浮かれた誕生日
リリー、もとい百合は18歳の誕生日、緊張の瞬間を迎えていた。親に隠れてこっそり受けた大学受験の合格発表の日なのだ。
百合の母はシングルマザーで、いわゆる水商売で生計をたてていた。生活に必要なお金は渡してくれるが、ほとんど顔をあわせていなかった。
高校まで行かせてはもらえたが、幼い頃から母には高校卒業と同時に働くように言われていた。
でも百合は大学に行きたかった。若さや女性である事を切り売りするだけの人生は嫌だった。
高校3年間のアルバイトで親に隠れてなんとか受験費用と入学金と1年間の学費は貯められた。勉強の出来は悪くは無かったが、時間の捻出が厳しかった。それでも寝る間を惜しんで、母親の目を盗みながら勉強した。
浪人なんて出来るわけがない。受けられるのは地元の国立大学のみ。自己採点の結果では合格ギリギリラインだった。だから誕生日でもある合格発表日の今日、人生が決まる瞬間だった。
発表まで緊張して何も手につかず、家の近くのコンビニまで行くことにした。
「18歳かあ、成人するんだもんなぁ」
成人といってもお酒は買えないけれど、と缶チューハイを横目にオレンジジュースを買った。普段はスーパーにしか行かないし、ジュースなんて滅多に買わない。
「でも誕生日だし」
オレンジジュースとチーズケーキで自分だけの誕生日会。もし合格していたら合格祝いの会。きっと、新しい自分になれる。
お母さんにも初めて、自分の夢を話せるかもしれない。
そう思いながら家までの最後の横断歩道を渡りはじめた時、大きなブレーキ音が響いた。
「え?」
視界の端にタクシーが見えて、そこから意識は途切れた。