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第13話 裁判ですが……証人ですか?

 アベルが退散してからは、婚約パーティーも滞りなく終えることができた。途中でウィスキアがさりげなく参加していたが、護衛にガチガチに囲まれていたので、何かしたくてもできなかったのだろう。


 パーティーが終わり、主役の二人のためにしつらえられた控室で向かい合ってソファに座りながら、エリシアはパーティーの様子を思い返していた。


「これで少しでも、あの時の苦しみを分かってくれるといいのですが……」


 エリシアとしては、ワイン騒動で指一本動かせない状態だった自分の苦痛を理解してくれることを願うばかりだ。クラウスの重すぎる感情はエリシアには耐えきれないので、ウィスキアを応援したい気持ちもある。


「何を考えているのか知らないけど、たぶん無駄だと思うよ?」

「その言い方、完璧にわかっておりますよね?!」


 愛されているのはひしひしと伝わってくるので、エリシアとしては悪い気はしないのだが、同時に息苦しさも感じていた。


 彼女としては正義の味方として、悪を成敗したいだけなのだが。


「そこで、キミに悪を成敗する機会をあげようと思うんだよ」

「……」


 何でわかるのか、という不満を視線に込めてエリシアはクラウスを睨みつける。しかし、それには答えずに話を続ける。


「それでボンボン子爵にとどめを刺して欲しいんだよね、法廷で」

「それは、まさか……。あの証人とは私のことだったのですの?!」


 驚いてソファから立ち上がり、クラウスを見下ろす。無言のまま笑顔で頷き、エリシアをソファに座らせると、おもむろに口を開いた。


「もちろんだよ。キミは平民じゃないし、実際に誘拐された被害者だからね」

「ですが、そんなことをしたら殲滅大使エリィの正体が……」

「大丈夫だよ。幼女仮面は別人でしょ?」

「……そうですわね。幼女仮面なる者は私ではありませんわ」


 顔をプイっと背けて答えると、クラウスはクツクツと可笑しそうに笑う。エリシアとしては幼女仮面を受け入れたわけではないので、素直にうなずけない所がもどかしい。


「それじゃあ問題ないね。よろしく頼んだよ」


 クラウスはエリシアの返事を待たずに出ていってしまった。


 やってきた公判の日。朝からエリシアはクラウスの従者に捕まって身支度を整えさせられていた。身支度と言っても、キラキラした貴族のような格好ではなく、攫われたときに着ていたような質素な平民の格好である。


 屋敷の前に停められた質素な馬車に乗り裁判所に向かう。平民が馬車に乗っていること自体、普通ではありえないことだが、今回は証人の保護という大義名分があるため問題ない。


「えっと、クラウス殿下から証言をするように言われてきましたエリィと申します」

「はっ、少々お待ちください」


 馬車の中で待機していると、マーベル侯爵の使いがやってきた。


「証言台に立つ前に、一言忠告させていただきます。くれぐれも、ボンボン子爵の不利になるような偽証はなさらぬようにお願いいたします。もしされますと、ご家族の方にも迷惑がかかりますよ」


 エリィはエリシアが平民として偽装している姿なので、あらかじめ釘を刺せなかったから、この土壇場で釘を刺そう動いていた。


「迷惑ですか? 身内は父しかおりませんが、父なら大抵のことは大丈夫だと思います」

「そんなことを言っていいんですか? 暴漢に襲われて怪我をしてしまうかもしれませんよ」

「それはご心配なく。父をご存知でしたら、そんな心配はいらないとわかると思います」


 笑顔で返すエリシアに、マーベル侯爵の使いは露骨に顔をしかめる。


「ふん、どうなっても知らないからな! 平民の分際で。そもそもお前の証言なんか信用されるわけないんだぞ!」


 実際、平民の証言は貴族の証言に比べて、法廷で軽く扱われることは日常茶飯事だった。その現状を知っていてもなお、平然と使いが言い放っていることにエリシアは苛立ちを覚える。


 不機嫌であることをアピールするかのように大股で肩を怒らせて去っていく使いに親指を立てて下に向ける。


「おっと、令嬢らしくない振る舞いですわね」


 そう呟きながらも、今は平民だからとエリシアは特に気にする様子もなく、裁判所へと入っていた。


 被告であるボンボン子爵と検察官としてクラウス、弁護人として、マーベル侯爵、それから裁判長と裁判員二名が法廷の中に入り、冒頭陳述が始まった。


「これより、誘拐および不当な人身売買についての裁判を行う」


 裁判長の一言を皮切りに、クラウスが罪状を述べる。


「――というわけだ。起訴内容に間違いはないか?」

「お、俺はやってない! そもそも証拠も何も無いじゃないか!」

「そういうことだ。まずは殿下の方から被告人がやったという証拠を出すべきだろう」


 冷や汗をダラダラと流しながら罪状を否定するボンボン子爵に勢いを得たマーベル侯爵が勝ち誇った笑みで主張する。


「では、証拠をここに!」


 裁判所の係員に、預けておいた証拠を持ってくるように言うと、係員は前に進み出て、クラウスの方ではなく裁判長に向かって口を開いた。


「裁判長! 検察側からは何も証拠が提出されておりません。証拠もこちらにあります」

「なんだと!」

「まさか証拠が何もないのに犯人だと決めつけたということですかな」

「どういうことだね?」


 裁判長と係員、そしてマーベル侯爵の表情をうかがうクラウスは、あまりに節操のない行いに唇を噛む。鈍い痛みと共に鉄臭い匂いが口の中に広がった。


 さすがのクラウスも、裁判長まで買収されているとは予想していなかった。ならばと証人を呼んでみたものの、攫われたのではなく生活苦から売られたと口を揃えて言い出す。


 ある程度は買収されていることを予想していたが、エリシア以外の証人が全員買収されているというのはクラウスにとっても予想外だった。裁判で勝つことを考えれば当然のことだが、アベル派の貴族は平民を蔑視している者が多く、全員とは交渉をしないだろうと考えていた。


「ふむ、どうやら今回の事件は検察側が先走っただけのようだな」


 勝利を確信してクラウスを見下すような視線を向けながら結論へと進む。


「くくく、証拠も証人も何も無いのでは、無謀というものだな」

「それでは、被告人ボンボン子爵の判決を――」

「ちょっと待ったぁぁぁ!」

「何だね? まだ何かあると言うのかね?」


 さっさと無罪判決を出したい裁判長は露骨に不満そうな表情で、クラウスを見下ろす。裁判長の視線を跳ねのけて、彼はゆっくりと口を開いた。


「もう一人、証人がおります」

「バカな、リストにあった者は全員――」

「いるんですよ。その日にちょうど捕まって彼の奴隷商館に連れていかれた少女がね」

「言いがかりだ! 俺は知らな――お前は!」


 クラウスに噛みついていたボンボン子爵の動きが止まる。彼の視線の先にはエリシアの姿があった。ボンボン子爵が露骨に狼狽している様子を見ながら、クラウスは声を上げて笑う。


「どうやら、知っているみたいだね。それじゃあ、証言を聞いてみるとしようか」


 クラウスに促されて、エリシアは証言台へと向かった。


この作品を読んでいただきありがとうございます。

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