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6 少し昔話 その2 八歳児はただの八歳児ではない

 大人たちから離れ、いつものように庭園にやってきたクローヴィルとアンリエッタ。

 二人は庭園を少し歩いた後、ガゼボへとやってきた。

 心得た使用人がお茶の支度をして、少し離れたところで待機する。


 紅茶を一口飲んでからアンリエッタはクローヴィルに静かに話しかけた。


「気持ちはわからなくないけど、今のわたしたちが何を言ってもお父様たちは関わらせてくれないわ」

「アンリエッタ、君は……」


 クローヴィルは戸惑った顔でアンリエッタを見つめた。

 アンリエッタは澄ました顔をし、フォークでケーキを一口取り口に運んだ。

 紅茶を一口飲んでからまた口を開いた。


「わたしたちは子供です。大人にとって守べき存在ですわね」

「それは解る。解っているけど、父の仇を討ちたいと思っちゃ駄目なの」


 クローヴィルは悔しそうに言った。

 その様子をじっと見ていたアンリエッタは静かに聞いた。


「それって本心ですか」

「えっ?」


 言われたことが判らず目を瞬くクローヴィル。


「あなたは王弟殿下と会ったことはありませんよね。それなのに仇を討ちたいと思っているのですか」


 口を開いたけど言葉にならないクローヴィル。


「わかっていないようですので敢えて言わせていただきます。報復というのは何らかの被害を受けたことにより恨みが生じ、やり返すことです。あなた自身には仕掛けられていないですわよね」

「……それでも、母や祖父母のために報復するのは駄目なのか」


 クローヴィルは少し考えて慎重に言った。


「それは報復ではありませんわ。自衛、もしくは保身、または防衛ではないでしょうか。ですがこのまま王宮で守られていれば、そこまでしなくても大丈夫でしょう。……数年間の猶予ですけど」


 アンリエッタの返答にムッとした顔をしたクローヴィルだが、付け足された言葉に目を瞠った。


「帝国は強大です。最近は少し揺らいできていると聞きますが、まだまだ倒れるまではいかないでしょう。出来ればわたしたちが学園を卒業するまでに、砂上の楼閣にしたいですわね」

「君は……」


 クローヴィルは自分が賢い方だと思っていたが、アンリエッタには敵わないのではないかと思った。

 それほどアンリエッタの言葉の裏の意味が、衝撃だった。


「少し昔話をしていいでしょうか。昔と云っても三年ほど前のことです。わたしにとって家族と同じくらい親しい関係の者がいました。その者は物心つく前から父のそばに居た者で、ずっとわたしたち家族と共にあるのだと思っていました。

 それなのに……急にいなくなってしまったのです。わたしは幼いながらも大人たちの話に耳を傾けました。パズルのかけらを探すように、何気ない言葉たちにも注意を払ったのです。

 あの者が居なくなったのは、わたしたちが生まれる前の出来事に繋がっていました。父と同様ある人の側近になるはずだった者。その方が亡くなった後、身分も名も捨てて、我が家の影として生きることを選んだ者。

 そして六年をかけてあの方の仇を討つということをやり遂げた。相打ちでなければ討ち取れなかった。それほど強い相手だったそうです。


 ねえ、その者を大切に思っていたわたしが、あの国に計略を仕掛けることは許されることだと思いませんこと?」


 微笑んだアンリエッタにクローヴィルは何も言うことが出来なかった。


 次にディナン家にきたクローヴィルは、アンリエッタと前回と同じガゼボで向き合った。


「アンリエッタ、君が何をしているのか、教えてもらうことは出来るだろうか」

「それを聞いてどうしますの」

「君の邪魔をするつもりはない。だが、出来ることなら手伝わせてもらえないだろうか。ああ、いや、手伝うなどと烏滸がましいことは言わない。そばで見守らせてほしい」

「あら」


 アンリエッタは少し目を瞠った後、コロコロと楽しそうに笑った。

 それからクローヴィルを手招きし、小声で告げた。


「わたしたちは子供ですわよ。何ができるのでしょうか」

「それでも、君は何か伝手があるのだろう」

「さあ、どうでしょうね」


 アンリエッタはクローヴィルの頬に触れるかどうかというほど顔を近づけてから離れた。

 クローヴィルは頬を押さえるように手をあてた。



 応接室に戻ってきた二人を、大人たちは怖い顔で出迎えた。


「アンリエッタ、お前は何をしているんだ」

「あら、何のことです?」


 アンリエッタは知らぬふりで微笑んで聞いた。


「この前のことも、今日のことも聞いているんだぞ。企んでいることを話なさい」

「まあ、企みだなんて。わたしはクローヴィル様のことを気に入りましたので、親しくなろうとしているだけですわ。頬にキスはやり過ぎたかもしれませんが」


 視線がクローヴィルに集中した。

 クローヴィルは頬に手を当て、顔を赤くして俯いた。

 大人たちはその様子に困惑を隠せなかった。


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