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第4話 あっさりバレました?!

「エリシア、昨晩は何かあったのか?」

「んんっ?! いえ、何もありませんが……。何か?」


 エリシアが正義の味方としての第一歩を踏み出した翌日、朝食の席でゴルドーが急に話を切り出してきた。思わず口に含んでいた食べ物で咽そうになるのを堪えつつ、平静を装って聞き返す。


「それが、ワシの大事なモノの入った箱があるだろう? あの中身が使われた形跡があるんだけど……」

「そ、それは……。ど、泥棒にでも入られたのではありませんか?」


 ゴルドーの話を聞いて、エリシアの背中にはダラダラと冷や汗が流れていた。暑くもないのに背中がぐっしょりと濡れていて気分が悪いが、それを気取られまいと努めて冷静に答える。


 昨晩、帰ってきてから衣装は丁寧に畳んで箱にしまっておいた。そのため、後から調べてもエリシアが借りたことに気付かれることはないだろう。しかし、ゴルドーは確信を得ているようにエリシアの方を見ながら話を続ける。


「うーん、泥棒かぁ……。だとしたら、よっぽど可愛い泥棒さんだったのかもしれないねぇ……」

「それはどういうことですか? お父様」


 わざとらしく、可愛い泥棒などという表現をしたことに違和感を感じつつも、エリシアは奇異な言い回しに思わず食い付いてしまう。ゴルドーは待ってましたとばかりにニヤリと笑った。その笑みに彼女はゾクリと背筋が寒くなるのを感じて身を震わせる。


「今朝、箱の中を見たら中身が全部小さくなっていたんだよ。何でだろうね?」

「さ、さぁ。私には分かりませんわ」


 ニヤニヤと余裕のある笑みを浮かべるゴルドーが、エリシアにとっては腹立たしくてしょうがない。明らかに知っていて、彼女に自白させる意図であることがありありと見て取れる。


「でも、エリシアが使うならあげてもいいけど? ワシでは小さすぎて使えんからな」

「何を言っているんですの。大事なモノではないんですの?」

「大事でも使えなかったら、宝の持ち腐れだろう?」

「ぐぬぬ……。お父様の大事って言うのは、その程度のものだったのですのね。失望しましたわ!」


 分かりきっていることを、ゴルドーは外堀を埋めるように話してくる。いかにも残念そうな表情をしながら、しかし、彼の口は明らかに笑っている。


 エリシアをハメようと手を変え品を変えて作り話を聞かせてくるゴルドーに、エリシアは我慢の限界を超えそうになるのを必死で耐えていた。


「そうは言うけど、悪いのは可愛い泥棒さんだよ。ワシが悪いわけじゃないからなぁ……」

「そんなことありませんわ! そもそも、あの衣装はサイズが自動的に調整されるじゃ――あっ!」


 とうとうゴルドーは『可愛い泥棒さん』が全て悪いと言い放つ。正義の味方に夢見るエリシアにとって大きな侮辱。耐えきれなくなった彼女は、ついに当事者しかしらないことを口走ってしまった。


 気付いて慌てて口を塞いだけど、時すでに遅し。ゴルドーは勝ち誇った笑顔でエリシアを見つめていた。


「やっぱり、エリシアだったんだね」

「す、すみません。お父様……」


 バレてしまった以上、エリシアに取れる手は素直に謝る以外にはない。怒られるかと思って身を竦めていた彼女だったが、ゴルドーは彼女の頭に優しく手を乗せるだけだった。


「別に悪用はしていないんだろ?」

「は、はい。正義の味方に憧れていて、お父様を偶然見つけて、出来心で……」

「正義の味方、か……」


 ゴルドーは、そうつぶやくと、フッと微かに笑う。その瞳はどこか遠くを見つめているように、エリシアには感じられた。


「まるでお前の母親のようなことを言うのだな。血は争えんと言うことか」

「え、それって一体……?」

「あの衣装はお前の母親であるフェリシアが使っていたものだ――タキシード以外はな」

「なっ……!」


 エリシアは初めて聞かされた衝撃の事実に、あからさまに動揺の色を見せる。そんな彼女の様子を無視して、ゴルドーは過去を懐かしむように語り出した。


「結婚した当初は、彼女がそんな人間だとは全く知らなかったのだ。最初は夜中に家を出て帰ってくる彼女に浮気を疑っていたが、蓋を開けてみればワシの疑惑など霞むような事実だったのだ」

「……」

「令嬢仮面フェリィの話は聞いたことあるか?」


 ゴルドーの問いかけにエリシアは静かにうなずいた。その二つ名はおとぎ話で語られる正義の味方。今の彼女の正義の味方に対する憧れは、前世の記憶によるものと、令嬢仮面フェリィによるものが半々と言ったところだった。


「まあ、おとぎ話だと思っているのだろうけど、あれのモデルがフェリシアなのだよ。最後はおとぎ話と同様、悪との戦いで命を落とすことになったのだ」

「……ということは、私は正義の味方の血を引いていると?」

「そうだ。エリシアには普通の人生を送って欲しかったのだが……。こうなってしまった以上は、ワシも全力で協力させてもらう。フェリシアの二の舞にはさせん!」


 ゴルドーは愛する妻に続いて娘も同じように失うことは絶対にさせまい、とフェリシアを失った時に決意していた。その情熱が、エリシアの決断によって再び燃え上がる。


「まずは、昨日の格好を再現しよう」


 彼の一言で、エリシアは再び怪盗淑女エリィへと姿を変える。その衣装を元に魔道具を作るように依頼して終了した。製作には一週間ほどかかるようで、エリシアはゴルドーと共に、長くて短い一週間を過ごした。


「エリシア、魔道具が届いたぞ!」

「えっと……、これは?」


 期待に胸を膨らませて、父の書斎へとやってきたエリシアは、渡された腕輪を見て固まった。衣装を一式作ってもらえると思ったのが、腕輪一つでは落胆もするというもの。意気消沈して父親に訊ねると、とりあえず付けてみるように言われる。


「付けてみましたけど……。どう見ても、何の変哲もない腕輪ですわ」

「まあまあ、その腕輪を高く掲げて『くるくるみらくるくるりんぱ』と唱えるのだ!」


 あまりにも恥ずかしすぎる合言葉にエリシアは思わず絶句する。しかし、父であるゴルドーは大まじめに合言葉を唱えたおかげで、できないとは言えなくなってしまった。


「くるくる、みらくる、くるりん、ぱ……」


 恥ずかしさを押し殺して、エリシアは合言葉を唱える。彼女の体が光に包まれ、その光が消えた後には、先日とまったく同じ衣装になっていた。


「うそっ、これはどういうことなの?」

「はっはっは、最新の魔道具技術を取り入れてもらったのだよ。合言葉一つで、服装を変えられるようになるのだよ」

「ところで、合言葉はどうやって決めたのでしょうか?」

「もちろん、ワシが一晩考えて決めたに決まっているだろうが。いやはや、苦労したんだぞ……。おい、何をするつもりだ!」


 エリシアは恥ずかしい合言葉を決めた諸悪の根源であるゴルドーを、手始めに成敗することにした。


この作品を読んでいただきありがとうございます。

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