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第16話 決着です!

「ぐぬぬ!」


 マーベル侯爵が歯ぎしりしながらクラウスを睨みつける。裁判は原則無罪。盗んだことを証明する義務はマーベル侯爵側にあるからだ。実際にクラウスは侯爵邸に入っていないため、彼の言い分が通る可能性はない。


「何も情報なしは流石に僕も気が引けるからね。誰から買ったかくらいは教えてあげるよ」


 その言葉にマーベル侯爵だけでなくエリシアの目も驚きで大きく見開かれた。しかし、それも一瞬のこと。エリシアの鋭い視線がクラウスの身体を貫く勢いで注がれている。


 もちろん、共犯者であるエリシアを売るような真似は自滅行為でもあるため、しないだろうという最低限の信頼は彼女の中にもある。しかし、エリシアの中から湧き出る得体の知れない寒気に震えが止まらない。


「は、早く言え!」

「ふふふ、それはね……。『幼女仮面』から買ったんだよ」

「「「幼女、仮面……?」」」


 エリシアを除く、その場の全員が呆気に取られたように茫然とクラウスを見る。ただ一人エリシアだけが、激しく首を横に振っていた。


 しかし、全員の視線がクラウスに釘付けになっている今、エリシアの動きに気付いている人間は誰一人いない。


「そう、僕が確たる証拠が必要だと言ったら、一晩で持ってきてくれたんですよ。これをね」

「それは盗んできたのだろうが!」

「いいえ、僕はそれがどうやって手に入ったのかは感知してません。もしかしたら、ゴミの山から拾ってきたのかもしれませんからね」

「そ、そ、そんなワケがあるか! いい加減にしろ!」


 クラウスとマーベル侯爵の口論が激化すると思われた。その時、裁判官の一人がはっきりとした声で全員に告げる。


「やめなさい!」


 その一喝で、その場の全員が動きを止める。彼は全員を見回すと、一歩前に進み出た。


「まず、この証拠品が盗品かどうか、という点ですが、証拠がありませんので、盗品でないと推定します」

「そ、そんなっ!」


 マーベル侯爵は目に見えて狼狽しているが、証拠がないのだから当然とばかりに、裁判官は眉一つ動かさずに言葉を続ける。


「そして、この証拠品は裁判長と弁護人が結託している証拠として有力なもの。それだけでなく、弁護人が裁判所を掌握しようとしている動かぬ証拠です」

「い、異議あり!」

「異議は却下します。当然でしょう?」


 マーベル侯爵の苦し紛れの『異議あり』もあっさりと裁判官に却下される。チラリと裁判長の方に目配せするも、目を逸らすだけで一言も喋らない。証拠品からして結託していることは明らかである以上、喋ったところで墓穴を掘るだけだろう。


「この行いは司法の独立性という信頼を損なう大変由々しきもの。関係者は我々が責任をもって裁くと誓おう」

「頼むよ。僕たち王家としても、そうそう介入したいわけじゃないからね」


 マーベル侯爵と裁判長を引きずって、裁判官二人が第二法廷へと入っていった。


「さて、これで一件落着だね。僕たちも帰ろうか」

「最後まで見届けなくていいんですの?」

「さっきの話は聞いていただろう? あれは最悪の場合、王家が介入するということだからね。二人の証拠は隠滅しようがないから、罪状は確定している。これで不当に軽い罰だったら、王家が介入する正当な理由を作ることになるから、殊更厳しい罰になるだろう」


 それでもスッキリしない気分のまま、エリシアは家に帰った。翌日、裁判の結果について話があると、王宮に呼び出された。


「そ、それで……。結果はどうでしたの?」

「まあまあ、落ち着いてよ。ほら、紅茶とお菓子もあるから」


 紅茶とお菓子を勧めてくるクラウスだが、エリシアとしては、それよりも裁判の結果が聞きたくて仕方がない。その姿にクラウスが肩を竦めてから、一つずつ整理するように話し始めた。


「まず、裁判長だけど死刑だね。何しろ自分たちの権利を脅かすようなことをしでかしたのだから当然だろう」


 クラウスは涼しい顔をして紅茶に口をつける。エリシアも習うように口をつけるが、わずかに唇が震えていた。予想はしていたし、自分たちに非がないとしても、死刑と聞けば思うところはある。


「協力した係員は証拠隠滅によって、不当にボンボン子爵の刑罰が軽くなった。だから、彼らは本来求刑していた権利のはく奪と財産の没収が適用されることになった」

「でも、彼らは平民ではありませんか?」

「そう、だから平民としての権利と財産の没収――分かりやすく言えば奴隷落ちだね」

「なるほど……」


 軽い気持ちで協力した彼らにしてみれば、罰が重すぎると思うだろう。だが、結果を考えれば妥当。命があるだけでもマシというものだった。


「マーベル侯爵は爵位のはく奪の上、以後三代は爵位を与えられることがなくなった。合わせて、彼の親族の爵位も全てはく奪される。こちらは功績次第では爵位を取り戻すことも可能ではあるけどね――」


 そう言って、クラウスは言葉を濁す。親族含めて没落させた元凶が恨みを買わないはずがないからだ。それはエリシアも薄々気付いていて、近いうちにマーベル侯爵本人、場合によっては彼の妻や子供も殺されるだろう。


「最後のボンボン伯爵だが、彼は子爵をはく奪する代わりに騎士爵を与えることにした。もちろん、財産は全てはく奪したけどね」

「騎士爵ですか?」

「うん、それで魔の森の警備に当たってもらうことになったよ」


 それは実質的な爵位のはく奪。騎士爵は魔の森へ送るための口実に過ぎないことをエリシアは察した。


「それは実質、王国のために戦って死ねということですよね?」

「ふふふ、さすがエリシア。分かっているじゃないか」

「――分かりたくはありませんが、はあ」


 結果として関係者全員、陽の当たる場所から追放した形になり、アベル第二王子派閥の勢力を大きく削いだ。クラウスとしては勝手に自滅した彼らをほくそ笑んでいるに違いないと、エリシアは彼の意地の悪さを思い浮かべて、思わずため息が漏れる。


「あ、そうそう。今回の件の謝罪ってことで、アベル主催の夜会に招待されたんだよね。レイフォン公爵から。もちろん婚約者もどうぞって言われているけど……行くよね?」

「いやいや、明らかに罠ですわよね? 行きませんわよ!」


 どこからどう見ても罠という夜会に行くなど狂気の沙汰としかエリシアには思えず、慌てて拒否する。


「いくよね?」

「あー、これは『はい』と答えるまで無限ループするヤツだわ」


 繰り返される問いかけに、エリシアは思わずクラウスをジト目で見る。だが、その本人は涼しい顔で再び問いかけを繰り返した。


「いくよね?」

「あああ! 行きますわよ、行ってやりますわよ!」


 埒が明かないと判断したエリシアは、半ば投げやりに夜会の参加を決めるのだった。


この作品を読んでいただきありがとうございます。

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