華金のはずが
5日目の実習後、リリーは実習担当の教官ゴードンにその場に残るように言われた。
ゴードンは愛想もなく、川の水を6歳児に勧めるレベルの無骨な利益主義な男である。
他の学生は身体チェックを受けて平民棟へ帰っていく。明日から休日という事もあって、皆晴れ晴れとした顔をしている。全員が帰ったのを見届けてから、ゴードンはリリーに向き合った。
「99番」
リリーの学生番号である。入学数週間前に入学を決めたから学生の中では最後の方だ。
「はい」
「お前年齢は6歳だったな」
「はい」
「基本的にこの学校に入学してくるのは成人男性だ。つまり労働も成人男性に適したものになっている」
実習を労働と言いきっちゃうんだ...と思いつつ話を聞く。
「ガキのお前に適したものがないか探してやった。ある程度危険を伴うが、まあその分給料は少し良くしてやろう。どうする」
リリーは実習で疲れた頭をなんとか動かす。こどもの私に適した危険の伴う仕事なら、元孤児がやらされている仕事のはずだ。給料を良くすると言っているが、そもそも私はここの給料の相場を知らない。即断したら足元を見られかねない。
「来週また相談させていただいてもいいですか?」
ゴードンはこちらをジロリと見て鼻をならした。手をシッシッと振る。
「また来週の実習後に」
リリーはそう言ってお辞儀をし、走って貴族棟へ帰った。
レイモンドが話していたのはこれだろう。ゴードンが子供の労働力を欲しがっている事を知っていた。つまりゴードンとの交渉を有利に進めるにはレイモンドの情報が必要だ。
レイモンド...あんな野心に溢れた瞳をしている男が、一度しか話していない人間にタダで協力してくれる訳がない。兄貴分として許したのは話しかける事を許した程度だろう。
考えろ、「レイモンドに無くて私に有って、レイモンドが欲しいもの」はなんだ。
一度しか会話してないのに、そんなの分かるはずがない。
なら思い出せ、レイモンドはあの時なんと言って私に声をかけた?
『お前は貴族なのか?』
『なんだ、貴族寮に帰るから貴族のガキなのかと思ってた』
「貴族との、つながり...!」
さすがに従者が主人を紹介するのは無理がある。それなら...
リリーは急いで整容魔法を使って身綺麗にし、プリシラの部屋のドアをノックした。
「プリシラさん、リリーです」
プリシラのメイドがドアを開ける。プリシラは夕食前のティータイムだったようだ。
「あら、どうしたのリリー?」
「セオドアさんから、新入生名簿って貰ってませんか?顔と名前を覚えるのに欲しくて...できたら平民だけじゃなくて貴族の方も載っているものがいいんですけど...」
「そういえばそうね、私たちの学年のものは持っているけれど...リリーのものを貰わないといけないわね」
「休みの間に名前を覚えておきたいんです...」
「急いで持ってきてもらうわね」
「ありがとうございます、お邪魔しました」
「いいのよ。そうだ、リリーの荷物はかなり少なかったようだし、明日街にお買い物にいかない?いつも息抜きに街歩きしているの」
「私でよければぜひ」
「ふふ、楽しみだわ」
自分の部屋に戻り、ようやく一息ついた。
ゴードンの事、レイモンドの事、プリシラの事...いろいろ考えていたら魔法を使ったわけでもないのに眠たくなってきた。
(今日はもういいや、明日がんばろ...)
リリーは睡魔に身を委ねた。




