契約
「それでは契約書を準備しますね…あれを」
セオドアは部下らしき茶髪②(折れそうに細い)に書類を持ってくるように指示する。茶髪①は訝しげに私を見ていた。そりゃあそうか、5歳…じゃなかった6歳児が話す内容では無かったもんな…
逆に全く気にしていないセオドアさんは何を考えているのだろう。
「え〜甲は…」
ちょっとまともに読む気になれなかったが、要するに魔法学校に入学するにあたり、文部省が私に保証するのは鉱石学校の入学金、鉱石学校での貴族のサポート。逆に私が守らなければならないのは
「魔法学校入学まで宝石魔法の使用禁止…?」
「あぁ、魔法を使用する事で貴族と思われて誘拐の危険がありますから…。サポートはつけますが治療院と違って身の安全を保証しきれませんし…。まぁそもそも宝石の調達が難しいですし大丈夫だと思いますが。基本的には魔法学校に入るまであなたの身を守るための施策と思ってもらえれば」
「分かりました。もし破ってしまった場合はどうなるんですか?」
「特にお咎めはありませんが、入学金の返還と入学している貴族からのサポートがなくなります」
「魔法学校の入学は可能だけれど、鉱石学校の入学金を支払う必要があるという事なんですね」
「そうですね」
「その内容も契約書に記載してもらえますか?」
「いいでしょう」
「魔法学校に寮はありますか?」
「ありますよ。同じく入学金に寮費が含まれています」
「鉱石学校、魔法学校の入学金と学費を教えてください」
「鉱石学校は50万リッツ、魔術学校の入学金は500万リッツ、学費は年間100万リッツ。3年なのでトータル800万リッツはあった方が無難ですね。それと食費、日用品などの生活費はご自身で負担してもらう事になります」
リッツはこの国のお金の単位だ。この一週間で1リッツがだいたい1円ということを知った。
それならだいたい毎年40万は生活費として必要、12年間の食費・生活費、学費、あとは就職して1ヶ月分の生活費も無いと不安…最低ラインは1280万、余裕を持つなら1500万は欲しいところか。
「鉱石学校の給与はだいたいどれくらいなのでしょうか?」
「それについては、入学後に世話人の貴族に説明させましょう」
鉱石学校の給与相場が分からないから何とも言えないな…
「分かりました。稼いだお金を安全で自分だけが管理できる場所に置いておく事はできますか?」
「そうですね、あれを」
セオドアは今度は茶髪①に何か持ってくるよう指示した。茶髪①が手袋をつけて持ってきたのは黒い麻袋のようなものだ。セオドアも手袋をつけてそれを私に渡した。
「これは宝石魔法使い達が、魔法行使の為の宝石を保管し持ち歩く為のものです。袋の形ををしていますが…リリーさん、これを持ってください」
「はい…えっ!?」
袋は私が触れた途端、細い紐のような形になり左手首に結ばれている。
「魔道具の1つです。概念としては袋、実体としては髪紐。素手で初めて袋に触れた人の物をその人の意志で保管、取り出しが出来ます。髪紐のようなみためですが、本人の意志なくして取り外す事も破壊することもできません。左手に入れたいものを持ち、しまうことを考えれば何もすること無くしまえます。袋状にして中をみたい時には髪紐状のものを手首から取り外せば袋になります。袋からまた紐にするには絞り口を絞れば自動的に髪紐状になり手首に戻ります。入学時に入学者全員に配られ、袋の色はそれぞれの魔法の色に対応しています。」
「これは貰っていて大丈夫なんですか?」
「白…あー、治癒魔法を発現した平民が治療院で金銭トラブルにあうことが多いので、入学前に貸与が許されているんです。例えば給料を封筒に入れて渡された場合、左手に持ってこれにしまいたいと思えばお金だけいれる、ということも可能です。これのお陰で白の学生が増えましたねえ…あ、取り出しは数万リッツ取り出すと思えば左手に現れます。」
「なるほど」
便利なものを貰った。某猫型ロボットのポケットみたいである。勝手にドラ紐とでも呼ぼう。それにしても白魔法の人達も大変だ。苦労人だろうし、学校に入れたら是非仲良くしたいものだ。
「これは何の魔法が使われているんですか?」
「時空魔法、あなたが持っているものと同じです」
「そう…なんですね」
「昔、宝石を持ち歩く魔法使いを狙った窃盗が流行した事があり…100年前の時空魔法使いが作った物なんです。ざっと100年分作ってくれたんですが、そういえばそろそろ在庫切れですね…」
「貸与についても契約書に書いてもらえますか」
「いいでしょう」
セオドアは文書を追加した。
リリーは再度文面を確認し、署名した。
契約書を回収したセオドアは安堵したような笑みを浮かべた。
「再来週、鉱石学校へ案内する貴族にここを訪問させます。その貴族の馬車で学校の寮へ向かってください。以降私どもの連絡は世話人の貴族を通して伝えます。」
「分かりました。」
「それでは、テレーゼさんによろしくお伝えください。」
セオドアと茶髪2人は席を立つと部屋を出ていった。
リリーはこの数十分の情報量に圧倒されていた。レティシアは目に涙を浮かべ
「リリーよかったわね…よく分からなかったけれど、あなたが頑張れば貴族になれるのね。応援するわ。」とリリーの手を握った。
リリーは感謝を伝え、自室に戻り2週間後の入学に向けて準備をはじめたのだった。
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