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第20話 試し切りは基本です!

 王都の近くにある森。木々が乱雑に立ち並び、鬱蒼として木漏れ日が苔むした岩を照らす神秘的な世界が広がっていた。


「ここならお試しにはちょうどいいですわね」


 森の中で見かけるのは鹿や狼、それと奥の方で稀に熊を見かけるくらいの平和な場所だ。さっそく変身して森の中を駆ける。父の言っていた通り、敏捷性が上がっているらしく、足場の悪い森の中でも難なく走れていた。


「性能を測るなら、やはり狙い目は熊ですわね。生身では危険ですが、この衣装があれば何とかなるでしょう」


 獲物となる熊を求めて、エリシアは森の奥へと進んでいく。


「どうやら気配を察知されにくくなっているようですわ」


 元の衣装に付いている認識阻害は、あくまでエリシアをエリシアとして認識されるのを阻害するためのもの。しかし、ブラックキャットカスタムパーツによる気配遮断は、存在自体を隠匿する効果があるようで、感覚の鋭い鹿の真横に立っても気取られることはなかった。


 ――流石に触れるとバレてしまうが。


「おっと、見つけましたわ!」


 エリシアの視線の先にいるのはエリシアの三倍はあろうかという大きさの巨大な熊だった。褐色の毛皮に覆われた巨体は、生身の人間であれば突進をかすっただけでも致命傷になるだろう。


「先手必勝ですわ!」


 熊の右手側から猫パンチを放つ。いくら強化されているとはいえ、相手は熊。丈夫な毛皮は銃弾すら弾いてしまうため、手加減一切なしの全力の一撃を放つ。


「あれ?!」


 エリシアの右拳に触れた熊の身体が大きく抉れる。彼女の存在に気付いた熊が、雄叫びを上げながら仁王立ちになって襲い掛かってくる。


「くっ、負けませんわ!」


 今度は爪を伸ばして熊の首筋を狙う。スパッという風切り音と共に、熊の首があっさりと切断された。血を吹き出しながら、ゴロンと熊の首が転がってエリシアの足元にやってくる。同時にドーンという大きな音と共に熊の巨体が仰向けに倒れた。


「こ、これは……。殺意が高すぎではありませんこと?!」


 驚き慄くエリシアだが、原因は彼女の魔力の高さによるものだった。ヤバすぎる威力の原因を突き止め、適切な威力に抑えられるようになるまで、さらに数頭のクマが犠牲になった。


「や、やり過ぎてしまいましたわ」


 目の前に死屍累々となった熊を見て、エリシアは呆然とする。凶暴な熊とて森の生態系の一つ。たった数頭とはいえ、生態系に及ぼす影響は少なくないだろう。しかし放置しておくわけにもいかず、エリシアは木に絡みついたツタを引きはがし、簡易的なロープを作って熊を縛り付けた。


 ズルズルと引きずって、王都の冒険者ギルドへと向かう。


「な、何だ?! 止まれ!」


 何頭もの熊の死体が引きずられていれば、さすがに気配遮断しても効果はないらしく。王都の門番を務める衛兵に引き留められた。


「少しだけ眠っていてもらいますわ」


 ステッキを持ち、衛兵の頭にフルスイングして意識を刈り取る。死なない程度の回復魔法を掛けて、ふたたび王都の街をエリシアは熊の死体を引きずりながら進んでいく。


 夜明け前の王都は人通りも少なく、すれ違う人はまばらで連なった熊の死体を見て驚きはするものの、衛兵に通報するより関わり合いになりたくないという意識が強いらしく、脇に避けて通り過ぎるのを待つ人ばかりなのは彼女にとって幸運だった。


「やっと着きましたわ」

「わわっ、な、なんだこれは……」


 やっとの思いで到着した冒険者ギルド。朝早いにも関わらず、職員が中から飛び出してきて、熊の死体に腰を抜かしていた。


「えっと、買い取りをお願いしたのですが……」

「えっ、お嬢ちゃんがこれを? ホントに?!」


 エリシアが職員に買取をお願いしたところ、露骨に疑われてしまった。外見が六歳児ということもあって仕方ない部分はあるが、他に該当する人間がいないことから、職員の人も何とか受け入れてくれた。


「褐色熊が六頭。擦過傷があるけど状態は悪くないから……。こんなものでどうだい?」

「問題ありませんわ。お願いします」


 提示された金額は予想よりもだいぶ高かった。ほぼ瞬殺したことから、毛皮の損傷が少なかったことが大きい。


 ほくほく顔で家に帰ろうと通りを歩いていると、近くにいた人の話し声が耳に入ってきた。


「そういえば、最近、あちこちの店が潰れているよな」

「そうそう、あそこの通りにあったパン屋も潰れちまったしな」

「その後にできたのが、何で鍛冶屋なんだ?」

「っていうか、そもそも鍛冶屋多すぎじゃないか? 王都でも何軒あるんだよって」


 鍛冶屋は日用品の修理でもお世話になることがあるが、そこまで需要が多いわけではない。基本的に鍛冶屋が扱うのは武器や防具などの戦いに使うもの。それが王都だけで何軒もあるというのは不自然な話だった。


「しかも、ほとんどがここ一ヶ月でできた店ばかりだぜ」

「もしかしたら戦争でも起こすつもりかな?」

「ありうるな。ウインドミル商会というところが仕切っているみたいだが」

「聞いたことないな」

「ああ、商会自体が新しく出来たらしい。しかも、全部鍛冶屋らしいからな。どうやって利益を上げているのか謎らしいんだ」


 男達の話を聞きながら、エリシアはさりげなく物陰に身を隠す。話を聞くかぎり、ウインドミル商会が何かを仕掛けようとしているのではないかという結論だった。


「ふぅん、具体的に何をしようとしているかは分からないって感じね。でも、鍛冶屋ばかりだから、王国がどこかと戦争をして武器が必要になる。そう思われているってことね」


 エリシアは重要な情報も手に入れたことで、満足そうな笑顔で自宅へと帰っていった。当然、彼女が夜中に外に行ったという情報はゴルドーの耳にも入っていて、家に着いた途端に書斎へと連れていかれた。

この作品を読んでいただきありがとうございます。

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