客人
私の客人らしい人は3人もいた。
1人は眼鏡をかけ、カーキ色の髪と瞳をした生真面目そうな人。40代中間管理職、という雰囲気である。残り2人は茶髪で30代だろうか。カーキ色の人の部下のような印象を受ける。1人はガッシリしており、1人は折れそうなほど細い。
レティシアが緊張した面持ちで、
「この子がリリーです」と告げた。
中間管理職っぽいおじさんは、眼鏡を持ち上げてニコリともせずに話し出した。
「文部省のセオドア・コールマンです。あなたがリリーさんですか。」
「はい」
国の役人が孤児にいったい何の相談があるのだろう。疑問に思っていると、
部下らしき茶髪①(健康そうな方)が、私を見て「本当に黒い…」と呟いた。
何だか前にも似たような事を言われたな…と思っているとセオドアが面倒くさそうに話を続けた。
「あなたが宝石魔法を発現した事を感知しました。15歳になったら魔法学校に入学してもらいます。」
「えっと…」
聞きなれない単語と唐突すぎる内容にリリーは言葉がつまる。
「私は子供向けの噛み砕いた説明は苦手なので、とりあえずざっと話すから黙って聞いてもらえますか。質問は最後に受け付ける事にします。」
セオドアは淡々と説明をし始めた。
「マウリッツ国民は、皆茶色の髪と瞳を持って産まれますが、宝石魔法が発現すると瞳の色が変化します。髪は全てが変化する場合と1部が変化する場合があり様々です。その色と同系色の宝石を用いて魔法を使う事ができます。赤は火魔法、青は水魔法、黄は地魔法、緑は風魔法、発現者のほとんどがこの4種のいずれかになります。まれに発現する色として、白は治癒魔法、黒は時空魔法が操れます。白は10年に1度、黒は100年に1度発現すると言われ、時魔法に関しては未だに明らかになっていない事が多いです。あなたは髪も瞳も黒くなりましたので、極めて珍しい時空魔法を発現していると考えられます。また宝石魔法発現者特有の粒子を検出したので我々がやってきたという事です。」
ここで一息、とセオドアはレティシアが用意したと思われる紅茶を一口飲んだ。
リリーは何とか話をのみこもうと必死だった。私は魔法使いになった、という事なんだろうか。自覚は全くない。宝石を使うって消費するんだろうか?それともずっと同じものを使えるのかな?そもそも宝石なんて手に入らないし確認しようがないけれど…
セオドアが再度口を開いた
「宝石魔法発現者は文部省が感知し、15歳になると首都オーラリーにある魔法学校に入学します。基本的に発現者は貴族に限られているため、そこそこ高額ですが学費を支払ってもらっています。その代わり、卒業者には行政機関での就職が確約されます。」
まさか推定5歳の孤児に金を払えと言いにきたのだろうか。
「平民の入学者は数十年に一度はあるんです。白…えー治癒魔法は2~3発現に1回は平民なので…。ただ治癒魔法発現者は、入学まで治療院で働いたり貴族が養子として引き取ったりする事も多いんです。まぁ治癒魔法が発現した平民の入学金は免除となる校則もありますし…」
入学金の免除を伝えにきてくれたのだろうか。少しリリーの心が軽くなる。学校に行けば肉体労働以外の就職先も見いだせる。更に希少な魔法使いと来た。ようやく転生のチート、というものなのだろうか。
「ただ黒…時空魔法は本当に情報が少なくて…あなたの存在を文部省が認識してから一週間、処遇をどうするか上層部も揉めに揉めてですね… ここからが相談になります」