孤児院
残念なことに、夢ではなかったようで一週間が経過した。百合もといリリーは、自分が今いる場所についてある程度把握してきた。
ここはマウリッツという国の、ゴローニャという地方である。この地方は鉱山を多く有している。作物はある程度は取れるが、特産というほどのものはなく、各々がギリギリ食べていける量の収穫しかない。観光する名所もない。そのため自分たちで食べるものを調達できなくなると子供を孤児院へ預けてよその土地へ逃げる家庭も多いようだ。孤児の多くは成長後、鉱山採掘を行っている人物に引き取られ、労働力として使われている。元孤児は危険な区域の採掘を担う事が多く、命を落とすものも少なくない。
「割と詰んでるわね…」
リリーは5歳の見た目にそぐわない言葉を口の中で転がしながら昼食のサンドイッチを咀嚼した。
孤児院での生活は朝7時に起床、体操、掃除、朝食。
晴れている日は教会の裏の畑で農作業、雨の日は農具の手入れ。昼には食事休憩がある。
17時に作業は終わり、夕飯、身繕いをして就寝である。
頭を打って記憶を失った、という事はテレーゼから他のシスター達に知らされていたので、目覚めた翌日までは安静にしていたが、身体に不調は無いことからまた普段通りの生活に戻される事になったのだ。
もちろん医者など来る事はない。でもシスター達は教会で祈ってくれていたらしい。その話を聞いた時、張りつめていた緊張感が何だか少し安らいで涙が流れた。精神が5歳の見た目にひっぱられているのかもしれない。
このミモザ教会にはシスターは5人、自分を入れて孤児は15人いる。孤児は0歳から11歳まで、12歳になるまでに誰かに引き取られるか、12歳になって鉱山採掘を始めるかのどちらかになる。
シスターは若い方からレティシア、エリザベス、ルーシー、アンナ、テレーゼの5人だ。孤児故に、子供たちはシスター達の注目をひこうと必死だ。そのなかでも一番若いレティシアは18歳で子供たちに大人気である。百合、もといリリーも同い年ということから親近感を覚えていた。
「リリーちょっといいかしら」
レティシアが昼休憩中の子供たちの中からリリーを探し出し話しかける。他の子供たちは、レティシアに話しかけられるリリーを羨ましそうに眺めていた。
「はい、なんですか?」
転落の件で何かあったのだろうかと考えながら、リリーはレティシアの後ろに続き休憩室を出た。
レティシアは困惑したような表情を浮かべて口早に説明した
「リリーにね、お客さんが来ているの。でも、その、引き取り希望というより相談事?みたいで…」
「相談事ですか?私に?」
「そうなの。私もよく分からなくて…テレーゼ様には話がいってるみたいなんだけど…」
「テレーゼ様は今日教会の当番ですよね」
「そうなの、だから私もどうしたらいいか…とりあえずリリーと会ってもらうわね」
「分かりました」
孤児に相談しにくる客人…悪い話じゃないといいけれど…
不安な気持ちをサンドイッチとともにのみくだしリリーは応接室へ向かった。