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第3話 助けた少女は……

別作品の追い込みで執筆が遅れておりました。次回からは、もう少し早い頻度で更新できる予定です!

 声の主は意外なほどあっさりと見つけられた。十歳くらいの少女が酔っぱらった男二人に絡まれていて、彼女は何かに耐えるように両手の拳を握り締めて俯いている。


 平民らしく服装は地味な色のブラウスとスカートの組み合わせだが、金色の髪は平民とは思えないほど艶があり滑らか、蒼い瞳の目はパッチリと大きく、唇はふっくらとしていて、かなりの美少女だった。


「さすがに見てられませんわ。今、助けに行きます!」


 エリシアは猛スピードで少女を庇うように、男たちの手を払い立ちふさがる。


「やめなさい。このロリコンども!」

「ああん? 失礼なヤツだな。邪魔すんなよ!」


 男の一人が、怒鳴りながらエリシアを押し退けようと手を出す。


「やあっ!」


 エリシアは男の腕を取り、そのまま勢いよく地面に投げ落とす。気絶してピクリとも動かなくなった男に、もう人の男が駆け寄る。


「おい、大丈夫か、ナッパ! お前、ナニモンだ?!」

「私は怪盗淑女エリィ! 嫌がる幼気な美少女に絡む男を成敗するためにきましたわ!」

「淑女……? 幼気……?」


 エリシアが名乗りを上げると、男ではなく背後にいる少女のつぶやきが聞こえた。チラリと彼女が後ろを伺うと、不思議そうに指を唇に当てて首を傾げている。


「どう見ても淑女には……。むしろ、そちらの方が幼気っていうか、まんま幼女……」


 少女のつぶやきを耳にしたエリシアの背中から、滝のような冷や汗が流れ落ちる。


「まずいですわ。これは非常にまずいですわ……」

「おい、何ブツブツ言ってやがんでぇっ!?」

「とりあえず、寝ててくださいまし!」


 焦りのあまり、心の声がつぶやきとして漏れているエリシアに男が凄む。一瞬だけ我に返った彼女は、半ば反射的に男の顎に強烈なアッパーカットをお見舞いした。きれいな弧を描いて吹き飛ぶ男に少女は目を丸くして驚いていた。


「とりあえず、こちらに来てくださいまし!」


 少女の身体を両腕で抱きかかえると、エリシアは人通りの少ない路地裏の方へと走り出した。人通りのないことを確認して、大きく息を吐くと抱えていた少女の体を地面に下ろした。


「クスクス。こんなところに連れ込んで、何をするつもりなんですかぁ?」

「あ、いや……。誤解です、何もしません! それより、何で私の正体がわかるんですか?!」

「正体って……。ごっこ遊びは良いけど、こんな真夜中にするのは、お姉さんも感心しないなぁ。子供は寝る時間だよ?」


 少女の視線が明らかにエリシアを子供扱いしていることで、認識阻害が効いていないことを確信する。しかしながら、エリシアから見れば少女も十分子供に見えるため、子供扱いされることが腹立たしかった。


「そういう、あなたも十分子供ではありませんか!」

「何を言っているの。成人したばかりだけど、私は十分お姉さんだよ。胸だって最近は大きく――」

「何を言っているんですの? 平坦ではありませんか」

「……」

「……」


 なおも、お姉さん風を吹かせる少女に、エリシアは見たままを指摘したところ、少女の表情が凍り付いた。外の喧騒とは対照的に、お互いに喋らない沈黙の時間がしばらく続く。


 その間も、少女はうつむき加減になって手をモジモジさせている。時折、チラチラとエリシアの方を見る姿すらも絵になっていて羨ましい。


「……えっと、もしかして私がお姉さんに見えない?」

「ええ、私と同じくらい――」

「いやいや。私だって、こんなちんちくりんじゃ――」


 少女にとって正直な感想。しかし何かに気付いたのか、少女はハッとした表情を浮かべると慌てて口を両手で塞いだ。


「まあ、いいでしょう。とりあえず、助けていただいて感謝いたします」


 そう言って少女は優雅にお辞儀をする。しかし、彼女の所作の優雅さからは、貴族のような高貴な雰囲気がダダ漏れだった。


「いえいえ、気を付けて帰ってくださいね。それではッッ!」

「……」


 認識阻害の効いていない者同士、長く顔を合わせることは危険だとの認識に二人同時に行きついた。二人の間に何とも言えない気まずい空気が流れる。耐えきれなくなったエリシアは、ぎこちない笑みで感謝に応えると、屋根の上に飛び乗り、少女の前から立ち去った。


「行ってしまわれましたわ。お兄様」


 エリシアの気配が完全に離れた頃合いを見計らって、少女は裏路地の方へと声をかける。


「まったく、お転婆な姫様は油断しすぎだよ。アイシャ」

「いつものことですわ。それに、あの程度の輩など相手になりません、とお兄様はご存知ですよね?」

「当たり前じゃないか。アイシャについて僕が知らないことなんて、そんな無いからね」


 肩を竦めながら、揶揄うように妹であるアイシャに話すクラウスの態度に、毎度のことながら彼女は半眼で睨みつける。それなりに怒気を込めているにも関わらず、ヘラヘラと危機感のない笑みを浮かべるクラウスの様子に大きくため息をついた。


「はああ……。いい加減、お兄様も妹離れしていただきませんと。ランドール王国の第一王子なんですからね?」


 第一王子であるクラウス・フォン・ランドールはアイシャの憂慮など、どこ吹く風。表情を崩すことなく、冗談めいた風を装って答える。


「もちろん知ってるさ。でも、なかなか面白い人がいないんだよね」

「そんな基準で人を選んでいること自体がふざけていると言っているんですよ」

「まあでも、大丈夫だよ。さっきの子、僕から見ても面白そうだったしね」

「はあ……。何を言っても無駄でしょうけど。あの子にちょっかい出したらヤケドするのはお兄様の方ですよ」


 先ほどの幼女が、珍しくクラウスのお眼鏡に適ったことに、アイシャとしては複雑な気分だった。クラウスは面白いと思った人間は何としても手に入れようとする。そのしつこさはアイシャから見ても辟易するほどだった。


「まあ、貴族令嬢だとは思いますが、お兄様に目を付けられた以上は耐えていただくしかありませんわね……」

「酷いなぁ。僕だって、そこまで鬼じゃないからね!」


 クラウスの裏の顔を知っているアイシャに言っても無駄な事だが、彼はおどけたように後頭部を掻きながら、相も変わらず軽薄な笑みを浮かべていた。


「それよりも、新しい婚約者候補が決まったみたいですわよ」

「エリシア・ファーレンハイト公爵令嬢だよね。さっきの子を見た後だと、あまり興味はないけど……」

「ダメですよ、会わないで断るなんてしたら。お父様のメンツをつぶすことになるんですからね!」

「はいはーい、大丈夫だよ。会ってから断るからね」

「まったくもう……」


 いつもと変わらない軽薄な態度に、アイシャも呆れるしかない。それでいて、クラウスは天才だの麒麟児だのと呼ばれるほどに優秀だから、彼女としては余計に腹立たしく感じるのだった。


この作品を読んでいただきありがとうございます。

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