一部から『くまちゃん』なんて呼ばれている。
可愛い顔、可愛い仕草、可愛い笑顔には女性である主人公も勝てないほど女の子よりも女の子っぽい。
今日、誕生日を迎え三十路となった私。
今年も一人分のケーキを買って帰ろうと決めて出勤をする。
職場の人は私の誕生日なんて誰も知らない。
私も知らないからお互い様よ。
でも、若い子達が彼氏から“おめでとう”の連絡が来たとか嬉しそうに話をしているのを聞いたことはある。
それが、いつだったのかは知らないけど。
「佐倉さん」
私は名前を呼ばれ振り向く。
私の名前は佐倉紅葉。
独身、彼氏なしのお一人様。
私には仕事があるから寂しくなんかないわ。
「あれ? 熊井君。今日は営業で外回りだったわよね?」
「そうなんです。でも朝、女性が階段から落ちそうになって庇ったら肩をぶつけたみたいで腕が上がらなくて。運転ができそうにないんですよね」
熊井君の名前は強そうだけど、見た目は女の子のように可愛い顔。
顔は小さいし、目は大きいし、ショートの髪はパーマをかけているのか天然なのか分からないが、毛先がくるんっと巻いていて可愛い。
身長は高いから、可愛い顔だけど男性だと判断されやすいと思う。
「それなら車で病院まで連れて行くよ」
「そんな、佐倉さんのご迷惑になるのでタクシーで行きますよ」
「遠慮しないでよ。私も用事で外に出るし、ついでだから気にしないで」
「それなら、お願いします」
熊井君は丁寧に頭を下げた後、満面の笑顔を私に見せてくれた。
眩しい笑顔は私の鼓動を速くした。
可愛すぎる。
熊井君は、中途採用で入ってきた時からニコニコしていて可愛かった。
私とは歳が離れているから、可愛い弟のような感覚で見ていた。
守ってあげたい。
助けてあげたい。
そう思っていたけど、彼はそんなタイプではなかった。
自分の仕事はしっかり指示通りにするし、困っている人をさりげなく助けてあげるし、守られる人ではなく守る人という方が合っている。
それを私は、彼が入社して直ぐに気付いてしまった。
他の社員は彼の中身なんて見ようともしないから、彼の頑張りなんて見えていない。
“新人だから”“可愛いから”“若いから”そんな簡単な言葉を彼に向けて言い、彼のことなんて知ろうともしない。
だから私は彼が心配だった。
彼は傷付いていないだろうか?
それが気になって彼を病院まで送るという口実を作った。
少し二人で話をしてみたかった。
彼の気持ちを聞いてみたかった。
上司として。
ただそれだけだった。
「それでは、お願いします」
「えっ、あっ、うん」
熊井君は助手席に乗り言うけど、セクハラ問題とかあるんだから後ろに乗ってほしかったかな?
何かあった時に私自身を守るために。
「あっ、助手席はマズかったですか?」
熊井君が申し訳なさそうに言った。
私、顔に出てたかな?
「熊井君がいいなら、大丈夫だよ」
「それなら良かったです」
「あっ、シートベルトつけられないよね? 私がつけてあげるね」
私は運転席から助手席のシートベルトを引っ張る。
「ん? あれ? 入らない」
この位置だとシートベルトがつけにくい。
「あっ、僕がやります」
熊井君が私からシートベルトを受け取る。
その時、手が触れて何もなかったように手を引いたけど、心臓はバクバクしていた。
人に触れるなんてこと久し振りすぎてドキドキした。
熊井君は何も気にしていないみたい。
そうだよね。
おばさんに触れても何も感じないよね。
若くて可愛い女の子なら違っていたかな?
