相談
セオドアはようやくたどり着いた、と一息ついた。
「選択肢は2つ。1つは魔法学校に入学しない。この場合は魔法を使う事なく平民として過ごしてもらいます。無意識にでも魔法を使用した場合は監獄で監視生活となります。」
いきなりとんでもない脅しをされている。こちとら5歳児(推定)なのに。
「2つ目は魔法学校に入学する。この場合は入学までにある程度まとまったお金が必要になります。幸いここはゴローニャ。鉱石学校があります。」
横で顔を青くしながら聞いていたレティシアが、〈鉱石学校〉と聞いて少しほっとしたような顔になる。残念ながら私はさっぱり分からないので、セオドアの話の続きを黙って待った。
「ゴローニャの鉱石学校は6歳以上であれば入学できます。宝石の原石を加工したり、原石を採掘したり、宝石を鑑定したり、宝石魔術に用いる宝石を生産する職に就くための職業訓練校ですね。最初の3年は主に採掘技術を学び、採掘技術修了資格を得れば卒業することも、その先の研磨技術、鑑定技術を学ぶ事もできる所です。全過程は9年。授業と、実習という名の労働がセットであるため、庶民は入学金さえ払えば学費の負担はほぼなく、なんなら労働によって給金が発生します。かわりに貴族は入学時に寄付金を求められます。家門の階級によって額は変わりますが。」
なるほど、鉱山しかないゴローニャ、そういう教育機関があるようだ。
「魔法学校に入学するためのお金を鉱石学校で稼いでもらう、これが2つ目の選択肢です。こちらを選択した場合、鉱石学校への入学金は支援できます。どうされます?質問があればどうぞ」
「もし鉱石学校へ通うとなった場合、支援していただけるのは鉱石学校への入学金だけなのでしょうか?」
6歳から9年間、どこで生活するのか大事な問題である。孤児院には12歳までしかいれないのだ。
「鉱石学校は全寮制なので、寮費は入学金に含まれていて、別途食費がかかります。リーズナブルな食堂があるので問題はないでしょう。そもそも入学してる女性はほとんどいないのですが、ちょうど採掘過程を終えた若い貴族女性が1人いるので、ケアを頼む事はできます。」
「ありがたいです。もし魔法学校の学費が貯まらなかった場合はどうなるのですか?」
「リリーさんの場合は…いろいろ特殊だからちょっと明言できないですね…。基本的に宝石魔法の発現は10~12歳であることが多く、白…治癒魔法が発現した平民は大体数年だけ治療院にいればいいんですけど、あなたは発現が数年早かった。そして黒…時空魔法という事もあり先程話したように上層部…文部省もあなたへの対応を決めかねているんです。それなのにこうして私が今日ここに来ているのはですね、今のところ鉱石学校への入学が望ましいのではないかというのが主流派なんですね。」
「はい」
「魔法学校に入学すると、宝石魔法に使用する宝石は自身で準備してもらう事になります。貴族は別に困らないですし、白…治癒魔法では安価に使える合成宝石があったり貴族から献石があったりするのでそこまで問題はないんですが、時空魔法となると…」
「どちらにせよ宝石を準備できる能力がいるんですね」
「そういう事です。もし魔法学校の入学金免除が適用されたとしてもそこがネックなので。そして全過程9年という事をふまえて急ぎ私がやってきたわけです。テレーゼというシスターに聞いたのですが、あなたは産まれてすぐこの孤児院へ引き取られ先日で6年経ったと聞いています」
なんと推定5歳と思っていた私は6歳だったようだ。話からすると6歳になったばかりなのでまぁいい線いっている。
「なので、鉱石学校に入学するのであれは来月、厳密には2週間後には孤児院から寮へうつってもらうことになります。」
思いのほか急展開である。
「えっと、魔法学校を卒業するメリットは官公庁への就職の他にありますか?」
「そうですね…ああ、平民が魔法学校を卒業すると、一代限りの爵位を貰えます」
「入学します」
かたや孤児の平民、かたや官僚で貴族。ここの世界についてよく知らないが、学校を行く行かないで差がありすぎる。そもそも鉱山での労働は、12歳までにどこかの家に引き取られなければ確定なのだ。同じ労働ならまだ未来が明るい方がいい。
リリーは脊髄反射で頷いてしまったのだった。