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鉱石学校採掘課程 2

授業2日目の昼休憩、実習へ向かおうと身支度をしているリリーの元に、見慣れぬ男が近づいてきた。


鉱石学校では珍しい、男性にしては少し長めの茶髪だ。茶色と言うか黄土色と言うべきか。前髪をセンター分けしている。タレ目つり眉で少し甘い印象をもたれかねない顔立ちだが、全体的にガッシリしていて精悍な美丈夫という出で立ちである。身長もかなり高い。圧がすごい。


他の学生達とは目はあわないが、遠巻きに皆こちらに意識を向けている。リリーが浮いているというのもあるが、この男の動きが気になるようだ。


「なぁ、おい」

「僕ですか?」

「お前は貴族なのか?」

「いえ、平民です」


正確には孤児だが。


「なんだ、貴族寮に帰るから貴族のガキなのかと思ってた」


身代金目的ならこんなに堂々と来ないよな…?と思いながら

「はぁ」

と適当な相槌をうつ。


「お前意外に根性あるじゃねえか、昨日驚いた」


出会い頭に褒められて面食らう。


「昨日?」

「実習だ、泥水すするお前を見てた」

「あぁ…」

「新入生の洗礼なんだ、川の水を飲むか、我慢するか、金を払って上級生に水を貰うか」


悔しい記憶が蘇り、リリーは顔を顰めた。


「そうなんですね」

「今年の平民はだいたい60人、川の水を飲んだのはお前1人だ。我慢したやつと金を払ったやつは半々だな」

内訳を嬉々として話す彼は上級生なのだろう。


「毎年、川の水を飲むやつがいるかどうかで賭けるんだ」

「なるほど」

「俺だけが”飲むやつがいる”に賭けた。お前のお陰で儲かったぜ」

話が見えてきた。リリーのお陰で臨時収入が転がりこんだらしい。儲けの一部を分けて欲しいものだ。


「それは良かった」

「なかなかの味だよな、俺も去年飲んだ」

「そうだったんですか?えっと...」

「俺はレイモンド、お前の1つ上の学年だ。歳はだいぶ上だけどな。お前は?」

「リ、リロ」


あやうくリリーと言いかけ、慌てて男の子と思える名前を名乗る。


「リロ、何か奢ってやるよ。何が欲しい?」


軽口を叩くようなノリで会話しているが、細められたタレ目の奥はリリーを見定めようとしているように見えた。貴族寮に出入りする平民、出費せずに給水する判断、6歳で鉱石学校に入学する状況。どれか1つでも目立つのだ、怪しまれるのは当然だ。


彼を納得させられるストーリーを考えながら、リリーは答えた。


「レイモンド先輩」

「なんだ」


回答したつもりが、呼びかけたと思われた。慌てて説明を続ける。


「あ、えっと...先輩にメンターになって欲しいです」

「メンターってなんだ?」

「師匠というか...あ、兄貴分かな。僕は奇特な雇い主の指示でここに入学したんですけど、雇い主はここの課程についてよく知らなくて。相談できる相手が欲しいんです。」


これで”リロは平民だが貴族に雇われていて、おそらくは従者として貴族寮に出入りしている。雇い主は6歳のリロを鉱石学校に入れたが、リロ本人には自由に使える金はない”と思われた筈だ。これでプリシラと一緒に居ても変に思われないだろうし、嘘は言っていない。雇い主...もとい契約相手が文部省の役人なだけだ。


レイモンドはリリーの答えが意外だったようで瞬きを数回した。虚をつかれたような表情は少し幼く見える。アラサーかと思ったが、意外と24歳くらいなのかもしれない。


「はは!いいぜお兄様になってやるよ」

「ありがとうございます。じゃあ兄さんって呼ばせて貰おうかな」


笑うと八重歯がのぞき、何だか可愛らしい。これは圧倒的陽キャ、人たらしと見える。それでいて商魂たくましいというか、交渉上手そうだ。去年川の水を飲んでいるということは、レイモンドのお陰で賭けに買った先輩がいるはずだ。


「兄さんは去年何を貰ったんですか?」

「2年分の昼飯だ」


なるほど。先輩から奢って貰えるとしても平民であれば最長2年だもんな...昼食を一緒にとるとなれば、世間話で情報も集まるし上級生にも顔が売れるしさすがだ。他の学生達が同行を伺うわけだ。食費を浮かせながらの一石二鳥はさすがである。毎食にせず、お昼だけにする事でタカっている印象も薄れ、顔が広い新入生に見える所も上手い。


レイモンドと師弟関係になれたのは、なかなか上出来かもしれない。革製の水筒とか賭けの儲けの10%とか即物的な要求にしなくて本当に良かった。プリシラは採掘課程の情報をほとんど持っていない。レイモンドからもたらされる情報が生命線になるだろう。


リリーが小さい身体でうんうん考えていると、レイモンドがお兄様からの助言な、と話しだした。


「今週は昨日みたいな運搬作業だと思うぜ。でももしかしたらお前は別の作業になるかもな」


それだけ言うと、ヒラリと手を振って去っていった。


実習は一緒には行かないんだな、と思ったが、上級生も人によって労働の種類が違うのかもしれない。滞っていた準備を終え、リリーはそそくさと実習という名の労働へ向かった。

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