「できました。佐倉さん、ありがとうございます」
「お手伝いできてよかったです」
「どうして僕に敬語を使うんですか?」
熊井君がクスクスと笑って言った。
でも熊井君の目は笑っていないようで、嬉しくなさそうに見えた。
「だって、熊井君は一人で何でもできるでしょう? 私が熊井君のお手伝いをしたのは初めてだから、手伝わせてくれてありがとうの意味を込めて、敬語にしてみました」
「佐倉さん、どうして?」
熊井君は大きな目を見開いて驚いている。
私、変なことを言ったかな?
もしかして私の顔に何か付いてる?
「ちょっと、熊井君。顔に何か付いているなら早く言ってよ」
私は運転席の上にある鏡を見る。
「違います。佐倉さんじゃなくて僕です」
「えっ、熊井君の顔には何も付いていないわよ? 今日も笑顔が可愛い熊井君だよ?」
「佐倉さんには僕は、どんな風に見えていますか?」
熊井君は不安そうに私に訊いてきた。
何が不安なの?
「熊井君は、しっかり者だよ。自分で考えて行動して、誰かの足を引っ張ったりしないし、誰の手助けも必要がないくらい仕事もできてるよ」
「どうして、、、」
「どうしてって、そんなの見てたら分かるわよ。熊井君は頑張りやさんだから」
「初めてです」
「何が?」
「僕を、ちゃんと見ていてくれた人は」
熊井君はウルウルとした目で私を見て言った。
本当に可愛すぎる。
「そうだろうなぁとは思ったよ。一人で頑張ったのに、それを解ってもらえなくて悔しそうにしても、直ぐに笑顔になって相手に合わせてたでしょう?」
「誰にも気付かれていないと思っていました」
「そうね。人は見た目で相手を決めつけてしまうものだから。特に熊井君の見た目は誰もが守ってあげたいって思っちゃうでしょう? だから誰かに手伝ってもらったんだろうなぁなんて思っちゃうのよ」
「そうですよね」
「でもね、それは熊井君も同じだよ」
「えっ?」
熊井君は、私の言葉の意味が分からないのか首をかしげて私を見て言った。
その仕草も可愛すぎる。
「だって熊井君も、どうせ誰も解ってくれないって諦めていたでしょう? だから誰も熊井君を評価しないのよ」
「そんな言い方しなくても、、、」
「ごめんね。でも、熊井君のやり方は間違ってるよ。評価をしてほしいなら伝えなきゃ。待ってるだけじゃ分からない。言わなきゃ伝わらないんだよ」
言い過ぎたかな?
熊井君はうつむいたまま何も喋らない。
熊井君ってメンタル弱い子だった?
「佐倉さん。僕を弟子にしてください」
「えっ、弟子って何?」
「僕、佐倉さんみたいになりたいです」
「私?」
「はい。ですので弟子にしてください」
そんなにキラキラ輝かせた目で言わないでよ。
断れないわよ。
でも弟子って何をするの?
「師匠。僕が一人前になったら、その時は僕の、、、」
「佐倉、俺も連れていってくれ」
低音ボイスが車の窓の外から聞こえた。
その声の主は内藤部長だった。
私の返事を聞くこともなく、運転席のドアを開ける。
「えっ、内藤部長?」
「佐倉、キミは後ろに座って。俺は人の運転では酔ってしまうからさ」
「えっ、それなら御自分の車を使った方がよいのでは?」
「ちょうど佐倉が見えて、ついでだからさ」
「えっ、その理由、意味が分かりませんが?」
「まあ、気にしない。さあ、出発するよ」
そして内藤部長の運転で病院へと向かった。
病院へ着くと熊井君を置いて、私の行き先を訊いてくる内藤部長。
どこまでついてくるの?
いつも行動が読めない人。
それが内藤部長。
そういえば、熊井君は何を言おうとしていたんだろう?
今度、訊いてみよう。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
~次話 騎士予告~
『第二の騎士 低音ボイスで年上の内藤部長』
三十四歳。
若く見えるが低音ボイスと目尻のホクロが色気たっぷりの大人の男性。
若い女性社員には悪魔のように惑わすから悪魔部長と呼ばれている。




