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第19話 王宮からの呼び出しですか?

 クラウスとのひと悶着があった翌日、エリシアは何故か王宮へと呼び出された。そこにはクラウスを除いた国王と王妃、アベル第二王子とレイフォン公爵が彼女を見下ろすような形で出迎える。


「ファーレンハイト公爵家、エリシア、陛下の御前に参りました」

「楽にするがよい、エリシア嬢よ」


 エリシアは跪いた姿勢から、立ち上がって国王を見つめる。アベルとレイフォン公爵は、お腹が急降下しているのか、顔をしかめて汗をかいていた。


「知っているかと思うが、先日の夜会で料理に毒が盛られたそうだ」

「そうみたいですね。それが何か?」

「現場で何か気付いたことがないかと思ってな」

「特にありませんが……」


 エリシアの答えに、アベルとレイフォン公爵は露骨に表情を歪ませて睨みつけてくる。


「そうか……。ところで途中、席を外していたようだが、何をしていたのだろうか?」

「婚約者のクラウス殿下が調子を崩されましたので、看病しておりました。ご存知の通り、しばらく横になる必要がありましたが、今は問題ありません」


 その言葉にレイフォン公爵だけが忌々し気にエリシアを見つめてくる。それとは別に、国王が何かを見定めるようにジッと彼女の目を見ていた。


「どうやら嘘はないようじゃな。アベルにレイフォン公爵よ、これで満足か?」


 当然ながらエリシアの言葉に嘘はない。毒によって調子を崩したのはことも、最初に看病したのがエリシアであることも、数時間立ち上がれない状態だったので横になる必要があったことも、現時点で問題がないことも、全てが真実なので、国王でも嘘だということはできなかった。


「そんなことはありません! 毒を盛ったと思われる『幼女仮面』はエリシア嬢だと見ております!」

「ふむ、それなら尋ねるが、エリシア嬢は幼女仮面なのか?」

「いえ、違います」


 ふたたび国王にジッと見つめられる。自信があるのか、嘘だと看破されるだろうとレイフォン公爵がニヤニヤしながらエリシアを見つめていた。


「嘘ではないようじゃ」

「バカな! そんなはずはありません!」

「貴様はワシの目を疑うと言うのか?」


 期待外れだった国王の目を疑ったことで、レイフォン公爵は国王に責められ始めた。エリシアにとって、あの姿は『殲滅大使エリィ』であって、『幼女仮面』などというふざけた名前ではない。


 現場でわざわざ名乗ったのに、それを無視したレイフォン公爵に同情する気持ちはエリシアには一切ない。


「用がお済みでしたら帰りますわ」

「おい、待て! 絶対お前は幼女仮面だろう! どんな手を使ったか知らんが、騙されんからな!」


 喚き散らすレイフォン公爵を無視して、エリシアは謁見の間から退室した。彼が呼び方を間違えていたとはいえ、エリシアの正体を知っていたことは間違いない。


「公爵自身が気付いたとは考えにくい。裏に手練れの人間がいるのだろうな」


 エリシアの正体に気付ける人間がいることも厄介ではあるが、それ以上にレイフォン公爵がエリシアを幼女仮面だと思い込んでいることだろう。復讐のために、エリシアに危害を加えようとする可能性があることが何よりも問題だった。


「もともと、あの衣装も戦闘向けではないのですよね」


 変身しなければ諜報員としての技術を多少使える程度の幼女でしかない。かと言って、変身したところで身体能力は上がるが、戦闘能力に関しては心許ない。


 巻き込まれたときに、ある程度の対処ができるようにする必要があった。


「仕方ありません。お父様に相談するとしましょう」


 エリシアは王宮から帰ると、すぐにゴルドーの下へ向かった。


「そろそろ来ると思っていたよ――」

「一体どういうことですの?!」


 書斎の椅子に座っていたゴルドーは、両肘を机に付けて、手を顔の前で組んでいた。彼の掛けているメガネがキラリと光り、まっすぐにエリシアの姿を捉えていた。


「ふ、俺も単に指を咥えて見ていただけではないということさ。力が、戦うための力が必要なのだろう?」


 どういう理屈か、エリシアには皆目見当が付かないが、彼の言葉や感情の昂りに合わせて、メガネがキラリと光っていた。


「な、何かあると仰るのですか?!」

「もちろん、時には強大な悪と戦わないといけないからね。あの衣装には、いくつかのカスタムパーツが用意されているんだ」


 話を聞いた時のエリシアの驚きはかなりのもの。叩きつけるような勢いで、机に両手をつく。熱くなり過ぎた彼女をなだめるように、ゴルドーは両手を広げて胸の前に持ってくる。


「まあまあ、落ち着きなさい。カスタムパーツはあるが、今のエリィの実力で使いこなせるのは、これくらいだろう」


 そう言って、ゴルドーは机の上に漆黒の魔石を置いた。


「これはブラックキャットカスタムパーツだ。合言葉に続けてカスタムパーツ用の合言葉を唱えると、カスタムパーツが装着されるようになっている。さっそく使ってみたまえ」


 エリシアは魔石を腕輪に近づける。すると一瞬にして魔石がサラサラと崩れ落ち、黒いもやのようなものが腕輪へと吸い込まれていった。


「どうやら、成功のようだね。合言葉は『もう許さないニャン!』だ」

「もしかして、また、勝手に、お父様が、決めたのですかッッ?!」


 エリシアの怒気に圧されたゴルドーは、慌てて首を振る。


「いやいや、違うって。カスタムパーツはフェリシアの使っていたもの。合言葉も同じなんだ!」

「そ、そんなッッ!」


 よもや母親が、そんな恥ずかしい合言葉を使っていたと知らなかったエリシアは少なくないショックを受ける。しかし、せっかく手に入れた力を使わないわけにはいかないだろう。


 意を決したエリシアは合言葉を唱え始めた。


「くるくるみらくるくるりんぱ! もう許さないニャン!」


 合言葉を唱え終わったエリシアの身体が光に包まれる。その光が消えた時、いつもと同じ衣装に身を包んだ彼女の姿があった。


「こ、これは……」


 エリシアが自分の両手をじっと見つめる。そこには黒い毛皮に覆われた巨大な猫の手があった。


「なにこれ……」

「これがブラックキャットカスタムパーツだ。手足が猫のようになっていて、爪による引っかき攻撃が可能になる」


 それを聞いたエリシアは、自分の手を握ってみる。形こそ変わらないが、シャキンと長く鋭い爪が飛び出てきた。


「おおっ」

「それに耳と尻尾も付いているよ。こっちは飾りみたいなものと言っていたはず」


 エリシアが頭や腰に手を持っていくと、確かに柔らかい何かが手に当たる感触があった。飾りみたいなもの、というゴルドーの説明に反して、触られる感触があった。


「このカスタムパーツは敏捷性とバランス感覚を強化できるんだ。速度を重視する相手と相性がいい」

「ありがとうございます!」


 一通り説明を受けたエリシアはゴルドーにお礼を言って書斎を後にする。新しい武器を手に入れたらやることは一つしかない。


「さっそく試し斬りをしてこようっと!」


 エリシアはさっそく王都の近くにある森へと走り出した。


この作品を読んでいただきありがとうございます。

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