魔法実験1
時は少し遡る。入学初日、実習で偶然持って帰ってきた鉱石を眺めて、ふと考えた。
セオドアとの契約では宝石魔法を入学まで使ってはならない。
だがそもそもリリーは宝石を使ってどのように魔法を使うのかなど分からない。宝石魔法と言われるくらいであれば、「宝石」を使って魔法を使うのであろう。
では「宝石」になる前の「鉱石」なら?鉱石でも魔法が使えるのであれば、それは宝石魔法でなく鉱石魔法になるはずだ。
宝石魔法が使えるのはみな貴族。そもそも鉱石を使おうという発想が出てこないだろう。まず自分の持つ色と同じ鉱石なんてあまりない。奇しくもリリーは黒。鉱石はほとんど黒ずんでいる。
庇護してくれる家族もおらず、自由に使える金銭もほとんどない。持っているものは何でも使って生き残らねばならない。契約の穴をついて、リリーは宝石魔法の変わりに鉱石魔法を開発実験をすることにした。
まずリリーが考えたのは、整容だ。冷めきった使用人風呂に入るのは嫌だが、汗でベトベトの身体で寝るのはもっと嫌だった。髪は砂で汚れ、黒髪は焦げ茶のような髪色に見えている。髪に関しては、綺麗にしすぎると逆に色が目立ってしまうので、砂か着いた状態で汗だけ落としたい。いきなりそんな応用編は難しいだろうと思い、まずは身体を清める魔法を開発したかった。
ポケットにあった鉱石をとりあえず握りしめてみる。風呂上がりのさっぱりとした状態を思い浮かべながら力を込めてみた。何か呪文みたいに言った方がいいのかもしれない。
「整容」
何も起こらなかった。ほうきに跨ってジャンプした後みたいな、気まずい恥ずかしさがある。1人部屋で本当に良かった。
宝石魔法使いはどのように魔法を使うのだろうか。ドラ紐の形状を考えると、石を手にしている事が大事なのだろうが...。
握りしめずに掌に乗せた状態で、同じようにしてみた。
「整容」
鉱石は変わらず掌に鎮座している。
魔法を使うと宝石はどうなるのだろう。ドラ紐を持ち歩くという事は、魔法を使う度に宝石は砕けるのだろうか。セオドアは確か発現者が見つかったのは粒子がどうとか言っていた。
転生小説みたいに簡単に魔法が使える訳ではなく、リリーは出鼻をくじかれた。
こういう時は闇雲に試すより、仮説をたてて検証する方がいい。いったん今までの推測を整理しよう。
魔法を使うにはは宝石が必要とされる。
ドラ紐の性質から、魔法を使う時には宝石を手に持っている必要がある。
魔法使いは宝石を持ち歩くという事は、魔法を使うと宝石は砕け散る可能性が高い。
「衝撃でも与えてみる?」
左掌の上に鉱石を乗せ、右手の親指と中指ではじくように飛ばす。
「整容」
鉱石は窓の近くまで飛んでいき、月明かりを受け鈍く光った。と思うと、パキッと音をたて鉱石は粉々に砕け散る。
「使えた...!」
風呂上がりをイメージしたからか、身体だけでなく髪もスッキリさっぱりしている。なんなら服も綺麗になっている。
嬉しい誤算だ。髪はどうせ実習ですぐに汚れる。何だか急に眠たくなったリリーはそのままベッドに潜り込んだ。




