5 少し昔話 その1 第三王子の秘密
4話で終わるはずでしたが、説明不足を補完する形で続きを書きました。
少し昔話をしよう。
クローヴィルとアンリエッタは、本来なら婚約する予定はなかった。
二人はある目的のために協力関係となり、遂行するために婚約を結んだのだ。
クローヴィルは国王の第三王子となっているが、本当は現王の亡き弟の忘れ形見だ。
国王たちがまだ学生だった頃、帝国から第二王子が留学してきた。
そいつがクローヴィルの母親を見初めたと言い出したことが、事の発端だった。
普通に見初めて娶りたいと言ったのならまだ良かったのだが、妾として連れ帰ると言いだした。
普通は婚約間近で恋人がいる令嬢に言い寄ることはしないだろう。
第二王子はそれをしたのだ。
それもこの国の王子の想い人だと知っていながら、無理を通そうとしたのである。
この国の弟王子は兄である王太子と仲違いしないために根回しをしていて、それももう少しで終わり婚約できる寸前での横槍であった。
令嬢は蒼い顔をしながらも、第二王子の誘いを断り続けた。
そしてある日突然姿を消してしまった。
第二王子は王太子や弟王子に詰め寄ったが、令嬢の行方はわからなかった。
もともと令嬢の家は没落寸前の伯爵家だったので、爵位を返上してしまえば足取りを追うことは出来なかった。
学園を卒業し、第二王子が帰国した。
その一年後に弟王子の婚約発表があった。
それと共に公爵位を授かり臣籍降下することも同時に発表された。
相手は一歳下の伯爵家の令嬢だった。
この頃、王太子には王子が生まれ第二子も妊娠中ということで、弟王子が王籍を抜けても良い状態になっていた。
結婚式は一年後で準備が進められていたのだが、あと三か月と言うところで国境にて諍いがおこり、弟王子は仲裁に向かうことになった。
諍いは収まったが、そこで弟王子は暗殺されてしまった。
王家だけでなく王国民は悲しみに包まれた。
弟王子の婚約者は訃報に臥せってしまったという。
そこに帝国から弟王子の婚約者に、第二王子から求婚の手紙が届いた。
残念なことに婚約者の令嬢は心身衰弱で亡くなってしまった。
そんな中、ある侯爵家の令嬢が王宮に入った。
その令嬢は王太子に見初められたそうで、直ぐに妊娠が発表された。
控えめな性格の令嬢は王太子と王太子妃の仲を荒立てないようにつとめたそうで。
王太子妃にも認められて、令嬢は王太子最愛の寵妃となった。
ということにして、弟王子の最愛の女性は王宮深くに隠されることになった。
そして生れたのが男の子だった。
王太子の第三王子として公表した。
生まれた子が女の子だったら、もしくは王家特有の鮮やかな金髪と蒼い瞳をしていなければ、と王家の人々は願ったが叶わなかった。
病弱であるとして、極力人目に触れさせないようにした。
だが、隠して育てるのにも期限がある。
王家の者も学園に通わなければならないからだ。
クローヴィルの母親が王宮に入ってから、奥の宮に隠させるように住んでいた。
クローヴィルが生まれてからもそれは変わらなかった。
人目を忍んだ生活だったが、煩わしい社交が無いだけ快適に親子は過ごしていた。
ただ、母親の実の両親は平民になったこともあり、一生顔を会わせることが出来ないことだけが残念だった。
そんな時に、ディナン家から報告が届いた。
帝国の一番厄介な監視の目を葬ることが出来たと、王宮に連絡がきたのだ。
しばらくして王宮から馬車が出発した。
クローヴィルと母親は王宮に入ってから、初めて外出することになった。
行先はディナン家の領地。
領地で元伯爵夫妻と母は再会しクローヴィルは初めて祖父母と顔を会わせた。
そしてクローヴィルとアンリエッタも出会ったのである。
この時二人は五歳。
どちらも同じくらいの子供と遊んだことがなく、最初はぎこちないふれあいをしていた。
だが、そこは子供である。
いつしか打ち解けて元気に庭園を走り回った。
ディナン家での交流が始まって三年が経った。
ある晴れた日のこと、応接室で和やかに話している時にクローヴィルが言った。
「ディナン伯爵、僕にも帝国への報復を手伝わせてください」
虚を突かれた大人たちは直ぐに対応できなかった。
大人たちは幼い子供たちに帝国との攻防を知られないように気をつけていた。
だが、あれだけ厳重に守られていれば、聡いクローヴィルは断片的な言葉などから、自分の立場を理解していった。
そしてディナン家の立ち位置を知りディナン家の役割に気がついた。
と、クローヴィルは思ったが、立ち直った大人たちにやんわりと否定された。
そのような事実はないと。
クローヴィルはこの時は引き下がったのだった。
補足
現国王と弟王子の年齢は2歳差。
現国王は学園卒業後すぐに結婚。
弟王子は二十歳で結婚するはずだった。