プロローグ
泥水をすすって、地を這いつくばって何とか入学した魔法学校。
リリーは、青い瞳に見下されながら罵られていた。
「怠惰にも程があるな。よっぽど家畜の方が価値があるんじゃないか?」
相手は恐らく同じく新入生だろうか。リリーと同じ白い花を胸元に飾っている。信じたくないが、この学校はクラスは1つしかないらしい。必然的に同級生という事になる。
この10年、大人に混ざり労働という労働を重ねてきたリリーは、こういう時にしおらしく黙って涙を流すような女では無かった。
「は?」
「自分の宝石魔法を使った事のないやつなんてお前しかいないぞ、庶民は呑気で羨ましい限りだ」
ざっと相手のみなりを見る。ブルーグレーの艶のある髪。サファイアのような深い青い瞳。切長な眦は知的な印象を受けるが、今は発言もあいまって底意地が悪そうに見えていた。手足は長く、学校指定のネイビーのブレザーが嫌味なほど似合っている。爪は切りそろえられ、手にはペンダコはあるが、剣を振り回してきたような印象はない。
労働を知らない手だ。飢える事を知らないからそんな事が言える。
「お貴族のおぼっちゃまは自分で食い扶持も稼げないのに偉そうにできていいわね。穀潰しを育てる親の顔が見てみたいわ」
麗しの美青年は一瞬虚をつかれたようにポカンとし、その後みるみるうちに顔色が変わった。青筋をたてているのが分かる。庶民風情に反論されると思っていなかったのだろう。
10年前ならまだしも、リリーにとっておぼっちゃまの癇癪など知った事ではない。この10年、必死になって働いてなんとか掴んだ魔法学校の入学なのだ。
(長かった…)
リリーは10年前のあの日を思い出していた。